#46 華々しい帰還
体中のあちこちがボロボロになった俺は、けっきょくまた入院することになった。王都の病院はきれいで設備もあたらしそうに見えた。
ずっと寝ているわけにもいかないので個室のベッドの上に横になりながら、ニュースカードで情報をあつめる。そのなかには、俺たちの試合についての記事やファンによる反応などもあった。
フォッシャ、ラトリー、ローグの3人が病室をおとずれてくれた。ローグも試合の後で疲れてるだろうにありがたい。
「エイト~。調子はどうワヌ?」
「おお。見てのとおりだよ」
「……ってその微妙そうな顔はなんワヌ?」
「このカード記事読んでみろよ」
ぽいっと手渡されたカードを見て、フォッシャは声に出して読み上げる。
「えっと……[元護衛部隊副長。ローグ・マールシュの華々(はなばな)しい帰還。期待の新星ハイロがキゼを破る大金星。御前試合一回戦……。エ、エイトとテネレモのことがどこにも書いてないワヌね」
さすがのフォッシャもこれには苦笑いだ。ローグもあきれている。
「カードファンの反応もひどいもんだぞ。みんなローグの剣技がうつくしかっただの、ハイロの判断がよかっただの……いやそりゃ良かったよ!?」
「エイトもテネレモもがんばったのにねぇ……」
「俺はいいけどさ。これじゃがんばったカードが報われないよ」
まったく、またこういうオチかい。やれやれだな。
「ま、勝てたからいいけど」
「まあまあ。ちゃんと見てくれる人はいるワヌよ」
「そうですよ! がんばってました、エイトさん。私はよくわからないけど……。早く傷が治る特製の回復ジュースをつくってきたんです! どうぞ、ぐぐっといっちゃってください!」
「えっ。ありがとう、ラト……」
ラトリーが透明の容器に入った飲み物を渡してくれた。なんだか紫っぽい緑の液体は、とてもおいしそうには見えない。
「まっず……」
案の定、ものすごく奇妙な味がした。野菜ジュースとみそしるをあわせたような感じだった。
「良薬口に苦し、ですよ」
「例の、大会にまぎれこんだ災厄カードのことだけど。私も巫女から話はきいていたわ」とローグが言う。
「そうなのか」
「そのことはこちらでも調べておくわぁ。それより、エイト……試合中、途中で様子がおかしかったようだけど。手になにかあったの?」
「……いや、昔ちょっとな……」
「カードを引退してた、という話となにか関係が?」
「……」
キゼーノとの戦ったとき起きた手の痙攣。あれは、たぶん恐怖ではなく俺の過去の記憶から来るものだと思う。
俺にとってカードは人生だった。だけどそのカードを引退せざるを得なくなった、決して忘れられないあの出来事の記憶。
「……[カードの切り傷]は、そう簡単に治るものではない、といったところかしら。次また呪いのカードと対決するときまでに、克服できていたほうがいいわね。私にできることなら手伝うわ。何でもいってね」
「……ありがとう」
まだ傷は癒えていないんだろうな。あの深い切り傷も、いつかは乗り越えられるんだろうか。
「あ! そうだ、渡すものがあったのに忘れちゃった。取ってくるワヌ!」
「いいって、また今度で。また来るのも大変だろ」
「なーに、エイトたちの努力にくらべればどうってことないワヌ」
フォッシャはそう言ってなにやら急いで帰っていった。
次回の更新→7月14日 日曜朝5時ごろ