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よろしくお願いします!
「な!? あのバルサス様が瞬殺だと!」
「もう駄目だ! あんなのに勝てるわけ……ひでぶっ!」
「あらあら? 淑女に向かってあんなのは無いのではなくて? それに、人の話はもう少し静かに聞くものですわよ? こ・れ・か・ら・が! 我が愛弟の良い所なんですから!」
姉上に対して物凄く失礼な事を言った魔物は、ドングリ指弾で体ごと持ってかれた。
姉上の笑みを見たものは蛇に睨まれた蛙の如く身動きできず、その場に立ち尽した。
魔物たちの士気は再びマイナスに振りきれ、いつ逃げてもおかしくないこの状況で、
「ま、まだよ! まだ負けて無い!」
瞳の端に涙を浮かべながらも、それでも逃げずに……まあ、足はガクブルで、今にもおもら……いや、これは彼女の名誉のためにも言わないでおこう。
そんなミナが吠えた。
「あらあら『土下座して泣きながら許しを請う』さん。今なら私に逆らった罪。デコピン二発で許してあげてもよろしくてよ?」
「え? それだけで許してくれるの! ど、どうしよう…………はっ! な、なんて言うはずないでしょ! 私はもう人類を裏切った悪女なの! これから人間を支配する魔物たちの歌姫となって、魔物の城でワイン片手に美味しモノを食べて、のうのうと生きていくしかないの!」
なんか半泣きなのに、己に都合の良い夢を語る仁王立ちのミナ。
ちなみに姉上のデコピンは、軽く鋼の鎧を貫通するのを知ってるはずなのに、それだけと言い切ったミナは、確かに剛の者だろう。
そんな彼女に余裕の笑みを浮かべる姉上だが、なんかその現状に物凄く違和感があった。
まあ、その強がりも…………。
あれ?
いまだに仁王立ちするミナを見て、違和感の理由が分かった。
「姉上! ミナが…………」
「はい、分かっていますわ」
さすが姉上。
いや、いつも彼女をおもちゃ…………戯れてるからわかるのだろう。
彼女が、姉上に命令されてるにも関わらず、仁王立ちのままなのだ!
ミナが首にしている『絶対遵守の首輪』は、人類最強の魔術師と言われるヒルダが、面白がって魔力をこれでもかって注いで作った、いわば最強の首輪だ。
そんな無駄に超高品質の魔道具を、無効にできるほどの魔力を持つ者と言えば限定される。
姉上もそれに気付いたようで、
「あらあら? 無駄に魔力を高めた首輪を無効にするほどの者…………えい!」
可憐な掛け声とは裏腹に、殺人級のドングリ指弾をミナの足元、歪に広がる彼女の影に打ち込んだ。
それはいつもなら、砂塵を撒き散らし付近の障害物をも吹き飛ばすのだが、ドングリはミナの影に誘われる様に吸い込まれ、
ゴツンッ!
「むぎゃ! 何これ? 想像以上に威力があるんですけど! 私の魔力で受けきれないんですけど!」
ミナの影から、彼女以外の声が聞こえ、
「くふふふふふ。さすがはシュタイン王国の最終兵器とまで言われた令嬢」
青黒く異常に腫れ上がった頬を押さえ、ミナの影から出てきたのは、
「危うくこのデグルド、天に召されるとこだったじゃない!」
なんか、物凄く顔色の悪い、尖った耳だけが人間と異なる顔の整った少女だった。
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