5:ヒルダの場合
よろしくお願いします。
ここは魔物の群れに囲まれ、今にも蹂躙される予定の小さな町。
そんな吹けば飛ぶような町だったのに、一夜経ったら彼らを阻む防壁が一夜で作られていた。
『きっと人間どもも必死なのだろう、ならばその希望の門を壊し、代わりに絶望を与えてやろう』
そんな性悪な思いで、門に向った魔物たちだが、
「え? なんで門が開いてるの?」
町を攻めようとした魔物の一匹、コボルトが思わず呟いた。
それもそのはず、自分たち魔物の軍勢を阻むはずの門が、パックリと開いているのだから。
「おい、これって、なんか、ヤバくね?」
先ほど呟いたコボルトの横で彼の倍以上の背丈を持つ、脳筋で有名なオーガも怪訝な顔で開いた城門を見つめる。
「これじゃ、『入って来て下さい! 蹂躙して下さい!』って言ってるようなもんだよな?」
さすがの脳筋も、これが不気味な状態だと思ったようだ。
まあきっと彼らは脳筋だから、本能的なモノかもしれない。
彼らは脳筋だから。
そんな彼らに、
「うろたえるな! これはきっと『城門が開いてるなんておかしいよね?』っと思わせる、人間どもが破れかぶれで使う『空城の計』というやつだ! ただのこけおどしだ! 怯むな突っ込め!」
魔王軍一二騎士一人、『ちょっと知将っぽい』と自分で噂を流すグスタークは、得意満面の笑みを浮かべ叫んだ。
人間の勇者たちは、バルサスの策にはまり少数でこの町に来た。
しかも、大した時間も与えられたないはず。
だから大したこともできずに、この作を選んだ。
これぐらいは脳筋であるオーガたちにも理解できた。
まあ、その前に、この防壁どうしたの? っと思わない所が、脳筋が脳筋と呼ばれるゆえんだ。
「そうか! ただのこけおどしか! ぐほおぉぉぉぉ! 人間どもを殺して殺して、殺しまくってやるぜ!」
グスタークの言葉を聞いた、脳筋で単細胞な魔物たちは勢いづき、我先にと城門に駆け出す。
そして、門を潜ったと同時に、
「ぐははは! ワシが一番乗り………………あれ? な? なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
二メートルを超えるオーガの巨体が、大きな蜘蛛の巣に引っ掛かり身動き取れなくなっていた!
先行した魔物たちが、次々に蜘蛛の巣に絡め取られる。
そんなかられが目にしたのは、
「おろおろ? さっそく蚊トンボが網に掛かったのじゃ」
魔物たちの戸惑う叫びを掻き消すように響き渡る、軽快で艶やかな声。
「『空城の計』じゃと? おろおろおろ、お前らごときごときに、そんな高度な策を練るはずないじゃろ?」
魔物の軍勢を前に、不敵に笑う、真っ黒なローブ姿に青銀の髪をなびかせた、小ぶりな人間の少女だった。
「おろおろ、この門にはわっち特別製の禁呪魔法『|スパイダーネット《超の付く粘着性のある糸》』を纏わせた超鋼の糸を、網目状に張っておる」
確かに良く見れば、オーガの体にびっしりと細い糸がまとわりつき、その動きを封じていた。
「通りたければそれを越えて来るのじゃな!」
視線で指したオーガを見て、そこまで説明したドヤ顔のヒルダに、
「小癪な人間のメスめ! こんな軟弱な糸など!」
ヒルダが作り出した糸を焼こうと、魔物の背後から放たれた火球が襲う。
魔物の軍団の後方に配置されてた、魔術師部隊からの魔法攻撃だ。
だが、
「おろおろ、言ってなかったのじゃが、その糸にはもう一つ特徴があってのう」
笑うヒルダの囁きとほぼ同時に、
ブウゥゥゥゥゥン!
火球に触れた糸が、耳障りな羽音のような音を立て、
シュンッ!
その魔法を取込み、糸が張られる範囲を拡大させたのだ。
「「「「「な! なにぃぃぃぃ!」」」」」
「この糸は魔力が好物でのう。魔力を与えれば、ほれ、この通り成長するのじゃ!」
魔物の絶叫を無視し、ヒルダが蜘蛛の糸に触れて魔力を流すと、蜘蛛の巣は音も立てず門に隙間ないほど張り巡らされたのだ。
「こ、これじゃ、通れない!?」
驚愕し、浮足立つ魔物たちだが、
「うろたえるな! バカ正直に門を通らずとも門の脇の壁を壊せば済むことだろ!」
少々機転の利いた声。
脳筋の中で、最も頭の回ると思われるグスタークの声だった。
「おろおろ、魔物の中にも少しは知恵の回るものをおったのじゃな」
ヒルダの口元が歪んだのを、なぜか弱点を突いたと確信してしまった彼は、
「全軍門の周りを破壊しろ! そこから町に侵入し、人間どもを殺し尽くせ!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
ヒルダの魔法の弱点を見つけ、勢いに乗った魔物たちが防壁を力付くで崩し、次々と町の中へと侵入。
そして、
「まずは、あの人間から血祭りじゃ!」
ふざけた魔法を仕掛けた少女に襲い掛かる。
人間を軽く凌駕する体躯の魔物たちを前に、ヒルダは怯えて立ちすくむ…………ようなタマではなかった。
彼女は口角を吊り上げ、
「おろおろ? この禁呪、誰が一つだけじゃと言ったのじゃ?」
ヒルダまであと数メートル、彼女を肉片に変えようと各々の武器を振り上げた魔物たちは、
「「「「「え?」」」」」
断末魔にもならない声を上げ、
ごろごろごろごろごろごろ…………。
魔物たちは彼女の周りに設置されていた移動する禁呪の糸によって、身動きできない地面に転がる、なんか変なオブジェへと姿を変えた。
「まったく魔物と言う奴は、人の話を最後まで聞かぬものじゃ」
悪戯が成功した子供のように、瞳をランランと輝かせる少女に呆然とする魔物たち。
さらに、
「それにこれがが動かぬと、誰が言ったのじゃ?」
ヒルダが腕を振るうと同時に、拳すら入らぬほどびっしり張り巡らされた禁呪の糸が飛び出し、グスタークと城門の外にひしめく魔物たちに襲い掛かった。
結果。
「なん…………だと!?」
「む!? むぎゅぅぅぅぅ!」
「ふむ。少々掃除が手間かもしれぬが、まあ、こんなもんじゃろ」
ゴトゴトゴトゴトゴト!
もうグスタークがどれか分からないほどの数の魔物が、蜘蛛の糸で簀巻きにされ町の外に転がっていた。
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