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たまには投稿内容の告知を。
語り手に徹していたあの男が、ついに!
本文へ続く。
「まあ、良くこれだけ暴れておいて……さすがは姉上と言ったら良いのかな?」
姉上が暴れ出して僅か数分。
煌びやかなだった会場は、もの凄いことになっていた。
高そうな装飾品は軒並み粗大ごみに変わり、重騎士の方々はうめき声を上げ(一部、女神様とか女帝様に忠誠を!とか言う言葉は敢えて無視)あらぬ方向に手足を曲げられ、身動きもとれず芋虫のように蠢いていた。
まさに地獄絵図!
なんて表現できれば良かったのだけど、僕は本当の地獄とはこんな生易しいものではないと知っているので、あえてその表現は控えさせてもらう。
だって、この場に死者は一人もいないのだから。
戦場の死神とか言われてたアルムデル重騎士団を、一人残らず戦闘不能にしておきながら、姉上は彼らをちゃんと生かしているのだ。
まあ、無敵と自負してたのに、たかが隣国の令嬢一人に一矢も報えずに戦闘不能にされた精神の方はどうだか分からないが……。
「あらあら、これで教育的指導は終了かしら?」
この惨状を作った張本人は、額に汗一つ滲ませずに朗らかに笑っていた。
「(あう……お、おでは、女神を見た!)」
アルムデル重騎士団団長は、散々姉上の攻撃と口撃を受け、身も心もボキボキ状態だった。
それにしても、
「あらあら、さすがにこれだけ体を動かすと、少し暑いですわね?」
言いながらパタパタと扇子を仰ぐ姉上。
いや、さすがに色々おかしい。
重騎士二〇人を駆逐して、少し暑いで済ますことや、
返り血一つも浴びて無いドレスとか……。
ツッコミどころ満載なのだが……。
まあ、姉上だからしょうがないっ! と思うことにした。
「さて、最後のダンスも終わったことですし……」
だが、まだ面倒臭いのが残っていたのを、僕はすっかり忘れていた。
「ふざけるな! オーガとタイマンで戦えるアルムデルの重騎士二〇人が、たかが侯爵令嬢一人にやられるわけがない!」
逃げ遅れたのか、はたまた逃げなかったのか?
今までいた場所から動いてないバカが二人残っていた。
本当に、なんでこのバカの知識は偏ってるんだろう。
他国の噂より、自国の噂を聞けよ!
それと、
「そうよそうよ! もしかしたらシルヴァーナ様。王国では使用禁止の薬物を使って重騎士たちを……そうよ! そうに違いないわ!」
よほど現実を見たくないのだろうミナが、元から薄かった淑女の仮面を殴り捨て、必死の形相で叫ぶ。
「そうだ! ミナは正しい! 誰か! 薬物に詳しい者を呼べ!」
なんか、とても偉そうにバカ王子が、バッとか音を立てて腕を横に振るうが、
「「「「「………………………………………………………………」」」」」
この場で動こうとする者は、誰一人いない。
良い加減、気付いてもらいたいのだが、
「皆さん! 騙されてはいけません! 彼女は、シルヴァーナ様は、悪役令嬢と呼ばれる、この国に不幸をもたらす存在なのです!」
芝居じみた彼女の言葉に、もう誰も耳を傾けない。
だが、その言葉に反応する者がいた。
「はあ? 姉上が悪役令嬢? 国に不幸をもたらす? 何言ってんだお前!」
自分でもびっくりするほど低く、底冷えのする声が出たと思う。
「きゃ! アル君がイジメる!」
ツカツカと彼女に向かって歩きはじめる僕を見て、なんか物凄く耳障りな声が、庇護欲をそそろとしてバカ王子の背に隠れた。
「アルサス貴様! 可憐でか弱いミナに何をするつもりだ! はは! やはり血は争えぬものだな。自分勝手でわがままな国害の姉、この国を食い物にしようとしている売女のおとう……」
今まで客観的に、第三者的に物事を見極めようとしたけど……。
「ふざけんな!」
もう、我慢の限界だった。
僕は頬を引きつらせ、言い訳がましい言葉を吐くバカ王子の前に一瞬で距離を詰め、奴の頬にめい一杯加減した一撃を食らわせた。
「はぎゅわ!」
「きやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アホズラさらすミナと、意味不明な声を上げて吹き飛ぶバカ王子の姿は、見ていて滑稽だったが……。
それでも怒りは収まらない。
会場もこんな状態だし、作法とか細かく言う奴もいないだろう。
だから、
もう素に戻っても良いんじゃないかと思った。
「クソが! 今までなんとか穏便に済ませようとしたが……てめぇ。言うにこと欠いて姉上のこと、売女って言いやがりましたか?」
無様に床を三回転半して壁に激突したバカは、ようやく自分が何をされたかを理解して、
「ひっ、ひひゃま! こんらこひょ……ふけいひゃいだ! こやひゅをとらへろ!」
床に突っ伏したまま叫んだ。
だが、
「はあ? 何言ってんのか分からないんですけど? もしかして不敬罪って言いたいの? はあ? なにそれって美味しいの?」
すでにぶちぎりてる僕に、そんなの脅し文句は効かない。
なんたってこいつは、
僕の姉上を侮辱したのだから……。
だから僕は、転がるバカの髪の毛をつかみ、強引に膝を折る僕の高さまで視線を持ち上げ、
「ああん? 姉上が国害? はあ? 姉上が早朝、毎日の日課のように城外の魔物を倒しまくってるのを、お前、知ってて言ってんのか?」
バカの頭を無造作につかみ、反対の手で大理石の床に拳を叩きつけた。
ゴスッ!
見事に拳大の穴が開いたが、修理代はこいつに払わせよう。
「それに、貧困地区の炊き出しと仕事の斡旋を、王妃の習い事をしながら、時間と身を粉にしてる姉上を……まさか知らない訳ないよな?」
「ふぇ? そ、そんなひょと……いだだだだだだ!」
どうやらその事を初めて知ったようなバカの毛を、強引に引っ張る。
ぷちぷちと綺麗な金髪が抜けた、その頭皮に僕は、
『禿ろ!』
っとばかりに毛根死滅の魔法を掛けた。
明日から抜け毛に悩むがいい。
それでも僕の怒りは収まらない。
「キャンキャン騒ぐだけのてめぇは、それでも姉上が国害だなんてのたまわりますんですか?」
『もう正直、こいつら《王国》と敵対していいかな? この惨状を伝えれば父も母も喜んで反乱の準備するだろうし……』
どうしても現実を受け入れないバカに『もう、殺っちゃてもいいよね?』なんて言う思いが、僕の頭を支配した。
刹那。
「セツナよ! もう茶番は十分じゃ!」
低音だが良く響く声が、会場に響き渡った。
一夜限りの夢かと思ったら、
二日連続ジャンル別一位!
ウンババ ウバウバ めらっさめらっさ(注:感激の踊りです)
なお、この物語は、皆様のブクマと評価でできております。
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