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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
ラジトバウム編
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#32 うごめく影と疑いの目


 それから何日か経った。

 結局精霊杯はマールシュの優勝だった。

 俺は準決勝で棄権、つまり自分の意思で辞退したものの、それでもベスト4という成績を残すことができ賞金もいただいたので満足している。


 いよいよラジトバウムを出てカード探しの旅に出ることになる。俺たちはその準備をはじめていたが、同時期街には異変が起き始めていた。


「らあっ!」


 黒い塊を、剣撃でなぎ払う。『セルジャック』という肉体強化魔法のカードで攻撃モーションを補正しており、通常より早く強い攻撃を敵に叩き込んだ。

 

 街なかに突然モンスターが沸くようになったのはついここ数日のことだ。黒い液状えきじょう粘体ねんたいのようなモンスターが、どこからともなく現れる。

 ウワサに寄れば天変地異の影響かもしれない、とのことだ。


 俺も冒険士として撃退依頼を受け、対処にあたっていた。


「おおっ! 冒険士か!」


 町民が頼もしそうに言う。ハイロが彼らの前に立って、下がるよう指示を出す。


「みなさん下がってください!」

 

 どこからでも出てくる、まるで影のようなモンスター。

 見た目はスライムビートルのようなスライム種に近い。だが液状というよりも空気に近く、生物であるのか疑わしい。さらに普通のスライムより強い、影スライムとでも呼ぶべきか。

 冒険士総出で出所を探っているが、未だに見つかっていない。


 通りの離れたところにも、影スライムがいるのが見えた。 俺がそこに向かおうとしたとき、ローグが肩のほこりでもはらうかのように、優しく剣を引き抜いた。

 次に俺が目にしたのは、影スライムが消滅していく姿だけだった。


 スライムと違う点はここにもある。本来モンスターにもオドの加護はあるらしく、攻撃によって命を落とすということはないそうだ。だがこの影スライムは強い割に防御力は弱く、簡単に消滅する。しかもその様はまるでカードが割れる時に酷似している。


 マールシュは風に髪をなびかせ、すっと剣をしまう。

 マールシュの所作のひとつひとつが見惚れるほど美しい。

 気高さが纏う空気に現れている。全身に魔力が宿っているかのようだ。まわりの町民とは存在感がまるで違う。


 今考えても、棄権したのは正解だった。マールシュの剣撃で、俺もあの影スライムのように真っ二つになっていかもしれない。


「ローグ様がいればこの町は安泰あんたいだ」


 隣にいたおじさんがそんなことを言うのが聞こえた。ローグはたしか、マールシュの名前だ。


「地下水道が獣道けものみちとつながってしまったのかもしれないわ。即刻そっこく町全体に警戒令を敷き、本部に出現ルートの調査を命じるように。ギルドにも連絡を」


「はっ」


 マールシュの言葉を受け、妖面ようめんを被ったお供の者が、こちらを向く。そいつはすぐに俺の存在に気づいた。


姉御あねご……こいつここで殺っておいたほうがいいんじゃないですかい?」


 物騒な発言とともに、殺気を放ってくる。

 声をきいた感じからしておそらく女性だろう。だが今はそんなことはどうでもよく、俺は危険を察して腰の剣の柄に手を伸ばす。


 マールシュも俺たちに気づいて、こちらに近づいてきた。


「あなたの仕業……じゃあないわよね?」


「はあ?」


 愚問だという風に、俺は調子を強めて返す。


「精霊杯……棄権するとはねぇ。ずいぶんフザけたことをしてくれたじゃない」


 マールシュの向けてくる目線は冷たいが、瞳の奥に怒りの火が燃えているのがわかる。


「またあんたか……どうしていつもそうつっかかってくるんだ」


「それはあなたに理由がある。スオウザカエイト」


 マールシュがそう言ったとき、なにかが俺のほうに飛んでくるのがわかった。手で受けると、カードだった。

 マールシュが俺に向かって飛ばしたらしく、彼女はしばらく目を閉じてから、はっきりとした声で言った。


「私と結闘してもらうわぁ」


 その場にいた人々がざわついた。俺は意味がわからず、眉をひそめる。


「結闘って……ヴァーサスするってことか? なんでそんなことしなくちゃならない」


「残念でしょうけれど、あなたに選択権はないわぁ」


 マールシュが二本の指を立てると、そこにカードが出現した。同時に、俺がさっき投げられたものが消えている。


「どうやらあなたはエンシェント式、あるいは普通の戦闘問わず、人より傷を負いやすいようね。つまりそれは、オドの加護が人より少ないことを示す」


「何がいいたい」


「オドの加護を受けていない者について考えられる条件はおおよそ3つあるわぁ。一つ、そういう体質であるから。二つ、なんらかのカードの影響。三つ、その者がオドの反逆者であるから」


「なっ……エイトさんは反逆者なんかじゃありませんよ!」


 事態を理解できない俺の代わりに、ハイロが反発してくれた。


「どうかしら? それを調べたいのよ」


「オドの反逆者……? どういう……イミなんだ?」


「……オドの法則を著しく破った者は、オドの加護を受けられなくなるワヌ」


 フォッシャの説明を受け、俺は考える。

 

 マールシュは俺をオドの反逆者だと疑っていて、なぜかヴァーサスをしたがっている。

 戦う意味はよくわからないが、つまりかなり悪い奴だと思われてるってことか?


「あなた自身に問題がなくても、あなたにはなにか不穏なつながりがあるのではないか。と、私は思っているわぁ」


 マールシュは真剣な目で言う。


「ミラジオンから逃げて生還したと言うけれど……あなたがそもそも怪しいわぁ。さすがにこれ以上は、ほうって置くこともできない。もうそういう事態ではなくなりつつあるのよ」


 こいつの言っていることはなんとなくわかった。さいきん町に出るあの黒いオーラが、俺となにか関係があるっていいたいんだろう。

 ミラジオンってたしか、よく知らないけどカードを使って悪さを企んでた連中だろ?

 俺はあいつらの仲間なんかじゃない。


「何言ってるんだ……意味がわからない。俺はオドの反逆者でも、なんとかいう連中と一緒でもない!」


「じゃあ何者だというの? スオウザカエイト」


 まっすぐに俺をとらえる目に、俺は言葉に詰まる。


「……それは……」


「エイトはフォッシャの友達ワヌ! エイトはふだんはボケーとしてるけど、根はいいやつなんだワヌ!」


 ボケーっとは余計だよ。


「そう……あなたたち二人の友情はわかったわぁ。華麗で健気でうつくしい。それは認めるわ。でも……あなたたち二人とも、なにか隠しているでしょう? 誰にもいえない危険な秘密を。ねえ、ミス・フォッシャ。ミスター・エイト……?」


 この威圧感。すべてを見透かされているような切れ味のある眼差し。

 あのお供の妖面の殺気など比べ物にならないほどの圧を感じる。


「……こうしましょう。結闘をして、私が勝ったらあなたたち二人を拘束し、しかるべき場所で取調べを受けてもらう。もしスオウザカ、あなたが勝ったなら、カード探しについて協力すると約束するわぁ。お望みなら、レアカードや莫大な賞金もつけてあげましょうか。これならそう悪い条件ではないはず」


「姉御……!」


 なにか言いたげな妖面を、マールシュは手で制す。


「もし結闘を拒否するのであれば……強制的に拘束するしかないわあ」


「失礼ですよ……ローグさん。あなたがそんな人だとは思いませんでした……!」


「失礼は承知の上よ。それでも私には守らなければならないものがある」


 ひとつだけ、わからないことがある。


「一つ聞きたいことがある……」


「なにかしら?」


「どうしてそこまで俺と闘いたがる? そこまで俺たちを危険視してるなら、すぐに捕まえるなりなんなり、なぜしない」


「戦うことも調査の一環だからよ。ミスター・スオウザカ。1000の言葉より1のカードゲームが多くを語ってくれることもある……。あなたがオドに愛されているのかどうか、すべての決定はヴァーサスの舞台でくだされる」


次回の更新→あした4月16日17時ごろ

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