表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
101/170

#28 ハイロの実家


 巫女のところを発ったあと、王都にもどる前にハイロの実家がちかいということで寄ることになった。

 このあたりはライエ地方という名前だそうで、草原などの自然が多い地帯だ。

 このハイロの故郷の町も竹のような植物や細々とした木々でいろどられている。同じ自然でもラジトバウムの毒々しいまでに生い茂ったジャングルとはちがって、さわやかな印象だ。


 街はしずかでおちついた雰囲気だ。王都のように人や馬車でごみごみしていないのがいい。どこか和風というか、のどかで実家のような安心感があり、心をおだやかにしてくれる場所だった。


 立ちよった甘味屋の席で、団子をほおばりながらくつろいでいるフォッシャたちを前に、俺は立ち上がって言った。


「御前試合に向けて、どうするか決めるぞ」


「だいじょぶだいじょぶ、ハイロもエイトもカード強いんだから、優勝まちがいないワヌ。優勝賞品の【探索】のカードさえあれば、すぐに実体化のカードの場所もつきとめられるし……まずはリラックスして……」


 まるで緊張感がないというか、団子を夢中になって食べるフォッシャに、俺は呆れて苦笑いを浮かべる。


「ハイロ、なにか案はないか?」


 とハイロに話を振ると、


「その……私なりに考えてみた特訓メニューがあって。実はここに寄ったのも、特訓のためなんです。旅人もめったにこないような田舎だから、人目を気にせず練習にうちこめます」


「おお! やっはりハイロはよく考えてくれてるな。それにしても、巫女のところといい、こうして出かけるなら前もって相談してほしかったんだけど……。俺、なにも知らなかったぞ」


「す、すみません。エイトさん、なんだかずっとひとりで忙しそうにされてたので、突然のことになってしまって……」


「ああ……そっか……」


「ええーー? 特訓!? 海水浴にきたんじゃないワヌ!?」


 まじめにおどろいているフォッシャ。どうしてこのタイミングで海水浴にくるんだよ。ほんと、この神経の図太さは尊敬する。


「どうしてこのタイミングで海水浴にいくのよ……」と、俺の考えていたことをローグが呆れながらつっこんでくれた。




 旅の荷物をあずけるためハイロの家へと案内され、ついた場所は古風なお屋敷のような家だった。建物自体が横に大きく海辺の旅館のようなおもむきがあり、やたらと庭も広い。


「なんか、道場みたいのがあるぞ」


「言ってませんでしたっけ? 実家は小さいですが、道場をやってて……」


 俺が言うと、ハイロがそう教えてくれた。中をちらとのぞくと、こどもたちが武術の稽古みたいなことをしている。その奥には大人の姿もみえた。


「もしかして、ハイロの苗字の、ウェルケンって……」


 とフォッシャがつぶやく。


「知ってるのか、フォッシャ」


「ウェルケン家って言ったら東国でも一二を争う名門の武家ワヌ」


「あらよく知ってるじゃない、タヌキちゃん。たしかに大昔はけっこう有名だったのよ」


 ミジルは笑って、フォッシャの頭をなでた。


「タヌキじゃないワヌ!」


「武家って……なんかすごそうだな」


 俺の素直な言葉に、ハイロは遠慮がちに答える。


「いえ、武家といっても、ふつうの家ですよ。冒険士向けに武術を教えたりする、ふつうの職業です」


「昔はたしかにすごかったみたいだけどね……落ちぶれたもんよ。今はカードがあれば厄介ごともどうにかなっちゃうから」


「ミジル……」


「いいじゃん、ほんとのことなんだから」


 姉妹ふたりの話のことはよくわからないが、銃が登場して侍が廃れた、みたいなことかな。


「おや、戻ったかい、ハイロ」


 道着姿の老女に、玄関先ででくわした。ずいぶん歳を召しているようだが、体を鍛えているだけあって姿勢がいい。家の玄関は、線香のような匂いがした。


「おばあ様……帰りが遅くなってもうしわけありません」


「ああ、いいよ、いいよ。それより、その子たちはなんだい? 男の子もいるようじゃなぁ……」


「た、ただのカード友達ですよ! 大会があるから、ここの敷地で練習しようとおもって」


「ほう。なんだか、興味深いご友人らですな。ま、あんたは引っ込み思案だったから、ともだちができてなによりだよ」


 ハイロの祖母が、こちらを見回す。一応俺はぺこ、と頭を下げておく。

 なごやかな雰囲気だったがミジルが前に進み出てきて、俺のほうに手をむけ、


「きいておばあ様! お姉ちゃんはこの男にたぶらかされているんです。カードのプロをめざすなんていいはじめたのよ!?」


 いやいや知りませんけど!? この人さいしょからすげえカード好きだったよ!?


「遊びでやるならまだしも、プロを目指すなんて……」


「まぁいいんじゃないかのう? ハイロが有名になったら家も繁盛するし……」


「ええぇ!?」


「まぁそういう話はあとですりゃええ。ミジル、ハイロ、お友達に失礼のないようにね。みなさん、くつろいでいってな」


 そう言って道場の方へと向かっていった。ハイロのおばあさんは、特にハイロがカードをやることに反対している様子はないみたいだな。となると、ミジルがひとりで騒いでただけか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ