#43 大波乱
「なかなか悪運があるじゃない」
「エイトさん……よくご無事で」
キゼーノをかわしてローグたちと合流を果たし、別の螺旋階段から上階をめざす。と同時に、すでに毒を浴びて限界に近かったベボイをすぐにカードに戻す。
と言っても、ベボイは近くにはいない。
キゼーノもいまごろ仕掛けられた策に気づいてこちらに向かってきているだろう。
あの場面から脱出する策はこうだった。まず、おそらくキゼーノがこちらの位置を把握できるのは練水探偵のアドバンス【水探査】だと考えられる。水の反響かなにかで常にこちらの場所をつかまれていたのだと仮定した。
【ロールプレイング】のカードでベボイをスオウザカエイトの姿に錯覚させ、あえて派手に動き回らせてひきつけておく。その間に別ルートをテネレモのドレインフラワーで水を除去し突破、ベボイをカードに戻して合流した、というわけだ。
しかしここからが問題だ。もう一度あのゲキリュウコンボを使われたら、次は確実に壊滅する。あの技をどうにかして防がなくては……
螺旋階段の広間に、キゼーノたちが到着する。あわよくば先に上階へと逃げ切りたかったが、想定よりも向こうの動きが早い。
「その粘り強さ……驚嘆に値する。……ゆえに、ここで決めなければならんな」
階段をのぼるこちらを見上げてそう言うと、キゼーノはカードをかまえた。
来る。あの魔法の連打が。
【大河の洪水 <フラッディング>】【濁流】【毒聖水】スキル【小落下傘機雷】。コンビネーションは、それだけでカードゲームの勝敗を決することすらある。まさにこのコンボがそれだ。
「これで……終局だ!」キゼーノが叫ぶ。
生き物のように波がうごめき、怒涛の魔法ラッシュが押し寄せてくる。
「それはどうでしょうか」
しずかに、つぶやくように僕はこう言った。
足元まで激流は迫っていたが、1枚のカードを持ち、冷静にたたずむ。
「なに……」
動じないこちらをみてキゼーノはいかにも奇妙そうな表情をうかべている。
僕は言葉をつづける。
「カードゲームには常に偶然の事故やトラブルがつきまとう。だから強いほうがいつも勝つとはかぎらない。すなわち大番狂わせがある……トリックカード、【大波乱】!! このカードは相手の魔法を強制的に2回発動させる。止められないのなら……あえて暴走させる!」
発動にともない、激流の第一波が空中で弾けて爆発し、さらに水かさを増してキゼーノのほうまで逆流をはじめた。水の流れはさながら大嵐のように、キゼーノのコントロールを離れてこの広間を暴れまわる。
「勝負はここからです」
僕は威勢よく宣言する。
キゼーノは一瞬不服そうに目を細めたが、対応は迅速だった。水龍のダイヤモンドスライドで天井に大穴をあけ、龍の背に乗ってカードたちとともに上階へと退散していく。
仕留めそこなったか。得意のコンビネーションが不発におわっても、その後の判断と切り替えが早い。だがさすがのキゼーノもこれで接近戦対策は手札が切れてもいいころだ。
ようやく風向きが変わってきたか。
すでに上階へと向かったローグたちを追い、キゼーノに連続攻撃を畳み掛けるため一気に敵への距離を詰める。城の外へと逃げられ空中戦へと持ち込まれればこちらの優位性は失われてしまう。ゼルクフギアと戦ったときのようにそういうときのための手段も用意してはあるが、なんとしても接近戦で仕留めたい。
水龍はさらにひとつうえの上階へと天井を突き破っていたが、その長い胴体はまだ残っていた。水龍を破れれば追い詰めることができる。
ここにきて初めて回ってきた千載一遇のチャンス。逃す手はない。決める。
「【逆襲<ファイトバック>】! 【クロスカウンター】! 【背水の陣<ラストコマンド>】!」
逆襲のカードは、劣勢であるほど効果を発揮する魔法。一時的だがエンシェントでは手負いだとより火力を飛躍させることができる。これを使うためにあえて毒を解除する治癒魔法は編成に入れなかった。ラストコマンドも、カード全体の力を底上げする技だ。
狼、ローグ、ハイロ、ルプーリン、この力を合わせればあの強靭な水龍ですらひとたまりもない。