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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
139/170

#62 覚めない悪夢



 目が覚めると石造りの建物のなかにいた。フォッシャもとなりで起きる。

 どうやらしくじったらしいな。まさかもう1枚あるとは思わなかった。

 天井や床、壁は固く覆われており壊すのはむずかしそうだ。先をみるとまるで迷宮のように入り組んだ道がつながっている。おそらくここがカードのなかの空間なのだろう。


「やっちまったワヌ」


「まさかもう1枚あったとはな」


「どうやったら出られるワヌ」


「手帳によれば、この迷宮めいきゅうのどこかにさっきのカードがあるらしい。それを破れば出られるんだとか」


「め、迷宮……!」


「フォッシャの力があればすぐに見つかるさ。オドの感じで、方向はわかるだろ?」


「あ、そっか。よっしゃあ、フォッシャについてこーい」


 【覚めない悪夢】のカードは一定のオド以下の存在しか幽閉できない。フォッシャもオドの抑制のカードがあるからここに入れたんだろう。

 それにしても気になるのは、どうしてあそこに2枚も呪いのカードがあるのかだ。もう1枚のほうは気絶させる効果があることくらいしかわからないが、そんな偶然あるわけない。

 ゼルクフギアより危険なことにはならないだろうと見くびっていた。だがもはや俺たちの手に負えるレベルを越えつつある。

 やっぱりだれかが仕組んでいるのか。いや今それを考えても答えはでない。目のまえのことに集中しよう。


 道を進んでいくと、人の気配がした。だれかがこちらに向かってくる。

 あらわれたのはあの男の子だった。彼はこちらを見つけて、安どの表情を浮かべた。


「エイト選手!」


 こちらに抱きついてきたので、頭をやさしく撫でてやる。こんなのはガラではないが、彼の気持ちを考えればよほど不安だったろうから仕方ない。


「あれ、でもどうして夢にでてきたんだろう」


 この少年は、これを悪夢のなかだと思ってるらしい。

 俺は少年の両肩に手をおいて、


「いいか。これは呪いのカードだ。どうにかしてここを出なきゃいけない。おちついて、ついてくるんだ。いいな?」


「呪いの、カード……!? そんな……」


 男の子は愕然となっていたが、今彼のケアをしている余裕はこちらにもない。


「ほかに人はいるか」


「みんないたけど、はぐれちゃった。死神がおいかけてきて……」


「死神?」


「そうだ、はやく逃げないと! あいつが追ってくるよ」


 血相をかえて男の子が言う。


「エイト、なにかくるワヌ」


 後方から、鎌をもって黒のローブに身に包んだガイコツの幽霊、いかにも死神という感じの化け物がこちらに向かってきていた。

 あれも呪いのカードか? 俺は氷の魔女のカードを手に持ち、うしろから片手をまわして男の子の目をふさぐ。


 魔女を召喚して牽制程度に氷の魔法をぶつける。死神は避けもせず、魔法にあたると消えていった。

 


「どうなったの?」


 と少年がきいてきて、俺は手をはなしてやる。


「この手のカードは前にも見たことがある。闇の魔法がつくりだした、ただのまぼろしだよ」


「すごい……! れーせー!」


 そう少年は褒めてくれる。まあ今までもっとひどい目に何度かあってきてるからこれくらいならまだな。


「出口にたどりつければ全員たすかる。俺たちは助けに来たんだ。さっさと出るとしよう」


「任せて! 案内するよ!」

 ポンとフォッシャは自分のむねをたたく。


「このお姉ちゃんは……?」と少年がきいてくる。


「相棒だ。コンビを組んでる」


「無敵のコンビとは私たちのことだよ」


「言い過ぎだよ」と俺は訂正をいれる。


「すごいなぁ。エイト選手みたいに、強くなりたいよ」


 歩きながら、少年はそういう。

 俺は首を振って、


「いや、冒険士になりたてのころは、ひどいもんだったよ。毎日、ボロボロになって、食べるものもなくて……。でもカードにいろんな力があるみたいに、自分にもできることはあるんじゃないかって。そう信じたくて、がんばった。今もそうしてるだけなんだ」


「そうなんだ……そんなときが……」


 意外だ、という風に男の子はおどろいていた。

 そう。フォッシャやカードのおかげで俺はここまでこれた。だからそれらを傷つけさせはしない。呪いのカードは、必ず止める。


 迷路を抜け、ついに目的のもとへとたどりついた。

 【覚めない悪夢】のカード。これを破れば外へ出られる。俺はソードオブカードを出し、【セルジャック】で力を強化する。フォッシャと男の子にはさがっていてもらい、思い切り剣を振り切った。

 呪いのカードは破れ、異空間は溶けていく。

 目をさましたときには元の廃屋のなかにいた。ほかにも閉じ込められていたのであろう20人ほどの人が意識をとりもどす。


 まずは俺たちを気絶させたもう1枚の災厄のほうを破らないと。そう思い、フォッシャに声をかける。


「フォッシャ。もう1枚のほうはどこだ」


 フォッシャはすぐには答えず、どこか困惑している様子だった。


「それが、なくなってるワヌ」


「なくなってる!?」


 やり遂げた気になっている場合ではなかった。俺はあわててキゼーノから借りた【真なる水鏡みずかがみの姿】をフォッシャの力で発動する。

 このカードは嘘をついているものを見抜く力があるらしい。変装していたり、虚言は水鏡があばきだす。


「みなさん、落ち着いてください。今回のことは呪いのカードによる事件です。もう脅威は去りましたが、このなかにカードを持ち込んだ犯人がいるかもしれません。調査をするのでその場から離れないでください」


 俺はカードを持って、人々に言う。


「質問をします。呪いのカードを持ち込んだ人はこのなかにいますか。あるいは、まだ隠し持っている人は」


 水鏡が俺の前に出現し、そこには人々が映る。だがなにも変化がない。

 

「どういう……ことだ……」


 わからずに、フォッシャのほうをみるが彼女も焦燥の表情を浮かべるばかりで事態がのみこめていない様子だった。

 このなかに犯人がいない。カードが勝手になくなっている。俺たちが閉じ込められている間に、誰かが持ち去った? つまり罠だったってことか?

 だとしてもそいつはどうやってそのカードを持ち歩いているんだろう。そもそもこんなことをする狙いもわからない。

 まるで暗闇くらやみとカードゲームをしているような感じだ。たしかになにかがうごいているのに、敵の姿はまったく浮かび上がってこない。



次回「カードの強さ」更新→あした9時ごろ

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