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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
116/170

#42 分断


 城のなかは水で埋め尽くされていた。なんとかテネレモ、ベボイの助けをかりながら泳いで上階へとあがる。

 防具を身につけたままだったら溺れ死んでいたところだ。こちらは孤立してしまったが、おそらくポッピンスライムでハイロとローグをまとめることはできたはず。まだツキはあると思いたい。

 上階までは水の侵食が進んでいないが、だんだんと水位は増えていっている。早くローグたちと合流しなければ。


 カードを通して連絡をとる。ローグからコールがきていた。


「いい判断だったわぁ。そっちは無事?」


「ええ。なんとか。ただベボイが毒をあびてしまって……そちらは?」


「そう。実は私も毒聖水をあびてしまったらしいの」


「大丈夫なんですか?」


「不思議と気分がいいわぁ。だけど体に力が入らないのよねぇ」


「麻痺性の毒ですか。あのカードの効果はたしかウォリアーの能力値を極端に下げるというもの。ダメージ系の毒ではないかもしれませんが、長引けば不利になるのは間違いありません。とにかく合流をめざしましょう。この状況でキゼーノとやりあうのは危険です」


「ええ。それと、あのコンボの対策を考えておかなくてはね……。いま、私とハイロは上階にいる。書斎のような部屋が見えるわ。そちらはどう」


「特に目印になりそうなものはないですね。ずっと廊下が続いています」


「そう。じゃ、あなたが向かってきてくれるかしら」


「了解」


「……あなた、雰囲気がいつもと違うわね。まあ、がんばりましょう。ここまできて負けるわけにはいかないわ」


「そちらも」


 通信をおえ、テネレモを抱えて廊下をひた走る。ふと振り返ると、水滴で道に跡が残ってしまっていた。しかしどうにもできないか。服をかわかす時間もない。それに水もいずれこの階までのぼってくるかもしれない。


 急ぎつつも、慎重にすすむ。分断もキゼーノの手の内。一人になったところを狙ってくるとしたら、層の薄いこちらを潰しにくると考えるべきか。

 オドコストを惜しんでいる場合ではない。【セルジャック】を使用し、聴覚、嗅覚のレベルをひきあげる。この肉体強化の魔法は筋力だけではなく知覚まで高める。このことは使っているうちにわかってきた。


 足音と、人の気配がわずかにする。ローグたちのものではない。水の跳ねる音が、どんどんとこちらに近づいてきている。

 あえて遠くまで見渡せる広い通りに向かい、曲がり角の壁裏に隠れる。顔だけ出してのぞきこむと、遠くにキゼーノたちの姿がはっきりと見えた。あのカトゥンカイルスがサッカーボールほどに縮小化し同行していた。あのカードの図体では移動は困難だろうとたかをくくっていたのだが、期待は裏切られた。なにか魔法をつかったな。

 ここで出くわせば勝ち目はない。気づけば、床が水で濡れていた。水を跳ねさせないように抜き足で、別のルートを進む。


 しかし何度ルートを変えてみても、必ずキゼーノに先回りされてしまっている。

 背後に気配を感じ、ふりむくとスライムのような液状のモンスターが4体ほどこちらを追いかけてきていた。枚数制限があるからウォリアーカードではない。『オジャマスライムの召喚』というトリックカードのデザインに似ている。あまり攻撃力は高くなさそうだが、毒聖水と併用されていた場合厄介だ。ここは逃げるに限るか。

 スライムから逃げ、ローグたちと連絡をとりつつ城内を移動する。階段をあがって上階へいきたいところだが、スライムが行く手をふさいでいる。

 しかし何かが変だ。キゼーノといいこのスライムといい、あまりに何度も遭遇する確率が高すぎる。こちらの位置を把握しているとしか思えない。

 長年の勘が、なにかあると告げている。相手の術中にハマっているような気がする。デイモン氏との試合のときもそうだった。罠に誘い込まれているようなこの嫌な予感、間違いない。

 自分がキゼーノだとして、この状況であのスライムにさせたいこと……

 そうか、読み切ったぞ。

 スライムで俺の進行ルートを封じて孤立させ、距離をつめて挟み撃ちにするつもりか。


 だが仮にスライムはかわせてもキゼーノを突破するのは不可能に近い。審官のカードでもあれば別だが、なんとか手持ちのカードで工夫してこの場をのりきるしかない。


 やはりキゼーノのいるこの階での合流はむずかしいかもしれない。どうにかしてスライムを突破して、上階でおちあうしかないか。それでも通路構造のわからない上階で合流するまでの間に追撃をうけるリスクがあるが、そちらの選択肢のほうがアド。


 水であれば吸収できるかもしれないと考え、テネレモのドレインフラワーを発動しスライム群にあてる。が、スライムに触れた花は腐り落ちて、魔法は成立しなかった。


「毒持ちか……!」


 やはり毒聖水の効果も含まれていたか。この城全体の水が毒聖水におかされているわけではないだろうが、まだあのトリックカードの使用回数は一回残っているため厄介だ。

 ベボイのスリップギミックであのスライム群の隙をつくることはできるが、階段へのこの一本道でテネレモを抱えてあれだけの数をかわしきれるかどうか。またベボイには通常攻撃、弱衝撃魔法があるが毒の効果で火力は出せずあのスライムすらおそらく倒せないだろう。すこしでもあれに触れれば全員毒を浴びることになる。

 こうしている間にもキゼーノはこちらに近づいてきている。わずかな時間で解決策を見出さなければ。


 ふと気づいたが、スライムに当たった花は枯れたもののその周囲には魔法の花がわずかに咲いていた。床に満ち始めていた水も、花があるところだけ排水溝があるかのように水位が減っていく。

 ここに、まさしく活きるみちを見出した。


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