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「あらあら、親子ゲンかなんて余所でやって頂けませんか? それより私、シルって愛称は、旦那になる予定の弟と恋弟と愛弟と、お母様と、稀にお父様……。家族にしか許していませんの。他の、しかも殿方にそう呼ばれるのは……少々気分が悪くなるのですが……」
…………どうやら姉上は、この場を収めるなんてどうでも良いと思ってるようだ。
それに対し、フレンドリーだが威厳とか尊厳とかを纏わせた国王は、イスから立ち上がると……。
「す、すみませんでした~!」
素直に腰を直角に折った。
王族の威厳どこ行った?
「いえ、別に……気分が悪くなるだけで、不快と言ってる訳では無いのですが?」
「姉上、それはほとんど同義語です」
思わずツッコんだ僕を見た姉上の瞳が、
きら~~~~ん!
っと光ったかと思うと、
「アルゥゥゥゥゥ! さっきのアレ! 侮辱された愛する姉のために、国家権力に立ち向かう一人の弟! さいこ~~~~~~~~にカッコ良かったです!結婚? 結婚ですか? それより先に既成事実を!」
いつの間にか僕を抱きしめる姉上。
やはり王子に致したアレは、彼女の中で膨張していたようだ。
「子育て、既成事実、結婚、婚約……さあアル! これから忙しいですわよ!」
「逆! なんか行程が思い切り逆だから!」
「あらあら、逆ならば、アルは良いとおっしゃるのですか?」
「誰もそんなこと言ってないよ!」
「アルのそんなクールなとこも大好きですわ!」
「ありがとう。でも、結婚とか婚約とかしないから!」
「もう! アルってば、どこまで私を弄ぶのです?」
指先を唇に当て拗ねる姉上は、とても魅力的だと思うが……僕は姉上の弟なのだ!
そう、改めて決意した僕の耳朶に、
「なぜです父上! こんな弟狂いの女に、なぜ、これほどまで固執するのです!」
ちょっと間抜けな王子が、国王を問い詰める声。
周りの人間からは『そんなことも知らずに、今まで婚約者やってたの? ねえ、バカなの? 勉強の出来るおバカちゃんなの?』っと心の声が聞こえそうだ。
「…………」
困った様に僕に視線を向ける国王に、
『説明しても良いけど、こいつ、僕の言葉を信用しないよ? 面倒臭がらずに親なんだから自分で説明しろよ!』っと、アイコンタクトを送る。
「ふむ。それならしょうがないか」
それで国王は観念したようだ。
「はぁぁぁぁぁぁ。ではセツナよ、貴様に問うが、一年前の『トウラ戦役』と『アシャンテ防衛線』の、本当の立役者を知っておるか?」
国王は盛大なため息とともに、淡々とした口調で問う。
『親の心子知らず』
国王の心労を知らないバカ王子は、得意げに笑みを浮かべ、
「もちろん知っています。トウラでは勇者が魔物の群れを駆逐し、アシャンテでは勇者とその仲間が力を合わせ、数千の魔物から町を守ったと言われてます!」
などとのたまわった。
まったくもって、このバカは使えない。
やはりランクを元に戻し、バカ王子で十分のようだ。
国王は教科書に載ってることを聞いたんじゃない。
本当の立役者は誰かと聞いたんだ。
「はぁ……ここまでバカだったとは……」
自分の子供のバカさ加減に肩を落とす国王に、僕は哀れんだ瞳を向けるので精一杯だった。
四日連続ジャンル別一位!
四日天下じゃ!
あと何日この天下が続くのか!
次回、一応最終回です。
応援よろしくおねがいします!