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二十話「じゃあね」


その日は猛暑だった。もう蝉は死に絶え、夏の終わりといってもいい頃だったのに、思い返した様な夏の暑さ。

リビングでクーラーをガンガンにきかせて、地球温暖化上等という体制をしいていた。


「おにーちゃん、あつい」


「おー妹よ、俺も同じことを思っている、だから抱き掴んでくれ」


「えーー」


頬を膨らまして抗議してくる明美。兄妹になって随分時間は流れ、お互い本当の兄妹といってもいいくらい打ち解けた。明美は随分器用で家族の関係性も、明美によって保たれていると過言ではない。


帰りの遅い父。仕事人間だから自宅にいるのは寝ている時か、休日の日ぐらい。それを理解できない母。新婚したばかりはもっと親密な関係を築く時間だと思っていただろうに、父はいない。実際、新しい生活が始まって三か月もたてば崩壊の兆候をみせていた。


母は若い男を連れ込む様になり、父はそれに気づきながらも知らないフリをする。それが、高校生になったいまでも家族として過ごしていけているのは明美という存在に他ならない。何かと亀裂が入りそうになったら仲介に入る。俺にはそんなことはできない。


「ほんと仲いいよね、嫉妬しちゃうなー」


俺の隣に座る高校からの友人。


「まぁね、お兄ちゃんと付き合いたいなら私を超えて見せなさい」


「むむ、最大の壁は妹であったか! アイスを献上しますのでここは一つ」


「苦しゅうない。でもだめ」


「ダメもアリもない、由香里も雑な流れをつくるな」


「はーい。あ、真也くんさ、今度プール行かない? 新しくできるんだって」


「いいけど」


「ほんと! いつ行く? 私はいつでもいいですしおすし!」


「あー、なら明日行くか」


「私も行きたい! 二人だけずるいよっ」


急遽決まったプールで遊ぶことに対して明美は不満気味だった。自分だけ仲間外れにされるのは誰だって嫌だろう。


「んじゃ、お前も行くか」


「行く!」


さっきとは打って変わって楽しそうに笑う。それに相対する様にして、由香里は沈んだ顔をしていた。


「そうだね、一緒いこっか!」


だが、それも少しの間だけ。また先程までの笑顔に戻る。

何で暗い顔をしたのか、わからないほど鈍いつもりはない。高校に入学してから今まで。男女の仲だ、家にあげたりするのは友情だけのつもりじゃないし、自分で云うのもなんだか、煮え切らない態度に愛想をつかさずに一緒にいてくれる由香里のことを好む気持ちがある。


「あー、ま、でも二回に分けていくのもいいよな。明美とは母さんと、父さんは難しいだろうけど、誘っていくってのもありじゃね」


「え……あ、うん。そうだね」


相当無理のある話運びだとわかっているが、そこは明美が空気を読んでくれた。


「つーわけで、明日二人で行くから、その、宜しく」


「……うん!」


「あー眠くなってきたわ。いや眠い。俺昼寝するからもう帰れ」


「ちょ、酷くない?」


「新しいエロい水着買って俺を楽しませろ」


「それはもう酷く過ぎる! ふん、私の魅惑のボディに失神しない様にすることね!」


「魅惑(笑)」


「もー! 明日覚えてなさいな! 明美ちゃんまたね」


「うん、またね」


お互いまともに顔を見れなかった。俺が二人で行こうとしたことは伝わっているだろうし、それで向こうが照れているのも、チラチラと伺っていればわかる。これが青春というやつのなのか。


ドタバタと帰っていくのを見届けてから、俺も眠いといった手前、ここにいるのも気まずい。自室に戻ってゲームの続きでもしよう。


「お兄ちゃんさ、由香里ちゃんと付き合うの?」


「は? 別に付き合ってねーし、まだ付き合ってねーし」


俺のおどけた返しに、明美は瞳に涙を浮かべて言う。


「そっか、いいんじゃない?」


「え、いや」


「私ね、お兄ちゃんのことが好き」


「あ、ああ。俺も好きだぞ」


「違う、違うよ! 兄妹としてじゃなくて、異性として好き! デートもしたいし、キスもしたし、エッチもしたい!」


それは悲鳴に近い叫びだ。


「おま、女の子がそんなこといったらいけません!」


「もう中学生だもん」


「いや、そのあれだよな。はぐらかすってよりあれだあれ」


「好きです、付き合ってください」


真っすぐに俺をみて、手を指し伸ばしてくる。

いやいや、待ってくれ、こんなのおかしい。俺達は兄妹で、家族で、明美は家族でいられるためには必要な妹で。


「あー、これってあれか、ドッキリか! もうやめてくれよ、普通にわからんわ!」


あははとわざとらしく、大きな声で笑う。


「逃げるんだね」


涙を流しながら過ぎ去っていく。それを直ぐに止められればよかった。腕を掴むために動くことができない。思考が停止していたのだ。

大分遅れて動くようになった体は、外に出て行った明美を追いかけた。

自宅を出て、三つ目の曲がり角。少し進んで、二つ目の交差点。信号機は赤色に点滅している。


「明美!」


明美は此方に振り返り、一言。


「じゃあね」


道路の真ん中、大型トラックが明美の姿を消し飛ばした。

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