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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
160/170

#81 異常事態


 天気は快晴のはずなのになんだろう、これは。

 しかもこの会場の上にだけ降っているような。


「なんの……ことだい?」


「いや、それよりセン、だいじょうぶか? 顔色が……」


「それがなんだ。ヴァーサスに集中しろよ。逃げるつもりじゃないよね」


「……は? セン?」


「どちらが上か……決めることのほうが大事だろ」


 なんだかセンの様子の変だ。体調が悪いのか、いらだっているように見える。ただ試合に負けたからというわkでもなさそうだ。


「スオウザカ! これは雨ではない!」


 観客席から飛び降りてきたキゼーノが叫び、俺もはっと気がつく。

 センの手にあるカードが不気味に光っている。

 地面をみると雨だと思っていた液体はだんだんと固まっていき、カードの形に変化していった。

 10枚、いや20枚ちかいだろうか、急に謎の雨とともに出現した何枚かのカード。観客席にもだんだんと騒ぎが広がっていっている。

 センはうつろな目で、俺たちの前に落ちた1枚をさらに拾い上げた。


「さわっちゃダメだ!」


 懸命に叫んだがセンの手はカードに吸い寄せられるかのようにすっと伸びていく。

 

 彼は生気を失ったかのようにその場に倒れた。

 そして次の瞬間、血の気が引くようなおぞましい形相をした怪物が突如として俺たちの前に立ちはだかった。怪物からはただならない威圧感と力を感じる。

 俺たちが身じろぎもできないでいると、モンスターは俺たちに向かって手をかざし闇をまとった無属性魔法の塊を撃ち放ってきた。狙いが正確ではなく俺たちは伏せるだけでかわせた。が、魔法は飛翔して会場中央部にある手札をかたどった巨大な石像を粉々に粉砕ふんさいした。


 これはいったい……なにが起きているんだ。

 試合は終わったはずだろ。まさか……


 おそらくイヤな予感は当たっていた。舞台に落ちた謎のカードのうち1枚がにぶくかがやく。


 気づくと俺たちは闇の渦に包まれ、試合会場ではないどこか別の場所に一瞬で移動していた。

 それだけではない。空は混沌として暗く、嵐の雲の中にいるようだった。

 よく見ると王都の町が見渡せる。いつだったかローグたちと来た丘だった。あたりは毒々しい霧につつまれ、ふだんとの変わりようですぐにはそれと気づかなかった。


 どうやらこの場にいるのはあのモンスターと俺のほかにはチェイスやハイロなど、さっきまで決勝を戦っていたメンバーばかりがいた。ほかにはキゼーノもいる。

 俺たちは疲労した頭で、どうにか事態をのみこもうと必死だった。

 本当にここは王都なのか。まるで悪夢か地獄のなかにいるように空気がよどんでいる。街全体が異様な景色になっている。

 あのモンスターは倒れているセンの近くにいるが、こちらだけに矛先を向けているようでセンには興味がないように見える。

 あるいは、センを守っているかのようにさえ映る。

 頭がおいついていない俺に、キゼーノが声をかけてくる。


「冷静になれ、スオウザカ。あれは呪いのカード。だが……召喚されている。まさかとは思うが……」


 キゼーノはカードを切る。ウォリアー『くらげ傘』が召喚された。


「エンシェントの領域が……ひろがっている。……おそらくこの王都全体にまで……」


 エンシェントの領域がこの王都にひろがった、だと。それも呪いのカードがやったことなのか。


「オドが異常なまでに活発化してしまっている」とキゼーノは言う。


 やはりこうなってしまったんだな。

 地面に倒れていたセンが膝に手をつき、息を切らしながら立ち上がる。


「ま……まだだ! まだ終わってない! 勝負はここからだ」


 こんなときに、やつはなにを言っているんだ。俺には全く意味がわからなかった。


「なにいってるんだ……」


「あの日のカードゲームの続きをしようじゃないか。どちらが本当に強いのか決めるんだ」


 センの目は正気を失っているように見えた。俺以外も異変に気づき始める。


「変ですよ……」


「セン様……!?」


 だがやつには俺たちの声は全く届いていない。

 あたりにオドがあふれはじめ、センとモンスターを中心にしぶきをあげながら吹き荒れる。


「これは!?」


 はじめて遭遇する状況に、俺は身構える。


「オドが暴走しているぞ!」とチェイスが叫ぶのがきこえた。


「うっ……くっ……!」


 うめき声をあげて頭をかかえるセン。いったいどうなってるんだ。


 俺の隣に立つキゼーノが、なにかトリックを発動する。【水鏡】のカードだ。センの手札をみているのか。


「1枚は文献をみたことがある。悪魔族のカードだ。だが出現時期は古すぎて詳細はわからん。……場合によってはもう1枚のほうが厄介だろうな」


 悪魔族といえばほとんどが禁断カードに指定されている危険な種族だ。

 さすがのキゼーノもこの事態に動揺を隠せないでいるようだった。頬には一筋の汗がみえる。


「……【神の知恵】のカード……」彼女は例の手帳を手に持って、つぶやくように言う。


「神の知恵?」


「そう言えば聞こえはいいが実態は……あの館のかつての主だった狂学者オアンヌスが開発したオリジナルカード。あらゆるヴァーサスのデータが詰め込まれているという。しかしそのあまりの情報量に脳は処理が追いつかず、心神に異常をきたすのだとか……オアンヌス自身が使っていた狂気のカードだ」


「じゃあ、セン様のこころは……」


「……」


 ノコウの問いに、キゼーノはただ黙っていた。


 そんなカードをセンは手に取ってしまったってのか。

 そのセンが、まるで死人のように血の気の失せた表情でカードをかまえた。なにかぼそぼそとつぶやいている。やつのかまえたカードは【悪魔の強奪】。手帳で見たことがある災厄カードのひとつだ。

 次には、俺のデッキホルダーから勝手にカードが出てきてそれがセンの手に収まる。


「トリックカード……【暴発】」


 センはカードを頭上に掲げる。その瞬間、町のほうから奇妙な光が放たれた。

 信じられないような、信じたくないようなことが起きてしまった。次々と王都の町にウォリアーが出現し暴走をはじめる。ドラゴン、獣、戦士、妖精なんでもありの狂瀾怒涛きょうらんどとうの世界と化してしまっていた。

 呆然となるしかなかった。自分のカードがこんなことに使われるなんて。 


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