#83 決戦
「エイトさん!」
戦況が苦しくなってきたとき、ハイロが水龍と共にいいタイミングで戻ってきてくれた。水龍は何体かの敵兵を魔法と体当たりで吹き飛ばしたあと、街のほうへと戻っていった。
ハイロは『フンワリラプター<錦鳥>』と『フライツリー』を出して戦線に加わる。だがあの2体のカードでは防御戦は向かず、すぐに闇の騎兵団の圧倒的な数の力で両方とも押しつぶされていた。
悪魔が筋肉質で不気味な手をかざす。魔法の波動攻撃がシャンバラとノコウに直撃し、ふたりは倒れる。
俺はいそいで彼女のそばに駆け寄る。ノコウはシャンバラを手札に戻し、苦しそうに笑みをつくる。
「最低限しか……できませんでしたわ。まだ……戦えるというなら、あなたが信じた強さを……見せてほしいものですわ」
そう言って、目を閉じて休み始めた。彼女は気を失う前に、俺の手をにぎりセンを助けるための2枚のカードを託した。
「ハイロ! トリックを!」
それだけで彼女には伝わる。呪文封じ対策のための二重発動だ。
センがハイロに気をとられている隙に、俺は天使の専門魔法を呼び出す。
「【天使のおとしもの】。俺は暴発のカードをオドシーンに加える。これでもう使えないだろ」
1枚だけ敵のトリックによる手札の損失を元に戻すことができる。
暴発のカードを取り返し、オドシーンに入れる。これでなんとかウォリアがー増えるのは防いだ。
「ジャマが多い……」
センはそう言い、また新たなカードを切ってくる。
「トリックカード……【強制ルール】!」
俺たちのいる丘のあたりが黒い霧に囲まれる。
「強制……ルール……!?」
聞いたことのないカードだ。それも災厄のひとつなのか。
センはこちらを見据えて、
「このカードは発動したとき、公平なルールを強制する。宣言しよう。おたがいにフェイズを分け、ランダムドローと攻撃を交互におこなう。またプレイヤー同士以外の攻撃は受け付けない」
プレイヤー同士のカード以外の攻撃は受け付けない、だと。
ターンごとにカードを使う、ボードヴァーサスみたいなルールになるってことか……?
どうするか間をとって考えたかったが、ローグ、ハイロともに体力の限界をむかえており相談できそうにもない状態だった。
なんにしろトワライがエンシェント領域の拡大を抑えつづけるのにも限度がある。どういう勝負になってもここで決めないと。
「その炎がプレイヤーのオドライフを示す。つまり消えるときには……決着がつく」
俺の前に青色の炎が出現する。これがオドライフを示すのか。あまり考えたくはないが、もしこの炎が消えたらプレイヤーはどうなるのだろう。
どうであれ勝つしかない。
「ゲームをしようじゃないか。カードゲームをね」
センの顔には薄ら笑いが浮かんでいるように見える。
本当におかしくなっちまったんだな。でもカードの力があればセンも救えるはずだ。
そしてこの勝負に勝つことも。
俺はデッキホルダーに手をかざし、思い切り引き絞る。
「カードはこんなことのためにあるんじゃ無い……ッ。俺のターン、ドロー!! 『アクスティウスキッド』を召喚」
久々の鬼小僧の登場だ。場にはさっきまで出されていたウォリアーも引き継がれている。すでに狼とハイロの出した2体は下げてしまった。
こちらはキッド、エリュシオン、氷の魔女か。向こうには闇の騎兵団と悪魔。どうにか兵士たちの数は減らせてはいるが、まだまだ多い。
「トリックカード【背水の陣】を……」
「スキル【賢者たちの沈黙】。トリックは使わせないよ」
俺の使ったカードは無効化されてしまう。そういえばさっき【天使のおとしもの】を使ったときに、センはハイロに対し一度賢者たちの沈黙を使っていたか。
魔法が使えないだと……じゃあどうしろっていうんだ。
氷の魔女で闇の騎兵団に多少のダメージは与えたが、魔法による強化もなしにあの軍団を全滅できるわけがない。
どうにか火力を出して、一撃でしとめなければ。いよいよカードゲームらしくなってきたな。だが普通じゃないのは圧倒的に不利な条件ってことだ。
「なにが公平なルールだよ……俺のターンは、終了だ……」
「僕のターン。儀式魔法【冥界よりの来訪】。来い、『異形の怪異ヘハセート』」
出てきたのは、形容しがたい色と色、実体不明の物と物が混ざり合って抽象的な形しかしていないカード。その姿はただただ奇妙だが、不思議とまるでホラー風味の絵画や心霊写真を見たときのような印象を受ける。
「あれは……六幻魔札のカードですよ!」
とハイロが言う。
「ただ怖いだけじゃなくて、厄介なカードなのか」
「いえ、それが……どういう災害をもたらしたのかはよくわかっていないんです。ただ、よくないことがおきる不吉の兆候のように伝えられています。なのでどういう効果をもっているのかも……」
すでによくないことは起きてるけどな。
ボード準拠のランダムドロー。それに魔法も封じられてデッキからほしいカードを呼び出すこともできない。厳しい劣勢にあるといわざるを得ない。
くわえて出てきたのは効果不明のカードか。
決着・御前試合編最終回→9月4日