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よろしくお願いします!
「そろそろ目的の場所です!」
なんかいろんなドサクサに紛れて、勇者専用になった馬車に揺られて三日。
馬車を操っていた御者兼最高の暗殺者は、僕を気遣うそぶりを見せながらも忠実に目的地を目指し、それを実行した。
四天王メイビーが指定してきた場所には、
「あらあら……」
「おろおろ……」
姉上とヒルダが目を見開くほどの光景。
開けた草原に全長数十メートルはあろうかと思える、多分、今の人間の技術では作ることのできないだろう、円筒の十階建ての建物。
いや、塔があった。
「あらあら、アルと私の愛の巣に良いですわね」
「おろおろ、ヌシ殿とわっちの新居にいいのう」
呑気にのたまわる二人に、
「いやいや、もうアレ。怪しすぎるでしょ? どう見ても罠ありまくりの建物でしょう?」
僕がそんな呟きを漏らしたのが悪かったのか?
「はい! そうですわね。やはり私たちの愛の巣は私たちで作らなければ!」
「そうじゃの。良く見れば、見た目はまあまあじゃが、住み心地は悪そうじゃのう」
姉上がチラリとヒルダとアイコンタクトを取ったのを見て、物凄く悪い予感がした。
「あの……別にそこまでは……」
僕のフォローは最後まで続かなかった。
なぜなら、
「煉獄よ! 地獄の業火よ! 我は願う! 焼き尽くせ!」
結構雑だと思える詠唱なのだが、ヒルダの目の前に魔方陣が現れ、大木のような青白い火柱が塔の最上階に直撃。
しかも、
「あらあら、私も負けていられませんわ! えい!」
まったくもって気の抜けた声で、
でも、
ゴシュッ!
まったくもってシャレにならない轟音を鳴らしながら、姉上の放った拳大の石が、青い炎で焼け崩れる最上階のすぐ下の階を破壊した。
「うん? なんで塔に入る前から攻撃!?」
僕はまとっうなツッコミをしたと思ったのだが、
「おろおろ? 見るからに怪しい塔を入る前に攻撃するのは、戦闘のセオリーじゃろ?」
「あらあらそうですわ! それにあの塔って、どう見てもカビ臭そうですので、空気の入れ換えが必要ですわ!」
なんか、納得いかないがまっとうな回答が返って来た!
怪しい塔には、神経を尖らせながらも一階から入る。
そんなセオリーを覆す二人の言葉。
さらに、
「あははは! さすがはアルサス様の姉上と婚約者様。では俺も!『ライデイン』!」
焼け落ち、崩れ落ちた塔の上段に、止めとばかりに落とされる元勇者の渾身の一撃。
「あらあら負けませんわよ!」
「おろおろわちだって!」
それに触発されたのか?
調子に乗った二人によって、見る間に削られていく塔。
「泣く前に、殺してしまえキリギリス! ですわ!」
うん。なんか合ってるような合ってないような姉上が放つ東洋の格言。
どごぉぉぉぉぉぉん!
そうこうしてるうちにも、塔は半分ぐらいの高さまで削られていって、
「あの~姉上、ヒルダ。そろそろやめてあげたほうが…………ほら! 塔の上(今は五階相当の天辺)で、なんか白旗上げてる魔物? 人? がいるじゃないですか。せっかくここまで来たんですから、話だけも聞いてあげましょ! ね? ね!」
なぜだろう?
正直面倒臭いので、このまま二人の暴挙をお茶でも飲みながら見続けようかとも思ったのだが、
現在、半分ぐらいしかなくなった塔の上で、自分の身の丈以上ある白旗を必死で振るってる誰かの姿に、不覚にも憐憫の情が湧いてしまった。
だって絶対あれ泣いてるもん。
ここからでも振ってる白旗震えてるもん!
そんな僕に、
「ぐびっ! アルサス様ナイスです!」
「さすがアルサス様!」
「ああ。私、こういう経験、いっぱいあるから」
「まあ遠距離攻撃って、楽って言えば楽なんだが、なんだかこういうのって、王族に相応しくない気がするんだよな」
物凄くひっそりとした小声で賛同してくれる仲間(マリアーナ、ジオルド、ミナ、セツナ)。
その言葉。
もう少し、はっきりと誰かに聞こえるように言ってもらいたい。
それでもなんだか、万の味方を得た気になった僕は、二人の暴行をやめさせてしまった。
まあ、この後……。
後悔をしたような、しなかったような……。
今年の風邪はタチが悪いですね。
熱は下がったのにいまだに朝晩咳が止まりません。
皆様も体調管理、十分気を付けてください。




