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よろしくお願いします!
それから三日たった学園で、
「おはようセツナ……。今日はちゃんと来れたんだな」
引きつる顔を無理やり笑顔に変え、王族であり、この学園の同級生である彼を迎えた。
「ああ。朝起きざまにベッドの端に小指をぶつけ、掃除していたメイドが誤ってこぼした水に足を滑らせ、王城の階段(約三〇段)の頂点から落っこちて、馬車に乗ろうとすれば、たまたま飛来したハチに驚いた送迎用の馬車の馬に足を踏まれ、馬のそれを敵対行動ととったハチになぜか俺が顔を刺され、学園に着いたら、突然現れた筋肉ムキムキの酔っぱらいの男のからまれ、逃げようとダッシュしたら花瓶を持った女生徒にぶつかって頭から水をかぶったが……」
それのどこが無事なのか問いたいが、
「とにかく、三人の治癒術師に治療され、今日は無事にここまでたどり着いた!」
満身創痍だが、やりきった感のある満足げなセツナを見て口を閉じた。
きっときっと、昨日も一昨日も、学園にたどり着けないほどの不幸に見舞われていたのだろう。
王族が呪いを受けた!
なんて醜聞が広がらないよう、箝口令を敷いているのだが、
まあ、セツナが王宮の治癒術師を三人。
宮廷魔術師を五人も連れているので、そのうち噂になるだろう……。
あれからモーリーは、占いの館も引き払い姿をくらませている。
一応、僕の影にもさぐらせているのだが、まだこの王都にいるというだけで消息は不明だ。
「まったく! 王族直下の影の部隊は、いったい何をやってるんだ! うぎゃ!」
自分の席に……着こうとして乱暴に引いた、バランスを崩したイスが倒れ、イスの足が尻に直撃。
「ぬぐぐぐぐ……ぎゃん!」
何とか這い上がって座るセツナが、机を無事な方の手でたたく。
王族お抱えの影も動いているようだが、残念ながら侯爵家の影のほうが二枚も三枚も上手だ。
ちなみに彼の最後の悲鳴は、叩いた机の上にたまたまこっろがっていたペンが、机を襲う振動で跳ね、放物線を描いて彼の目に刺さった悲鳴だ。
「のひゃあぁぁぁぁ!」
痛みでのたうち回るセツナが、たまたま足元に転がってた魔力回復薬の空き瓶で足を滑らせ転び、その振動でなのか?
崩れた天井の一部が、仰向けに倒れていた彼の股間を直撃。
「ぬふおごあががががあぁぁぁぁぁ!」
およそ人ならざる声を上げ、股間を押さえてぴくぴくしているセツナに、 感情移入した数人の男子生徒が、思わず自分の股間を押さえた。
そんな彼に、僕はそっと近づき、
「セツナ。これならお前、喜劇役者として生計建てられるぞ」
そう優しい言葉を掛けてやった…………。
「それにしても、これは…………」
あれからさらに四日たった学園に、セツナが登校してきたのだが……。
「ふごっ! ふごふごふごっ!」
全身包帯だらけで、ベッドごと運ばれ来るのが日課になった。
「これは……いいかげん、四天王が見つかるまで城に引き籠ってた方がいいんじゃない?」
そんな僕の優しさ溢れる忠言を、
「ふごっごごごご! ふごっふご、ふごっごごふごごふごごごごご!(バカきさまは! 俺はミナに、愛するミナに会いに来てるんだ!)」
なんて、乱暴な言葉で言い返された。
まあ、別に良いんのだけれど……。
でになんか、こいつ生意気なので、
「あ! 空に裸の女性が!」
「「「「「ええええ!!」」」」」
護衛や治癒術師が視線を外した一瞬の隙をついて、
「重力増加魔法!」
彼に重力が二倍に感じる魔法を掛けてやった。
ただそれだけだったはずなのだが、
え? 大丈夫!
僕が力を使った後は、ちゃんと治癒術師とマリアーナが治してくれるから!
そんな僕の茶目っ気溢れる悪戯だが、
ドコッ!
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「「「「王子!」」」」」
たまたま、床が傷んでたのか?
セツナが寝ているベッドごと、下の階に落っこちて行った。
まあ、そんな些細なことはともかく、気になるのはミナの動向だ。
セツナはミナに会いに来ているといったが、ここ数日彼女は学園に姿を見せていなかった。
もしかして、また人類を裏切るのか?
そんなことを考える僕に、
「アッ! ルウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
いつの間にか現れた姉上が、いつものように勢いよく抱きついてきた。
「ぐびぐびっ! エクストラハイヒール!」
即座に、その衝撃で粉々になった僕の骨たちを、即座にマリアーナが治す。
「二時間一二分ぶりですアル! おねえちゃんに会えなくて淋しかった? 悲しかった? 結婚したかった? それよりなにより既成事実を……」
いつもの正常な姉上の態度に見えるが、実は姉上が平時に僕から二時間以上離れているのは、異常な事態なのだ。
「それで姉上。今度は何をしようとしてるんですか?」
絶対何か、楽しいこと(姉上にとって)を考えてる瞳に問うが、
「あらあら? それはいくら私が愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して止まない愛弟でも、ここにサインしてくれなくては言えませんわ!」
「うん。それ婚姻届ですよね? 血迷っても僕はサインしませんし、例えしたとしても教会が許さないでしょ?」
そんな僕のツッコミに、
「あらあら問題ないですわ! すでにあの教会の最高司祭は……」
「お願いだから教会仕事して! 女神様に謝って! ちゃんと人の理を説いて!」
教会関係者に、切に願う僕の耳朶に、
「お前今、俺を落としたよな! 俺をこの三階から地下二階まで落としたよな!」
なぜかさっきより回復してるセツナが、それでもベッドごと戻ってきた。
「まあいい。お前たち、ミナがいつ来ても良いよう、入り口付近にベッドを移動しろ!」
寝たきりなのに、どこか喜々としたセツナの命令をため息混じりに応じる、きっと城内では偉いのであろう近衛騎士がベッドの移動を開始する。
「うん。命令に忠実なのは良いけど、そこにいると……」
「おろおろ? じゃまじゃのう?」
登校してきたヒルダに、
「氷の架け橋」
「ひえぇぇぇ!」
全身を凍らされて橋にされたり、
「あらあらアル! 二分三〇秒ぶりですわ!」
いつの間にかお花を摘みに行って戻ってきた姉上に、
バリバリゴリゴリ!
「物理的に粉々にされるよ?」
「……………………」
返事が無い。
ただの屍のよう……だが。
「うううっ………………王子、なんでまだ生きてるかな……」
「あそこから落っこちて……生きて……王子死亡ってことで、新しい任務に付けると思ったのに……」
うわ、今まで表情一つ変えないで任務に就いていた近衛騎士だが、|彼の不運《ヒルダと姉上の攻撃を受け》いいかげんうんざりしているようだった。
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年末だからか?
みなさんキップが良いようで、ブクマありがとうございます!
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