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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
163/170

#84 神の頭脳


 

 闇の騎兵団がセンの号令で一斉にしかけてくる。最初に狙われたのは氷の魔女だった。

 驚くべきことが起こった。騎馬兵の突撃、兵士の剣撃、弓兵の射撃を、氷の魔女は魔法をつかいつつひらひらとかわしていく。


「興味深いな……どんな手をつかった?」


 どういうことだ。俺にもわからない。このボードヴァーサスに近いルールのなかでは、敵のターン中カードに指示をだすことができないとばかり思っていた。だからこそさっきは闇の騎兵団が氷の魔法をかわせなかったのだと。

 氷の魔女には敵の攻撃をかわすようなスキルもない。

 センの反応をみても妙だ。なのになぜかわせた。

 ――そうか! 以前にもローグ戦でそういう兆候があった。ふつうエンシェントではオドを通じてプレイヤーの意思によってカードは複雑な動きを可能とする。だが氷の魔女は実体化したカード。エンシェントの戦いのなかでも自動でうごいてくれるのか。

 いくら神の知恵とやらがあるやつでも実体化の答えにはたどりつけないはず。


「さあね。神の頭脳があるならわかるだろ」


 相手のターンでも氷の魔女は独自に動ける。どうにかこれを逆転の糸口にできないか。

 センは顔色ひとつかえずに悪魔の波動攻撃で、アクスティウスを撃破した。カードが戦闘不能になり、墓地に送られていく。

 オドライフの炎が極端に小さくなる。気づかないうちに俺自身も気力が持たなくなってきていた。波動攻撃で生じた爆風を受けただけで、膝から力が抜け目眩めまいがし呼吸が乱れる。

 ふっと手の中が軽くなって、目をあけて見るとハイロが俺の手札を持って立っていた。


「私がカードを持ちます。エイトさんはそのあいだにいい手を考えておいてください」


 うなずいて、とにかく状態が回復するのを待つ。プレイヤー権は彼女にうつる。

 頼むぞハイロ。お前ならその持ち札でどう展開すべきかわかるはず。


「私のターンです。ドロー、『四つ羽のヤタガラス』を召喚。『氷の魔女』のアドバンス……」


「そうはさせない。リバーストリガー【禁術きんじゅつ呪縛陣じゅばくじん】」


 ハイロが氷の魔女でしかけようとしたとき、センがカードを切ってきた。黄色に光る魔法の円陣が氷の魔女を縛るようにつつみ、彼女は力が出せないばかりか身動きさえとれなくなる。


「どうしてかな。君たちの切ってくるカードが読める。理屈ではなく感覚で……今までにないくらい……ッ頭が冴えている……! まるで全てのパターンを理解したかのように……ッ」 


 喋る途中で頭をおさえてもがき始めるセン。

 あれが神の知恵の効果、そして副作用なのか。


「自分を見失わないで! カードゲームは破壊のためにあるんじゃ無いです!」


 ハイロが懸命にさけぶ。苦しむセンリティを姿を見ているだけで俺も心が痛んでくる。


「センリティ、お前を絶対に助けてやる」


「どうでもいい……。僕は君を倒して君より優れていることを証明する」


 ハイロはあきらめずに、ヤタガラスとエリュシオンのスキルを駆使してとうとう闇の騎兵団を半壊させるにまでいたった。

 充分な戦果だ。センが再生スキルを使うにしても、オドコストは必ずかかる。相手にディスアドを与えることはできている。


 だが、このままでは……

 なにか手はないのか。いま俺たちにできる最善の策は?


 戦況をみつめながら、頭の中であらゆる可能性を考える。

 しかしなにもない空っぽの空間に、自分ひとり立っているような感覚がする。

 おちてくるカード。

 急にあらわれたカード。

 床に散らばったカード。

 ぜんぶを手に取るが、その瞬間にカードは闇に消えていく。


「ヘハセートの効果ですべての僕のオドの負担は軽減され、何度でもスキルを使用できる。闇の騎兵はふたたびよみがえる」


 スキがねえ。間違わない。

 まるで精密機械のようだ。こちらはすべてのしかけを潰されて、

 つ……詰んでいる。


 どうあがいても終局へのルートが見えてしまっている。


 氷の魔女、四つ羽のヤタガラスがそれぞれ撃破され、墓地へ向かう。場に残されたのはエリュシオンただ1体。


「僕が捻りつぶしたいのは君じゃない。ほかのだれでもない……」


 センがなにかカードをかまえると、ハイロの身体が浮かび上がって透明な四角のオドにまるで檻のように閉じ込められてしまった。振り返ると、ローグまでもが同じ状況になっていた。

 ハイロが必死にオドの壁を破ろうと叩いているが、まるでビクともしていない。


「君のスキルをあててやろうか? 『逆境につよい』……そうだろ? よくもまぁそんなゴミスキルで僕にたてついたものだね」


「……。お前をぶったおすって能力だったら楽勝だったろうにな」


 俺は聞こえないくらいの声量でぼそりとつぶやく。


 こんなに追い詰められてるのになんでだろうな。

 カードの思い出がよみがえってくる。

 経験だけじゃない、色んな感情が。


 俺は立ち上がって、カードホルダーに手を伸ばす。


 きてくれ、奇跡を起こすカード。


 引いたのは……『テネレモ』。

 そうだな。まだここであきらめるわけにはいかない。


「テネレモを召喚。エリュシオンレコード『約束の地へ』の効果で、自然系のカード1枚につきオドシーンに3枚加える。そのオドコストで『ケセラン・パセラン』を召喚。さらにその特殊効果で手札から『アグニオン』を召喚! 騎兵団に攻撃! テネレモのアドバンス『ドレインフラワー』発動によりさらにオドシーンに3枚くわえる。そのコストを使用してエリュシオンのアドバンス発動! 悪魔に攻撃!」


 怒涛の猛攻で攻勢をしかける。テネレモエリュシオンのコンボで一気に闇の騎兵団を殲滅する。


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