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よろしくお願いいます!
戦闘が開始されてから三時間が立った。
細かく言うと、姉上がアル成分なる謎の力を補充しに来て西門に戻り、一時間が立ってるのだが。
「そこでです! 私の愛おしくて愛おしくて愛おしいアルは、私の目を見てこう言ったのです! 『そうか、それなら仕方ないね』っと! それはそれは愛おしさと切なさと心強さと、純情も感情も愛情も、愛のままにワガママに、全てを備えつつ世界の理をも超えるような眼差しだったのです!」
握り拳を天に向け笑みを浮かべる姉上は、何を隠そう、周りの状況など目もくれず、この戦場の真っただ中で、ずっと弟自慢をしていたのだ!
もちろん。
隙ありとばかりに襲い掛かった魔物たちは…………。
沈黙を友に地面に首を埋めていた。
「さらにです! あの霧雨の降る晩。ずぶ濡れだった私に向い、『早く着替えないと、風邪ひくよ!』そう! 私の愛して愛して愛して止まない愛弟は、私の身体をいたわる、それはそれは優しい言葉を掛けてくれたのです!」
物凄く清々しい笑顔をともに、天に向かって伸ばしていた拳を、胸元で握りしめ感動していると思われる姉上に、
「いやいや僕、普通のこと言ってるだけだよね?」
やはり僕のツッコミは耳に入らないようだ。
「さらにさらに! あの時の愛弟は………………」
喜々として語り続ける姉上の周りに、二桁以上の魔物たちが地面に首を埋めている。
まるで魔物農園。
いや、そんもんないんだけど、何ともシュールな光景が広がっている。
そんなある意味、停滞した状態に痺れを切らしたのは、
「もう! 何やってんですか! せっかく私が! 人間界でも最強の歌姫と言われてる私が手を貸したんです! さっさと殺っちゃって……いえ、殺すのはどうかと思うけど……とにかくやっちゃって下さい!」
人類を裏切り後が無いミナが、絶叫を上げて魔物を焚き付けた。
さらに、
「あんた! そこのあんた! 魔物の中でも強いんでしょ? ここの魔物たちより物凄く強いんでしょ? だったらあんた行きなさいよ!」
いつもの調子でバルサスを焚き付けるミナ。
まあ、味方になったとはいえ人間の小娘にそんなこと言われて、黙っているられるほど一二騎士のプライドは安くはないのだろうが、
「も、もちろんだ! こんな、ちょっと普通の人間より力が強くて、魔力封じの首輪も聞かなくて、しかも、今回使用した魔力封じの首輪はオーガにだってちぎれないマダンテバイパーの皮を使ってたのに、それを簡単に素手で千切っちゃうからって、私の鎧は呪いが掛かってて脱げないが、通常攻撃はもちろん、どんな魔法も無効化する『狂鏡の鎧』だ。人間の小娘なんぞ! 怖くも恐ろしくも…………」
「あらあらそこ! うるさいですわよ? これから『私の力の源第三部、愛弟一二才冬』を語りますの。静かにして頂けませんか?」
姉上がにこやかに扇子を閉じ、おもむろに反対の腕でバルサスの冑をつかむと、
ぐしゅっ!
冑の金具部分を握力だけで捻じ曲げ、彼の頭を力任せに地面に突っ込んだ。
ずぼしゅ!
「むぎゃ! なぜ? なぜ視界が真っ暗なのだ! それに金具が外れない! これじゃ呪いが無くても冑が取れん!」
きっとそう言ってるのだろう、首が埋まった大鎧にもそれを呆然と見ている魔物たちにも一切視線を向けず、
「あらあら、それでは話の続きをしましょうか」
喜々として姉上は何事も無かったように僕の自慢話を続けるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
さあ、作者が酔っぱらった勢いで大筋を変えなければ、きっときっと多分、折り返すはずです!
そんな作者に、生暖かい視線か愛の手を!




