二十一話「後悔しますよ」
姿は最初にあった頃と何ら変わらない。仕立てたスーツに細い狐目。今はその怪しさ抜群のスタイルと登場シーンからして警戒する他ない。
「いやね。私としてもこうなるんじゃないかなとは思っていたんですよ」
「そーかい。ならそのまま見守っててくれない? 神様なんだろ」
「はい、神様ですから。人々を導く義務があります。彼女が偶然にもクリアして、その願いを叶えなければ神の名も廃る。甘く見ていました、直接的ではないにしろ、間接的にこの世界線を変えてまで貴方を救おうとするとは思いませんでした」
いやこれはまいった、まいった。そんな風に喉を鳴らして笑う姿は神というより、やはり悪魔といった方がしっくりくる。
「彼女はね、五百年ですかね? まぁそのくらいの時間をかけて、少しずつ少しずつ世界線を飛び越えまして。気づいてみれば114514線なんて途方な線まできてしまいました。困るんですよ。神様の真似事をされると」
低い声で。その狐目から覗く鋭い眼光は俺を睨む。
「予防線をはって彼女にゼータを忍ばせておいて正解でした。ほんと、貴方達くらいですよ、他の天界じゃまずこんな事はおきない。少しのおいたは見逃してきましたが、こればかりは看過できない」
「他のってことはやっぱあるんだな、ここ以外の天界って処が」
「ええ。無数に。それらすべてを管轄している私の労働はもうそれはそれは。労ってほしいものです」
「それはご苦労様。疲れてるだろうから帰って寝てくれ」
「そうしたいの山々ですが、まずは、貴方を消してからにしましょう。物理的に、ね」
明美の姿は完全に黒一点。その意識は闇の中に閉ざされいるのか、無機質な顔だった。
「じゃ、やってください。私が直接手を下す訳にはいきませんから、神ですので」
「ぎょうぶ、しっごう。じない」
「は?」
機械的な音声は主の命令に歯向かい、開きかけていた門を少しずつ動かした。
「んー。これはどういうことでしょう」
「いっで、おにいじゃん」
最高の妹だよ。お前は。
「ほんじゃ、行ってきます」
開かれた門の中に自ら飛び込む。視界は虹色に代わる。
最後に聞こえた声は後悔しますよ、その一言だけが薄れゆく意識の中ではっきりと聞こえた。




