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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
131/170

エイトのプロローグ 暁の冒険者


―――――――――――――――――――――


 カードをはじめたきっかけは、その絵の魅力にとりつかれたからだ。


 俺にはすこし年上の兄貴がいた。兄貴とはよくカードゲームをして過ごしていた。仲の良い兄弟だったと思う。俺がわがままを言ってばかりだったけど。


 兄貴は優秀なカードゲーマーだった。大会をいくつも制覇して、世界大会でも準優勝。いつかはプロになると言われていた。


 ある日のことだった。いつものようにカードをしていると突然兄が、

「お前は大会に出てみたいって思わないの?」ときいてきた。

「僕は楽しいカードが好きだから」と自然に俺は答えたとおもう。

「そうか……おれはお前は勝負師の才能があると思うんだけどな」

「勝負師?」


「ああ。誇りをかけて戦う者にしか得られないものがある。本当の勝負師にしか、見えない世界がある」

「見えない世界……」

「見てみたくないか?」

「うーん……ちょっとは気になるけど……」


「兄ちゃんには見えるの?」


「さあな……どうだろう。でもお前と戦ってると、見えてくる時があるよ。お前はもっと強くなる。もしかしたら、俺と世界大会の決勝で戦うのはお前かもな」


「兄ちゃんにはかなわないよ」


「そんなことはない。兄弟で世界をとってやろうぜ」


 その明るい笑顔が印象にのこっている。


 兄貴はそれからほどなくして、水難事故で死んだ。


 川でおぼれた俺を助け、代わりに兄貴が命を落とした。


 俺はずっと責任を感じてふさぎこんでいた。だけど、カードだけが兄貴との残されたつながりで、兄貴の残してくれたカードが俺を励ましてくれた。まるで兄貴のように。


 それから俺は本当に世界大会をめざして、カードゲームをつづけることになる。


 『暁の冒険者』には何度も苦しめられてきた。だけど、いざ味方として使うとこれ以上なくたのもしかった。


 実力者とたたかうと必ずある、どちらにも勝敗が転びうるどちらが先に山札から切り札を引けるかという緊張する展開。

 状況は、ややこちらが悪い。だがなにかきっかけさえあれば、逆転できる。


 たのむ。来てくれ。


 そう祈って、自分の顔の汗を袖でぬぐい、手をズボンで拭いてから俺は山札に手を伸ばす。引いたカードを裏返して絵をみる。


 暁の冒険者がくれば、たちまち戦局をくつがえし、俺は勝利した。


 いつしか国内の大会をいくつも制覇して、全米選手権に特別招待されるまでになることができた。


 『暁の冒険者』はずっとその戦いを支えてくれた。一緒にたたかってきたかわりのいない存在だった。


 あのカードは俺たちの友情の証。ただ強いというだけじゃない、苦しい展開でも戦える不思議な力をくれた。


 どんな逆境にも負けない最高のカードゲーマー。


 どんなに追い詰められても、知恵と勇気で跳ね除ける。


 いつしかそんな風になれたら、このカードに見合うくらい強いカードゲーマーになれたらと思うようになっていた。


 だけど俺は、カードを引退した。世界大会を目前にして、あきらめたんだ――そうしたかったわけじゃない。そうなってしまった。あることが起きて、俺の中でなにかが変わった。思い出したくもない。一言で言えば俺は暁の冒険者にふさわしい使い手にはなれなかったってことだ。


 夢。目標。信じていたもの。そのすべてを……俺は。


―――――――――――――――――――――



次回「災厄の専門家?」更新→8月3日16時ごろ

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