エピローグ
さあ、いよいよ四天王編3、最終話です。
まあ、いつものグダグダ感をお楽しみください。
僕が目を覚ましたのは、それから三日目の朝だった。
見覚えのない天井に、見覚えのないベッド。
僕が寝ている他にもベッドがあり、消毒薬の匂いとかしてるから、多分治療室みたいな場所だと思う。
で、まだ体が起こせず視線だけを動かした僕に、
「ごめんなざいぃぃぃぃぃぃ! ほんの、ほんのできごころとちゃめっけだっだんでずぅぅぅぅぅぅ! ゆるじてぐだざい! でないと、私は! わだじばぁぁぁぁぁぁ!」
そこにずっといたのか?
床に正座をしたメイビーが、
ゴンッ!
っと額を床に激突させながら、土下座をしていた。
そんな彼女を確認し、僕は思わず眉間にシワを寄せた。
(あれ? おかしいな? 彼女は僕の最大級の魔法で、僕の秘密ごと消滅させたはずなんだけど?)
そんな僕の心を読んだのか?
彼女は、
「はいぃぃぃぃ! アルサス様の魔法で消滅するはずだった私でしたが、でも、でもぉぉぉぉ、あなた様の姉上様が『アルの日記を知るものです! 消滅させたら……分かってますわよね?』なんて言って、聖女様やら歌姫様やらを焚き付け……ごほんごほん。彼女らに願い、私を助けて下さいました!」
ごんごんと音を立てて床に額を押し付けるメイビー。
「いや、消滅しなかったから言えることなんですけど、アルサス様の魔法で激痛を伴いながら焼かれる体を、その端から回復され、さらに姉上様の質問に答えるって、ある意味最大級の拷問でしたわ! でも私は何も言ってません! アルサス様の日記に、あのような…………」
「聖なる炎」
僕が彼女の表面を軽くあぶる。
「むぎゃあぁぁぁぁぁ! あっつ! これ、これ物凄く熱いんですけど!」
「うん。日記ってなにかな? 君は銀色の表紙の日記なんて知らない。見たことも聞いた事も無い。そうだよね?」
青い炎に焼かれ、床をのたうち転がるメイビーは、
「ぐっ…………はい…………私は何も知りません。日記? なにそれ美味しいの? です!」
姿勢を正してそう答えた。
どうやら彼女は、正解を引き当てられたようだ。
だから僕は、
「うん。人間、いや、魔物でも、知らないことがあった方が良いよね!」
涙目の彼女に、ニッコリ笑って言ったのだった。
僕に完全屈服(笑)したメイビーから詳しく話を聞くと、
「ええ。初めから私たちは、あなた様たちを歓迎する気でしたよ。でも、私たちがタダ歓迎しるのじゃ、物凄く胡散臭いと思いまして、このような催しを考えた訳なのですが……」
そう言えば、アトラクションに参加する悪霊たちは、不死だからと思ってたが極悪な顔をしてるわりに殺気が無かった気がする。
「もしかして、メイビーからもらった招待状って、本当にそのままの意味だったの!?」
ならば僕たちは、楽しい楽しいアトラクションを、生死を分けた戦いのように進んでいたのか?
いや、姉上やヒルダは物凄く(ルールとかに関してはスルーの方向で)楽しそうだったからアリなのか?
とにかく、四天王のメイビーには敵意は無いと分かった。
だって、
やっとベッドから半身を起こせるぐらいの僕に、
「はい! これで分かってもらえましたか?」
まるで敵意が無い私は犬だ! と言わんばかりに、床で腹を見せて手足を丸めてるのだから。
「なんだ、僕の取り越し苦労ってやつだったのか?」
つまらない事で気を張ってしまったと、苦笑交じりに気を緩めた。
「はい! それに、アルサス様のお姉様には、ちゃんとご注文の品を送らせて頂きましたので……それで許してもらえませんか?」
「姉上がメイビーに注文した品? それってもしかして…………僕の下着とかじゃないよね?」
「あつ! 熱いですって! 下着? あつっ! 何ですかそれ? お姉様が欲したのは……」
僕が吐血しながらも魔力を操りながら詰問し、彼女が答えを出そうとした刹那。
バアァァァァァン!
扉が勢いよく開き、清潔な室内にいろんなものが舞い上がる。
まあ、誰が来たのかなんて、それだけでわかるけど。
「あらあら? 絶対安静(要私の看護が必要)の患者の部屋に、何かが入り込んでいるわ!」
いつも通りの姉上と、
「おろおろ? わっちのいない間に、何やら羽虫、いや、地べたを這いずる地虫がおるようじゃのう?」
通常通りのヒルダが、部屋に乱入してきたのだ。
そして、完全屈服してるメイビーを睥睨した二人が、
「あらあらあなた……。愛弟を世界中の誰より愛して愛して愛して愛でて愛して止まない私より先にアルに面会するなんて」
「おろおろそうじゃの。わっちと皆の祝福の元、最高級な結婚式を挙げて結婚出来る愛おしいヌシ殿を先に見舞うとは、どういう了見じゃ?」
メイビーに向けた言葉なんだけど、なんでか睨み合う二人が、さっと距離を置いたかと思った瞬間。
「ブレイブショット」
「ゴッドアロー」
二人の一閃が解き放たれた。
不幸か絶不幸か?
ちょうどその中間に呆然と立ち上がってしまったメイビーは、
「え?」
断末魔の声を上げる暇すらなく、ジュッと音を立ててその体を灰にした。
「うわ、さすがの不死の王も、これじゃあ……」
和解できたかもしれないけど、姉上とヒルダの喧嘩に巻き込まれたんなら、しょうがないね!
そう結論付け彼女の冥福を祈ろうと、両手を合わせて目線を下げたその先に、
「ちょちょちょ! なんですかアレ! 不死である私の身体が一瞬で灰になったんですけど!」
右足首だけ残った不死の王が、ブーツを履いたままぴょんぴょん跳ねていた。
「おろおろ、良く物語で頭だけとか手だけの魔物って聞くのじゃが……」
「あらあら、足首だけの魔物って…………斬新ですわね?」
ヒルダと姉上が、いつもの四割増しな憐憫の視線を向けた。
「あ・な・た・た・ち! がやったんでしょ! どうしてくれるんですかコレ! この体、全然魔力が集まらないですけど! このままじゃ復活に一〇〇年以上かかっちゃうんですけど!」
文句を言う足首は、なんか、一周回って可愛らしく見えなくも、なくもないわけではない。
そんな彼女を、
「あらあら? これはこれで……閃きましたわ! これからあなたは、メイビー改め足首のアッシーと名乗りなさい!」
姉上が名案とばかりに目を輝かせ、止めを刺した。
「いやいや、嘘でしょ? 私の、私の身体を返してぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
メイビー改めアッシーの絶叫が部屋中に響き渡る。
「おろおろ、その姿も可愛い……っと言えぬことも無い事も無いじゃろ?」
「そうですわ! 『皆のアイドルアッシーちゃん』サイコ-ですわ! っと思わない事も無いわけじゃなくもないですわ!」
「それ落としてます? 貶してます? それともバカにしてます? どれも褒めてないじゃないですか!」
ギャアギャア騒ぐ彼女らを横目に、
「くだくだだけど、まあ、いつものことか」
僕はもう疲れたので強引にこの場を締め、体力回復のため毛布を頭までかぶってベッドに寝転んだ。
了
最後までお読みいただきありがとうございます!
これからまた、少々お時間をいただき四天王編4の執筆を開始します。
再開したらまた応援よろしくお願いします!




