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よろしくお願いします。
決戦を控えた皆が寝静まった夜中。
一人の少女が、人気のない町のはずれにたたずんでいた。
夜襲を警戒して焚かれているかがり火に、ユラユラと揺らめく影はその少女のものだけなのに、
「くふふふふふ! どうやら勇者たちは上手く罠に掛かったようだな」
「特に頑張ってないように見えたかもしれないけど私! ちゃんと色々やったから! あいつがここに来るように、ちゃんと誘導したから! だから、ちゃんと約束守ってよ!」
聞こえたのは二種類の声音。
一つは少女のものだと分かるのだが、
「くふふふふふ! 分かっている。最後までちゃんとやったら、約束通り…………くふふふふふ」
もう一つの声の主は姿が見えない。
「くふふふふふ! 慌てずとも答えは明日出る。お前の活躍に期待しているぞ、くふふふふふ!」
それきり、姿なき声は聞こえなくなったが少女は虚空に向い、
「約束…………だよ!」
そう呟き、その場から立ち去った………………。
そして翌日。
「全軍突撃!」
野太い魔物の号令と共に、大地が悲鳴を上げるような進撃が開始された。
「皆、準備はいい?」
耳に付けた、長細い棒状の装置の先端に呟くと、
『『『『はい喜んで!』』』』
装置を通して、耳元に皆の声が聞こえた。
これは国からもらった勇者予算なんてものを惜しみなく使い、魔力を使い離れた人間と話せ、しかも目の前に小さく浮かんでいる複数の魔法陣には、装着者の視線が見える装置『魔力画像通信機』略して『マガツー君』なるものだ。
まあ、安易なネーミングと、どんな景気の良い酒場だ! っと思える応答は気にしないでほしい。
だって、この装置の呼び名と、応答を簡潔な掛け声にしようとしただけで掛かった日数は両手を越え、その話し合いの席(学園の食堂とか酒場とか王城の一部とか)がなぜか使用不能になったりそこがいつの間にか更地になったり…………。
色々あったのだ。
とにかく、僕らは町の防御の要である東西南にある三カ所の門を、手分けして守ることにしたのだ。
もちろん、少数の兵をさらに小分けにするのは、一般的な戦術では愚の骨頂だ。
でも僕は断言する。
勇者が率いる、とされているこのメンバーに協調性なんて美しい言葉は無い!
そんな訳で僕とマリアーナは南門。
姉上と、本人の希望でミナが一緒に西門。
ヒルダとジオルドが東門だ。
ちなみにセツナは(使い道が面倒臭いので)遊撃隊として町の中央(徒歩で五分ほどの所)で待機してもらっている。
まあ、中央だからって、この狭い町では特別安全なんてことはない。
ヒルダの魔力で囲った頑丈な防壁も、大地を埋め尽くす魔物の数相手に、それほど時間もかからず壊されてしまうだろう。
まあ、それは予定通りなのだが……。
なんて言ってる間にさっそく、
ガシャアァァァァンン!
僕の守る南門を壊したのは、頭に二本の角を生やし緑色の肌を惜しげもなくさらし、オーガより一回り以上大きな巨体で、その身の丈ほどある鉄製の棍棒を揺らす、四天王のその子分らしいグライオンと名乗る四本の手を持つ獅子に似た二足歩行の魔物だった。
「がははは! 魔王軍一二騎士の一人、このグライオンが一番乗りだぁぁぁ!」
そのグライオンとやらが、背後の魔物たちと壊された門から雪崩れ込んできた!
まあ、僕は予定通り、
「強弓、第一陣打て!」
ヒュンヒュンと風を切る成人男性の腕ほどの太さのある矢が数十本、壊された南門に向かって放たれた。
「ぐぎゃ!」「ぶぎゃぁぁぁ!」
雪崩れ込んできた魔物が絶命と供に吹き飛び、城門から外へ、もしくは城門の内側に突き刺さる。
当然のように先頭にいたグライオンも、肩と腹に二本の矢が刺さっているのだが、
「ぐぬっ! 不意打ちとは卑怯なり人間ども!」
痛みをこらえて吠える。
だが、
「いやいや、悲しいけどこれ戦争だから! それにこの町をエサに、僕らを呼び出した君らに言われたくないから!」
右足一本を犠牲にして地を蹴り、一瞬でグライオンを目前に捕えて剣を振りかぶる僕。
刹那。
「ぬお!?」
グシャアンンンンンッ!
左腕を犠牲にした僕の一撃は、驚愕に目を見開いたグライオンの首をグリンッ! っと回しながら、地面を抉るように転がりまくり、
ゴインッ!
体を半分壁に埋め、やっと動かなくなるグライオン。
僕はそれを確認し、背後の人物に視線を送り、メッチャ痛い手足を無視して剣を持つ左手を天に掲げた僕は、
「勇者アルサスが、魔王軍一二騎士の一人グライオンを倒した!(死んでないけど)我らはこの程度の敵に負けるはずはない!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ! 勇者アルサスに栄光を! 我らに勝利を!」」」」」
鼓舞された町民に、愛想笑いで答えながら僕が腕を差出す。
「究極治癒魔法! 痛くないですよね? アルサス様がちょっとでも痛いって言ったら、私、お姉様にそれはそれは凄い事をされちゃうんで! 痛く無かったですよね? ね!」
タポタポと音が鳴りそうなお腹を揺らしたマリアーナに、僕は決して必死な彼女の表情が、なんだか嗜虐心をそそるとか、面白そうだからとかの考えは無くて、ただ砕けた手足が痛いから、
「………………………………………………」
「いやまじで! 大丈夫だって! 全然痛くないよって言って下さいアルサス様! ね? 聞いてますアルサスさま~~~あ!」
そのまま無言で、治療を受けるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。




