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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
ラジトバウム編
50/170

#33 どんなに手札が悪くても


「取調べってどれくらいかかるんだろうな?」


 俺は半ば諦めた心持こころもちで、疑問を口にした。


「さあ……」


 ハイロの声も同じく弱々しい。


「フォッシャとハイロだけでも、ほかの町にいってカード探しを続けてくれ。どうもマールシュがにらんでるのは、俺のことっぽいからな」


「先に逃げろってことワヌか?」


 フォッシャの問いを、俺は無言で肯定する。


「ど、どうしてですか。取調べっていったって、ちょこちょこっとお話して、それで終わりですよ、きっと」


「たぶん俺はすぐには離してもらえない。……フォッシャならわかるよな」

 

 俺は自分の右腕を掴む。


 オドの反逆者とかいうのに心当たりはないが、オドの法則を守ってきた覚えもない。

 

 どうにかして強く生きていこうとあがいてきたけど、もう観念して、流れに身を任せたほうがいいのかもしれない。そんな気さえ、沸いてきたときだった。


「心配いらんワヌよエイト!」


「は?」


「マールシュはエイトのカードの実力が知りたいみたいだったワヌ。だから見せ付けてやればいいワヌ。フォッシャが応援すれば、オドも味方してくれるワヌ」


「いや……俺はたぶん、すぐ降参すると思う」


 俺の弱気な発言に、ハイロは目を丸くしておどろく。


「え!? 戦わないってことですか……!?」


「負けても逃げても同じ結果なら、最初から戦う必要ないだろ。わざわざあんな化け物じみた強さのやつと戦って、もし審官のカードを失ったらばからしいしな。なぜかあいつは俺とヴァーサスしたがってるみたいだけど……」


「で、でも勝つ確率がないわけじゃ……」


「たぶんあいつには……勝てない。ふつうに戦ったんじゃ、勝ち目はない」


「なっ!? やる前からあきらめるとは何事ワヌか!?」


「わかるんだよ、こういうのは!」


「……試合前から勝負を捨てるのはカードゲーマーとしては恥ずべきことです」


 そんなきれいごと、聞きたくもない。

 きれいごとでどうにかなるなら今こんなに困ってないって話だよ。


「エイトさんの中にも誇りがあるはずです。どんなに手札が悪くても勝利をあきらめたくない、そんな誇りが」


 俺は苛立ちを抑えきれずに、舌打ちして乱暴に扉をひらき、研究室から飛び出した。



------


 通りを歩いていると、だんだんと冷静になっていき、フォッシャたちに乱暴な態度をみせたことに罪悪感が沸いてきた。


 心なしか、町の人たちの俺を見る目がおかしい。以前は怪しむような視線を送ってきたのに、今はあきらかに軽蔑の眼差しを向けてくる上、俺を見かけるたびになにかヒソヒソと噂話をはじめる。


 それとも、気が立っているせいで俺が自意識過剰じいしきかじょうになってるのか。


 わかってる……俺は……

 マールシュに疑いをかけられて、フォッシャやハイロに迷惑かけることは、そりゃ悔しいさ。どうにもできない。

 

 だけどなにより、マールシュには勝ち目がないと、あきらめた自分に苛立ってるんだ。

 

 かしこく生きるためには棄権は正しい判断だった。トリックカードを無駄に浪費せずに済んだ上、召喚カードも売り物としてでもなんでも、とにかく残しておける。


 だけど心の中には、挑むべきだったと責めてくる自分がいる。


 路地裏で、俺はなにをするでもなく空を見上げていた。


 聞きなれた声。フォッシャとハイロの声がきこえる。

 俺を追いかけてきたのかもしれない、と思った。なんだか申し訳ないというより、自分が情けなくて恥ずかしい。

 俺は顔を合わせることもできず、壁に背中をつけて表通りに耳を傾ける。


 もうひとつ男の声がして、なにかハイロたちと話しているようだった。


「いや、見てねーな……。だがローグ・マールシュと結闘するんだってな。知り合いから聞いたぜ」


 ちら、とわずかに壁から顔をだして見ると、予選で戦ったジャン・ボルテンスが居た。


「ウワサになってるワヌか」


「まあなんつーかスオウザカエイトは注目されてたしな。オドの加護が少ないのに見事な勝ちっぷり。ミラジオンから生還した男なんて異名までついて……しかもこの俺様に勝ちやがった。良くも悪くも、カードファンの中じゃけっこう有名だったんだろ」


 町の人の俺を見る目が冷たくなった気がしたのは、勘違いじゃなかったのか。


「だが特にローグ戦の棄権は、完全に悪い影響を与えたな。ファンの人なら怒るのもムリはねーぜ。神聖な儀式を辞退したんだからな」


 神聖な儀式だって? そんなこと知ったことか! 

 俺は、俺たちは、生きるので精一杯だったんだ。他の人がどう思おうが関係ないんだ。


「なあ、お前らスオウザカの知り合いなんだよな。ならなんか訳を知ってたら教えてくれよ」


「エイトさんは……フォッシャさんのカード探しのために参加しただけなんです。だから……」


「でも棄権したのは、カードを壊されたくなかったから。か?」


「それは……」


「あいつには俺も期待してたのに、ガッカリだぜ……。町の人もみんな言ってる。『あいつはカネにカードゲーマーの魂を売った』ってな」


 返す言葉もなく、俺は壁に背をもたれ、地面に視線をおとした。


「エイトは……エイトは……」


 フォッシャの声は、震えていた。


「困ってるフォッシャを助けてくれたワヌ。一緒にカードを探すのも、手伝ってくれたワヌ。ボーっとしてるけど、カードが好きで……その人たちもあんたも、エイトのことをよく知らないからそんなことが言えるワヌ! エイトは……エイトは、誰よりもカードと友達のことを思ってる、フォッシャが会ったなかで一番のカードゲーマーワヌ!」


 その言葉に、俺は心が締め付けられるような思いになる。


「そのわりには敵前逃亡してるみたいだけどな。果たし合いは明日の昼だっけか。どうなるか楽しみにしとくぜ」


「エイトは作戦練ってるんだワヌ! 見とくがいいワヌ! ぜってーマールシュなんかボコボコにするワヌ!」


 そう言ってくれるフォッシャの期待に、できれば応えたい。

 だけど俺は唇をかみ締めて、その場から逃げることしかできなかった。


次回の更新→あした4月17日水17時ごろ

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