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 閑話:姉上の決闘というか、やや、いやほぼ戦争? と言う名のお見合い(後編)

「あらあらアル! こんな所で会うなんて! やはり私たちは運命の赤い糸で……」

「いやいや、姉上? 赤い糸より、その赤く染まった拳はなんですか!? まさか! どこかで転んで擦りむいたんじゃないですよね?」


 あの頃は、姉上の身体能力を過小評価しすぎていて、


 また、王城の天辺から飛び降りて、膝小僧を擦りむいたのかな?

 とか、

 また、オモチャのスコップ持って、深淵の森に魔物退治に行って擦り傷作ったのかな?

 なんて心配したんだ。

 してしまったんだ!


 そんな僕の心配そうな顔を見て、物凄く満足そうな姉上は笑みを浮かべ、


「あらあら? これはただの返り血。私はまったく怪我なんてしていませんわ」


 その場で優雅にクルリと回って見せる姉上。


「そうですか。姉上が無事で何よりです!」


 姉上の身を心配するより、姉上が何をしたかを気にすべきなのは分かるのだが、

 無礼な王子がいる見知らぬ国のことより、身内の方が心配なのは万国共通だと思う。

 


 とにかく、

 あの時の僕は、姉上が無事だったことに安堵し、


 隣国の王族がボコボコに顔を腫らしてたとか、

 隣国の王族貴族の横暴に、市民が決起したとか、

 隣国の王都が炎に包まれてたとか、


 そんなこと夢にも思わず、突然降って湧いた姉上(いつものこと?)の無事を喜んでいた。


 まあ、そんな感傷は、姉上の次の言葉でさっと消えたんだけど。


「あらあら、お初にお目にかかります。あなたが今、絶賛自国の王城が燃えているのに、無駄に兵を割いてこの地まで来た、私の求婚者(え? 自国があんな酷い状態なのに、わざわざお見合いってだけで、こんなに人を連れてくるなんて……バカなの?)」


 え? なんだか姉上の心の声が聞こえた気がしたが……。

 多分、気のせいに違いない。


「え? それより、ソンザエルの王城が燃えてる? いやいや、僕、そんなこと指示してないけど!?」


 そんな僕の訴えを、満面の笑みを向けてスルーした姉上は、


「…………あらあら? アル。この頬の傷は何ですの?」


 そっと、いや、恐る恐るといった感じで、僕の頬をそっとなでた。


 そう言えばソンシに頬を浅く、ほんの薄皮一枚切られたんだ。

 まあ、それぐらい…………。

 そう思ったあの時の僕は、後で物凄く……でもなく、後悔?

 いや、それほどしてないけど、何となく分かった気がしたんだ。


 姉上を怒らしてはいけないと…………。


「あらあら? 私の愛して愛して愛して止まない愛弟のアルに、こんな傷を負わせたのは……いったい誰なのでしょうね?」


 質問しているはずの姉上が真直ぐにソンシの顔を見たので、表情はうかがえなかったが、


「ふひっ!」


 ソンシが馬から転げ落ちるほど、腰を抜かし地面に転げ落ちた所を見ると、

 まあ、そう言うことなのだろう。


「あらあら? 私を無理矢理側室にしようとしただけじゃなく、私の愛して×一〇 止まないアルに傷を負わせましたか……………………どうやら国を潰したぐらいじゃ、割に合いませんわね?」


 うん?

 国を潰した?

 そんなこと、例え姉上でも……出来るかもしれない!


 そう思い、姉上に声を掛けようと手を伸ばしたのだが、


「私のアルに! 何してくれてんのよ!」


 伸ばした指先には、姉上はすでにいなくて……。


「ぐひゃっ!」


 地面に転がっていたソンシの頬に、姉上の拳が突き刺さっていた!


「ぐおろろろろろろろろろろ」

「え? へっ? ……………………きっ、きさま! 王子に何をしてるんだ!」


 反動でソンシの体が地面を一〇回転半転げまわって止まると、数秒遅れで反応したきっと近衛騎士の一人がガッと腰の剣に手を掛けた。

 のだが、


「ぎゃひんっ!」


 瞬く間に宙に飛んで星になった。


コレ(バカ王子)は……まあ、後でお仕置き確実決定なのですが、アルに傷を負わす禁忌を犯すのを止めず、ただ見ていたあなたたちにも…………責任はありますわよね?」


 声は軽いが姉上の背から、なにやら物凄くヤバい物を感じ、


「全員退避! 息の続く限り全力で逃げろ!」


 そう叫ぶのだが、

 僕の声が響く前に、すでに我が精鋭部隊は僕を逃がすための竜騎兵の一部隊を残し、小石ほどの大きさになっていた。


「さすが精兵。逃げ足も素早い」


 頼もしい? 彼らの後姿を見送った僕は、竜騎兵たちに退却を指示し、その場に残った。

 彼らは一応に心配していたがそれは杞憂ってもんだ。

 だってどんなに怒っていても、僕の姉上が僕を害するはずないんだから。



 その後、ほぼ僕の予想通り(地獄絵図)の展開だった。


 姉上のお仕置きに、


 泣きながら逃げる者。


 土下座して天に許しを請う者。


 やけくそで姉上に刃を向ける者。


 まあ、その全ての者が例外なくトラウマレベルのお仕置きをされていた。

 ある者は、


「俺が押える! その隙に距離を……」

「あらあら? か弱い令嬢の私に無理矢理抱きつこうなんて、あなたもしかして……性犯罪者?」

「何を言ってる! 俺は地獄の特訓を生き残った、ソンザエルの近衛……」

「あらあら? それではフォークより重い物を持ったことのない私のデコピンなんて、蚊に刺されたようなものですわね?」

「そんなもの……ぐぎゃ!」


 自己犠牲覚悟で飛び込んだソンザエルの近衛兵は、微笑む姉上のデコピン一発で意識を刈られ、


「あらあら、あなた。整った顔立ちをしてますのね?」

「はは! 俺に惚れたかい? それなら……」

「あらあら? せっかくなので、美男子とブサイクの境界がどこなのか、試してみましょう!」

「え? え? ぐぎゃ! や、止めろ! 集中的に顔を……みぎゃあぁぁぁぁ!」


 将来有望だった天才イケメン騎士は、彼の存在理由(アイデンティティー)をボコボコにされ、


 さらに、


「うろたえるな! 相手はたった一人だ! 落ち着いて囲めば……」


 素早く指示を出し、体勢を整えようとする近衛騎士団長に対して、


「あらあら? 影に調べさせたら奥様は……で、チョメチョメで、××××でしたので、てっきり……。それに…………」


 いつのまにか、彼に接近し、耳元で囁く姉上に、


「ぐはっ! う……うわぁぁぁぁぁん! もうボクお家かえる! やっぱやだ! 真実なんて知りたくない! うわぁぁぁぁぁぁぁん!」


 バキボキに心を折られた団長が、やや幼児退行しつつ前線から離脱した。


 この時点で、ソンザエルの軍はほぼ瓦解していたのだが、


「あらあら? 本番はこれからですわ!」


 どうやら僕を直接傷つけたソンシのお仕置きは、特に念入りにするらしい。


「はい。まず一回目ですわ!」

「な? 何を!? え? え? ぴぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 上品に口元を押さえて笑う姉上が、手に持つ扇子(鋼鉄製)でソンシの全身の骨を粉砕。

 さらに、


「はい。これをお飲みになりなさい」

「ぐびぐび! おお、これは……」

「はい。二回目ですわ!」

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁ!」


 ソンシの傷は、姉上にエクストラハイヒールポーションを飲まされ全快。

 そしてまた全身の骨を粉砕。


「もうゆるじで! ゆるじでぐだ……」

「あらあら、はい。もう一本」

「ぐびっ! ぎゃあぁぁぁ!」


 それからソンシは、このやり取りを両手の指の数ほど繰り返された。


 唯一の例外と言えば、一度ソンシがポーションを飲むのを拒否し、それにイラついた姉上が地面を殴り、半径数キロメートルに及ぶクレーターを作ったことぐらいかな?


 さらにそこから地下水がわき出て、お仕置きのせいで身も心も折られ、身動きの取れなくなったソンザエル兵士を、慌てて呼び戻した竜騎兵たちに救出させたぐらい。


 ちなみにそこは、女神(姉上)が一日で作った『奇跡の泉』として、我が領地の観光スポットとして新たな資金源になった。


 とにもかくにも、姉上のお見合いは、そんなこんなで幕を閉じたのだった。


 

 確かにそんなことがあったな……。

 なんて、記憶が薄れ始めた二週間後。

 僕はソンザエル王国滅亡した報を聞くことになる。

 表向きの報告書には、


『ソンザエル王国は女神の怒りを買い、王城を女神の光りで焼かれた』


 っとあった。


 まあ、レアメタルを採掘するのに森を焼き払い、そこに住む少数民族を迫害し、さらにレアメタルの輸出を盾に、他国に不平等な条約を押し付けたりしてたみたいだから、どの国もそれで納得したようだ。

 もちろん腐敗しきってたソンシを含む王族や貴族は、財産没収の上放逐。


 そしてソンザエル王国は、なぜかシュタイン王国のタリスマン領土になったのだ。

 

 理由は、腐敗して民を苦しめる王族貴族を張り倒し、その象徴である王城を破壊し尽くした女神が、姉上にそっくりだと理由で、良識あるソンザエル王国の国民の意見が一致したからだそうだ。


 それにあの国……いや、もうタリスマンの領土だから、ソンザエル地区と言った方が良いのか?

 では、近年、民を救ってくれた女神(姉上)の劇が公開される予定だとか。


 そんな理由で領土の配分決めちゃって、この国大丈夫なの?


 そこら辺は、父上がどうにかしてくるようだ。

 なんでも、ここ数週間、寝ないで頑張ってくれているようだ。


 後で何か、疲労に効くものを届けておこう。


 それよりなにより、今の僕は、この危機的状況から逃げ出さなくてはならなかった。

 それは、


 「あらあら? アル? どこにいますの? ちょっと、ほんのちょっとあなたに名前を書いてもらいたい書類があるのですが……」


 結婚証明書を片手に、タリスマン家ご自慢のバラが咲き誇る庭を、優雅に、だが高速で駆け抜ける姉上が僕を探しているからだ。


 誰か本当に、姉上を嫁にもらってくれる奇特(危篤?)な人は現れないだろうか?

最後までお読みいただきありがとうございます!

調子に乗って長く書きすぎた閑話もこれでおしまいです。

本編もがんばりますので、引き続き応援よろしくお願いします!


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