#33 初手、猛者
次の日の朝、練習をはじめようというとき、庭先でハイロが威勢よく言った。
「エイトさん、フォッシャちゃん。私たちのカードで、災厄から必ずみんなを守りましょうね」
「もちワヌ!」
「そうだな。大会に勝つのは簡単なことじゃないけど……実体化のカードはほうっておけないもんな。早く場所をつきとめないと……」
どんな被害がでるかわからない。やはり探索のカードが手に入るならそれに越したことはない。
「ふーん。ちょっとわかってきたよ。災厄カードがからんでるんだ……」
どこからともなく盗み聞きしていたらしいミジルがあらわれる。
納得いったという表情を浮かべた次には、ぱっと明るくなって、
「すっごいおもしろそうじゃん! どうして話してくれなかったの!? そんな楽しそうなこと!?」
てっきりハイロに危ないことをさせないよう反対するのかと思ったが、目を輝かせてミジルは言う。ハイロも「えっと……」と反応にこまっていた。
「見に……応援しに行くから。がんばってね、ハイロ」
ミジルの言葉にハイロはすこし面食らっていたが、やがてこくと頷いた。
その後、集まっているときにローグが報告を入れてきた。カードをテーブルの上に出し、
「一回戦の相手が決まったみたいよ。……嵐の予感ね」
カードの映しだす立体映像には、あの館ですれちがったキゼーノが映し出されていた。同じページに俺とハイロのことも書かれているから、おそらく信憑性の高い情報だろう。
「出てきたか……ユーディットガウス」
なんとなく嫌な予感はしていたが、まさかそれが一回戦という形で決まるとは。あれほどの猛者に対しチーム戦は初心者ばかりのこのメンバーで、果たして大丈夫なのだろうか。
「相手のスキルは?」
「スキルは判明していませんが、先読み能力に長けているとデータでみたことがあります」
「先読みか……たしかこの人、学者でもあるんだっけ。なんにせよ優れた頭脳があるのは間違いないな」
「い、一回戦からプロとあたるなんて……」
今にもひっくり返るのではないかというくらい、気の抜けた顔になるフォッシャ。
「で、でも、ガウスさんのチームのほかの二人は無名ですから! チャンスはありますよ」
「あっそっかぁ! なんだ、じゃあ大丈夫ワヌね」
大丈夫なわけがないが、気休めでもそう思っておくしかない。
しかしよりにもよってキゼーノが相手か。ローグがみせてくれた情報ページをみても、優勝候補筆頭の文字が大きく掲げられている。かなり厳しい大会になるな、これは。
勝ち目のない戦いをするよりかは、早いところ見切りをつけてキゼーノに災厄カードの事情を話し協力してもらうほうがいいかもしれない。だがフォッシャもハイロも退く気は一切ないといった風で、合理的な判断をしているのは俺だけらしかった。
だがそれこそ、ここで勝負を逃げるわけにもいかないか。
いつからか逃げ腰になっていた自分を、そうじゃないだろと俺は責める。カードゲームはこういう展開でこそ、おもしろくなるものだったはずだ。
あのキゼーノという名手とやれるなら願ってもないことだ。昔の俺ならそう考えたはず。そして今でも、手合わせしてみたいという気持ちだけは小さな火が起こるようにふつふつと湧き上がってくる。
向かっていくという気持ちを整えることはできた。あとはどれだけベストな準備ができるか、だ。もう時間はほとんど残されていない。
「まだ練習不足だとおもっているのでしょう?」
声をかけてきたのは、ローグだった。
「エイト。わたしとカードで勝負してみる?」
試合開始→6月24日月16時ごろ