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この佳境に来ても、やはり姉上は姉上なのです。
さて、姉上が飛び去った先は、
「アアアアアアアアアルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
当然のように僕のいる南門だった。
ズドォォォォォォォン!
僕の立ってた南門前より一キロ手前に降り立った姉上は、落下した勢いで地面を半球状に抉り、ついでに周辺の魔物たちも吹き飛ばした。
うん。姉上がこれを五回すれば、戦い終わるんじゃね?
そんな考えが頭をよぎるが、次の瞬間。
「アルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
そんな声が聞こえたかと思ったら、僕は体の心がズレるほどの衝撃を受け、気が付けば姉上の胸に抱かれていた。
姉上の胸元から顔を覗かせる、恐らくこの戦場で最もシュールな僕。
羨ましいと思うなかれ。
姉上の感極まった抱擁は、姉上自前の、たわわに実った衝撃吸収材が無かったら首がもげるレベルの衝撃。
しかもその包容力は、軽く大木を絞め折れるほどなのだ!
とにもかくにも、姉上の切羽詰った…………なぜか今は幸せそうな顔してるけど、とにかく。
「どうしたんですか姉上。何か不測の事態ですか?」
出来るだけ優しく問いかける僕に、姉上は極上の笑みを浮かべ、
「はい! アルと一〇〇メートル以上離れて、二時間が経過しました! 私の中のアル成分が足りなくなったので補充しに着ました! 今から三時間ほどアルアルタイムです!」
そういい放った。
「はあ? アルアルタイム? イヤイヤなにそれ、今は戦闘中ですよね? しかも三時間って、そんなにミナ一人で持つわけ無いでしょ!?」
「あらあら。大丈夫ですわ。ミナにはちゃんと言いつけてきましたから」
モニターを見た限り、彼女は泣き喚いたようだが?
チラリとモニターを確認すると、
「いや~~~~~ぼえ~! こないで、ぼえ~~!」
姉上が逃げたと思ったのだろう。
魔物たちの勢いが戻り、門を守る兵士たち! っと言うか…………ミナに殺到してた。
彼女も果敢にも、途切れ途切れの歌声で威嚇しているのだが…………。
うん。もって五分ってとこだろう。
早く姉上を戻さないとミナの命ばかりか、この町の防衛線まで危ない。
なので僕は手っ取り早い方法を取った。
名づけて…………良い名が思いつかないので、さっさと実行に移した。
「そうですね姉上は頑張ってくれました。モニター越しに見ていた姉上は、とぉ~~~~~~~~~~ても可憐でカッコ良くて! いつまでもその雄姿を見ていたい! なんて思ってましたけど……姉上には無理はさせられません。お休みください。でも僕はまだ……ああ。ヒルデも頑張ってくれてる。僕の婚約者だからって、あんなに必死に、健気に、頑張ってくれるなんて……僕は……」
ウルウルした目で見上げれば、
「くっ………補充………完了ですわ!」
突然僕から離れた姉上が体中から魔力を放ち、余波で砂煙を上げながら、しっかりと僕らの周りに近付いていた魔物を吹き飛ばし、
「アル! 私は、アル力を補充した私は、これからボッチよりも華麗に! 優雅に! カッコ良く! 魔物たちを駆逐しに行きます! 一瞬たりともモニターから目を放さないで下さい!」
本当は侯爵令嬢である姉上に、こんな事頼みたくない。
自分の力でどうにかできるのなら、どうにかしたいと思ってる。
でも、この状況で、姉上という戦力はどうしても必要で…………。
もちろん、そんな姉上の希望は叶えたい。
だが、
こっちもこっちの戦闘があるので、見続けることは出来ないだろう。
だから僕は、姉上の頬に付いた砂埃を指先で拭い。
「姉上の雄姿を目に焼き付けます!」
今できるかぎり、最高の笑顔で姉上を送り出す。
それに対し姉上は。
「ふえぇぇぇっぇ! ついに来ましたのアルのデレ期!? いえいえ、ここは慌てず騒がずガッツかず、理想の姉を演じて…………ごほん。あらあら、安心して任せて下さい。なぜいなら私は、あなたのお姉ちゃんなのですから! お姉ちゃんなのですから!」
さんざん本心を吐きだした後、なぜか姉弟だということを強調しつつ、蕩けるような笑みを浮かべ大地を蹴り、空の彼方へ姿を消した。
「気を付けて、姉上」
僕は、僕の目標であるその背に小さく呟き見送った。
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