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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
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#86 勝利!


 岩にもたれて座っていたノコウを、ローグがかるく肩をゆすって目をさまさせる。と、ノコウはすぐに隣で寝ていたセンに気がつく。


「めだった外傷はないけれど、意識がもどるかどうかはわからない」とローグ。


「セン様……。街はどうなりましたの?」


「見ての通りよ」


「そんな……」


「な、治す方法はあります」


「とっておきの方法があるんだけど、それにはちょっとひと手間必要でね。あなたにおいのりしてほしいのよ」


「祈り? そんなものでは……」


「お願いします、ノコウさん」


 2人に説得され、とりあえずという形でノコウは街に向かって祈りを捧げる。

 いっぽう俺はというと、まだ体力がもどってきていないのですこし離れたところからあぐらをかいて彼女たちを見守っていた。

 フォッシャがノコウの背中にかるく手をのせる。すると、緑色のオドがあたりに沸き始め街中に満ちていく。

 街の崩れた建物や道路が、みるみるうちに元通りになっていく。

 街だけではない。俺やセン、ここにいる全員のキズまで修復されていく。

 ノコウとフォッシャの力の合わせ技だ。カードだけじゃなく生物のスキルまで強化、さらに実体化させることができる。フォッシャの力には脱帽だ。


「えっへん。もう目を開けていいワヌよ」


「こ、これは……」


 目を丸くしておどろいているセン。


 フォッシャはどうだと言わんばかりにこちらを見る。俺はふっと笑って、首を横に振る。

 大したもんだよ、お前ってやつは。




 見事なまでに綺麗になった王都の街。俺たちがもどると、すぐにさわぎになって王総が駆けつけてきた。

「ローグどの、呪いのカードは止めたんですか!?」


 信じられないことがおきた、といわんばかりに王総はあわてていた。まあそれも無理もないだろう。


「見ての通りよ」


「いったいなにが……」


「そうね……オドの奇跡か……あるいは、カードがつないだ絆のちからか……」


「……!? うおおおおローグどのが災厄から民を守ったぞぉぉぉ!!! オドに愛された女神じゃあ!!」


「おおおおおおおおお!」


 ローグの言葉をうけて、民衆たちがまさしく女神を得たかのように活気を取り戻す。


「わたしはそんなに大したことは……」


「うおおおおおおお!!!」


「祝いの仕度したくじゃ! さっさとせい! 会場に人をもどすんじゃ!」


「はっ!」


 王総と民衆は勢いよくスタジアムのほうへと走っていった。


「……きいてないわね」


 そう言いながらも、ローグはやはりどこか安堵しているのか笑顔になる。


「まあでも、すこしは役立てたかもしれない……か」


 と、つぶやく。



 スタジアムにもどってきた。

 舞台ではミジルとラトリーが待っていて、こちらに気がつくなりミジルはハイロに抱きついた。その目には涙がみえる。


「すごい! お姉ちゃんが解決しちゃったの!?」


「ううん、みんなで……」


 謙遜けんそんするハイロ。ミジルはそうと聞いて俺の肩をひじで小突こづく。


「やるじゃないスオウザカ! 今回は褒めてあげてもいいわ!」


「ああ……お前もよくやってくれた」


 無事だったラトリーも、ローグフォッシャと一緒になって喜びを分かち合っている。

 会場には満員とはいかないがかなりの数のひとがもどってきていた。あんなことがあった後だってのにすごいなカード狂は。俺たちの姿をみて、歓声や拍手が沸き起こる。

 舞台にはチェイスもいた。だが端のほうで、護衛部隊の兵士たちとなにか話している。

 キゼーノの姿はない。まあ彼女らしいな。


「セン様!」


 ノコウが声をあげる。彼女と俺でセンを運んでいたのだが、どうやらセンの意識がもどりはじめたようだった。


「なにが起きたの」とセンは弱々しい声できく。


「呪いのカードが暴走したんだ」


「うっすらとだけと……なにかを見ていた気がする。じゃあ、まさかこれって……」


 センの表情がみるみるうちに暗くなっていく。


「……なんてことを……」


「お前のせいじゃないさ。約束どおり、いっしょにたたかってくれたじゃないか」


「でも……王都の町は……」


「心配しなくていい。一時的に町はめちゃくちゃになったけど、魔法がつかえるから元にもどすのも簡単だったよ。ほら、見てみろって」


 悪魔が壊した彫刻もきれいさっぱり元通りになっているし、空には美しい夕焼けが、観客席の人々には明るい笑顔がある。


「だれもなにがあったか見ちゃいない、知らない。悪い夢をみたようなもんだ。好きなだけこれからもカードゲームをすればいいさ」


 そう言うとセンの目にだんだんと涙がにじみはじめた。それらは盛大にあふれて止まらなくなり、センは俺のほうに勢いよく抱きついてきた。


「ちょ、ちょ、ちょっと!」ハイロが心配してくれて声をあげる。でももうセンは大丈夫だ。


「カードの友情ワヌ……」


「エイトならやってくれると思ったよ……くやしいけど、君こそ御前試合優勝にふさわしい」


 センは俺の耳元で言った。


「優勝か。そういう気分じゃないな、もう。カップを持ち上げる力ものこってない」


 どうにか手をうごかしてセンの背中に腕をまわすが、はっきり言ってあまり感覚がない。


「ボクの分まで……よろこんでくれないと、おこるよ?」


 センは泣きながら、笑ってそう言う。


「みなさま盛大にお祝いください! オドに捧げるすばらしい試合が、奇跡を呼んだのです!」


 王総が声高々とさけぶ。一気に会場は盛りあがって、熱気に包まれた。「うたげの準備を」とチェイスが静かにまわりに指示をだす。

 ふりかえると、うれしそうにハイロが笑顔を浮かべていた。


「エイトさん、やりました! 優勝ですよ! 災厄のカードも倒して……ぜんぶやったんです!」


 そう言って、泣きそうになるハイロ。


「そういえばそうだったわね……」


 ホッとしているローグ。


「みんながんばったワヌ!」


「そうだな……。おれたちみんなでやりとげたんだ」


「……あ、あの、エイトさん」


 ハイロが近づいてきて、こそこそと俺に耳打ちする。

 名案だな。彼女の意見をきいてうなずく。


「あの」


 とハイロはセンに話しかけ、


「センさんたちにも、カップを一緒にかかげてほしいんです。私たちみんなででやり遂げたと思うから」


「ええ!? ……ど、どうしよう」


「お願いします。わたし、センさんのカードへの気持ちが本物だったから、あのカードに対抗できたって信じてるんです。だから解決できたことをみんなでお祝いしたいです」


「……」


「いいんじゃありませんの? どうしてもと言うんですから」


「い、いいのかな、エイト……」


 センはまだどこかで迷っているようだった。

 ここは強く言っておかないとダメだと俺は思った。センには何の責任もない。むしろ最後の最後でカードゲーマーの意志ってものを見せてくれた。やっぱりこいつは尊敬できる友だった。

 重い手をあげて、センの頭にポンとなでるように置く。


「お前はよくやったよ」


「ほらほら」


 フォッシャがセンの足を押して、舞台中央へとひっぱりだす。


「ローグさん、すみません。勝手を言ってしまって……」


 申し訳なさそうにするハイロ。ローグはやさしく首をよこに振る。


「あなたたちと一緒にたたかってきて……よかったと本当に思う」


 護衛部隊たちが優勝杯を運んできて、それをハイロとセンがふたりで受け取る。その際、チェイスがローグと握手しているのが見えたが俺はあえて気づかないフリをしておいた。

 この大きなカップにどれほどの価値があるのかはよくわからない。俺は……俺はただたたえてやりたい。がんばったこいつらを。カードたちを。

 ローグの肩に乗っているフォッシャに、俺は言う。


「俺たちの信じたものは間違ってなかった。カードには笑顔を守る力がある。本当だ」


「うん!」


 ハイロとセンが美しいチャンピオンカップを掲げる。視界をうめつくすほどのカラフルの紙ふぶきが大量に打ち上げられて、俺たちの頭に降ってくる。

 歓声が沸き起こる。この日一番の盛り上がりだと思う。


 俺はふるえる手で、テネレモのカードを天高く突き上げた。

 カードを信じることができてよかった。一緒に戦ってこれてよかったと心から思う。

 変に涙がでる。なんでだろうな、でも本当によかった。


 ラトリーたちもノコウも、一緒になって笑顔になる。

 俺たちは勝った。探索のカードのため、あるいはそれぞれの目的のために、この極限の異世界カードゲームを制したんだ。


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