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二十四話「死ななくていい」


結果として、親父さんはむせび泣きながら女子高校生に縋りつくという描写をみて、事は一段落した。

借金苦からの自殺は明確な解決法がある。それを無くせばいい。それができることは稀だが、今回はその稀な奇跡が起こったのだ。女子高生の手によって。

帰宅するためにタクシーの中でどうしても残っていた疑問を口する。


「こういうのもなんだけど、よかったのかよ、二千万も」


「んー。くらいーとか言ったけど、確かにきついかもしんない。けどね、あの病院を作ったお母さんの遺言にね、助けたいなら助けろって言葉があるの。だから助けるってだけ」


あの病院は美咲がつくったと言っていた、つまり、光は美咲の娘だということになる。なら父親はあのイケメン野郎ってことか? 優秀な遺伝子のハイブリットとなれば光の容姿にも納得できる。


「なんつーか、やっぱりよくできた奴だよな」


「いやいや。誰でも助けるなんてことしないよ。たださ、君が必死に言葉をかけようとしてるのを見たらさ。助けたくなっちゃったの」


「それはよかった、恩にきるとしかいえないわ」


「うむ。恩にきなさい。恩返し待ってるよ?」


「ああ。帰ったら昼飯奢ってやるよ」


「お? デートのお誘いかな? 年も離れていなさそうだし狙われてあげてもいいよ」


「言ってろ」


「お客さん、着いたよ」


「あ、どうも」


白髪のおじさんは腕のいい運転手だったらしい。思っていたよりも早く明美の自宅についた。


「じゃ、また今度ね」


「ああ、また今度」


タクシーが過ぎ去っていくのを見ながら、俺の体は薄まっていくのを実感した。だが、まだ消える訳にはいかない。

開けっ放しになっていた家に入ると、明美は玄関の前で座っていた。


「よう」


「お兄ちゃん、なんかふらふらしてるけど、幽霊さん?」


「まぁ間違えでもない。当たらずも遠からずって感じだ」


「ふーん。お父さん、大丈夫だったの?」


「慌てないのな。ああ、大丈夫だったよ」


「そっか」


「嬉しくないのか?」


「お母さんがね、しゃっきんが大変って言ってたの。だからお父さんが死ななとダメなんだって」


「それは子供にいうことじゃねーわな。ま、その借金は無くなったから大丈夫だ」


「しゃっきん無くなったの?」


「ああ」


「お父さん、しななくていいの?」


「そうだ」


俺が肯定してやると、明美は涙を流して、罵り合った時と同じく、いや、半笑いで顔をぐちゃぐちゃにした。


「だけどな、これからもたくさん面倒なことがある。お前がかあさんとおとうさんを支えてやれ。できるな」


「うん! ありがとう、お兄ちゃん」


明美が頷いたのをみて、俺は虹色の世界に身を投た。

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