二十一話「神」
「あの時、私はもう全部がどうでもよくなって自殺しちゃった」
思い出された見たくない過去。
「でも、私が死んだことには後悔とか特に無かった。でも、問題はその後。お兄ちゃん、私を追うように自殺しちゃうんだもん」
そうだ。俺は明美が死んで、途方に暮れた。家族関係は見事に崩壊。家族の関係性などこの時はどうでもよかった。朝起きた時におはようの一言、楽しそうにじゃれてくる明美の顔。それら全てを失った喪失感だけが俺を襲った。
「俺は、耐えられなかった。自分のせいで死んでしまったとか、そんな自責の念もあったけど、なによりも、明美がいないって現実が無理だった」
「うん。ずっとみてたからわかる。本当はお兄ちゃんみたいに、好きな人生をーって思って私は教務をこなして、一年で偶然にもクリアしたの。でも、その時に聞いたの、お兄ちゃんの未来。それを聞いてどうしようもなくなった、だからこの地位になったの。私はお兄ちゃんしっかり生きてほしい」
「てことは、前話してた一年でクリアした奴ってお前かよ。なんつーかハイスペックだなほんと」
「だから偶然だってば。本当に偶然。お兄ちゃんヘタレだから私が助けてあげないとね!」
「ヘタレっていうけどね、お前も随分ヘタレだろうが、俺に振られたくらいで死ぬなボケ!」
「振られてないもん! 答えてさせくれなかったじゃん! このチキンっ」
「あーチキンだよ、告白すらまともに聞けないチキン野郎だ! それの何が悪い!」
「まさか開き直る気? ほんとそういうところ直した方がいいよ!」
「そんな奴を好きになった奴は誰だろうなぁ」
「私だよ! チキンでヘタレで性格が悪くても、私にとってはヒーローだもん!」
お互いいがみ合い、目を釣り上げて睨む。でも、ここまで言い合ったのは随分久しい。本音でぶちまけて、笑い合う。
「ま、そういうことだから、ヒーローらしく、助けて、お兄ちゃん」
泣きながらも笑う、そんな器用なことを俺も、明美していた。
「任せろ、といいたい処だが、次の自殺者とめてどうなるわけ」
「そこは任せろ、だけでいいんだよ」
腕を広げて、何語かもわからない言葉を紡ぎ始める。
「おま、まさか」
足元にはやはり、門が開きはじめ、それと同時に明美の姿は変わっていく。何かに包み込まれる様に、その姿が俺を襲い掛かってきた奴の姿へと。
「おい、これどうなって」
「ご、れ。ふぃー、れ、あだなが」
開きかけていた門は半開きで止まり、明美の後ろに一人の男が現れた。
「あ、どうもどうも。お久しぶりですね。改めまして、神です」
ラ・フィール。神がそこに降臨する。




