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よろしくお願いします!
そんな騒ぎから一週間がたち、僕たちは今、アンジェリーナと共にベウゼの王城にいた。
なぜ? とか、
展開はやすぎない? とかいうなかれ。
詳細は端折るがあの後僕たちは、彼女の家族を安全な場所に隠し、いろんな証拠と切り札をかき集めたのだ。
もちろん、シュタイン王国国王を脅……説得して、特使としてベウゼ王に謁見できるようにしてもらっている。
代わりに『少しでも王族としての人気が回復するように、我が息子をよろしく!』っと、念を押されたのだが…………。
大丈夫!
「ブツブツ…………はいお姉様! 私はあなたの下僕です! それと他国から嫁いでいらっしゃったお姉様! 大丈夫です! 私はあなたの言葉に従順です!」
宙に応答する、危ない空気のミナと、
「え? え? お二人とも、何をやったんですか!? この娘の心。あともうちょっとってところで壊れかけてるんですが?」
それを心配しながらも魔力回復薬を飲み続けるマリアーナ。
二人がこうなった元凶の、|姉上とヒルダ《セツナ以上に厄介な二人》がいるのだから!
まあ、そんなこんなでベウゼ王と謁見した。
もちろん、当事者である王子と男爵令嬢のシェリーもいる。
『さあ、これからかき集めた証拠を元に、お前の化けの皮を剥いでやる!』
そう心の中でほくそ笑んだ僕の耳朶に、
「あらあらあなた? それでも人間に偽装したつもりですの? 魔物臭がプンプンしますわよ?」
姉上が鋼鉄製の扇で口元を隠し、眉を潜め、
さらに、
「おろおろ、それに擬態の魔法も稚拙じゃのう? わっちの低級解呪の魔法でも解けそうじゃが?」
ヒルダが、やれやれという様に肩をすくめた。
それでも、
「え? この方たち、何を言ってるの? 訳が分からない。怖いわライデン様!」
額に大量の汗を滲ませ……いや、滝のようにダラダラと流し、さらに引きつった笑みを浮かべながらも、王子の影に隠れるシェリー。
その態度に、怪しいと感じていたのか?
側にいる宰相や近衛騎士の視線もどこか猜疑的。
逆にソワソワしすぎで、見方によっては心配しているようにも見えるほどだ。
僕らはいろんな情報を元に、ほぼ一〇〇パーこいつが四天王の一人だと分かっていた。
それにもかかわらず、
「そんなに私を疑うのなら、『真実の鏡』を持って来ればいいのよ! あ! でも、王家の秘宝の『真実の鏡』は………………」
それでも本性を隠し、わざとらしくこの国の国宝の『真実の鏡』を出せと言い出すシェリーに、
「あらあら? これって国宝でしたの? 城下町の商人がたたき売りしてましたのよ?」
知ってるくせに!
この鏡が国宝だと知ってるくせに!
とても良い笑顔で、見せびらかすような姉上の右手には、『真実の鏡』が握られていた!
僕らは、入念に隠されていた『真実の鏡』(手鏡ぐらいの大きさ)を見つけ出していたのだ。
まあ実際は、
アンジェリーナとその父親の証言を元に、この国の隅から隅まで駆け巡り、
やっとこさっとこスラムの盗品市にあったのを、姉上の魅惑の笑み(殺気と言う名の笑み)で譲り受けたものなのだが…………。
早々と切り札を切った僕らに対し、男爵令嬢に化けた四天王は、
「え? え?、それ、ほんとに本物? いやいや、それは無い! それは無いって!」
王子の背から身を乗り出すほど動揺して、不自然に視線が宙を舞う。
そんな彼女に、
「あらあれ? それでは、こうすれば分かるのではないでしょうか?」
笑みを浮かべた姉上が、手鏡を持ったまま床を蹴った。
刹那。
バキュ!
「どへひぇりゃ!?」
バリィィィィィィィィィン!
ギュルリンッ!
「ぐろらあぁぁぁぁぁ…………………………」
グシャリッ!
小気味いい音と、何かが砕ける鈍い音の、
とても不快なハーモニーが王宮に響き、
この国の国宝である『真実の鏡』でシバかれた、ニセの男爵令嬢は、己の体を竜巻のように高速で回転させながら壁に激突した。
「ぐっ……き、きさまぁぁぁぁ!」
そして、ひび割れた壁から這い出る、元男爵令嬢の姿を見て、誰もが短い悲鳴を上げ、
「あらあら? やはりあなたが四天王の一人でしたのね?」
姉上だけが、物凄く良い笑顔で微笑んだのだった!
「………………うん。姉上? それって、そう言う使い方じゃないと思うですけど?」
あっけにとられ、手遅れ気味なツッコミを入れる僕に、
「あらあらそうですの? でも、当初の目的は達成しましたわ!」
砕けた手鏡の柄の部分だけを持ち、それでも笑みを崩さない姉上に僕は、
ええ! 少ない情報で、この国中を駆け巡り、口論(主にヒルダが原因)や、殴り合いの喧嘩に発展しそうなほどの仲たがい(主に姉上が原因)を越え、やっとのことで見つけた国宝が、鈍器扱い!
そんな魂の叫びは外交上、心の奥底にしまい込み、
『え? この鏡の使い方って、これで間違ってませんよね?』
呆然とするこの国の重鎮に無言の笑みで、『黙秘しろ!』っと促す。
もちろん、
|この国にこれ以上の被害を出さ《外交問題にさせ》ないためだ。
とにもかくにも王族を含めたこの国の重鎮は、姉上の行動にいまだ呆然と立ち尽くしていた。
そんな何とも言い難い空気の中。
姉上の一撃で擬態の魔法が解け、深刻なダメージを受けた四天王は、
「ぐがっ! いだだだだ! そ、それ、使い方違うから!」
そうツッコミを入れた。
ここでツッコミを入れるとか、さすが四天王と呼ばれるほどの強さだ!
さらに、
「ふぁふぁふぁ! 擬態の魔法は(ほぼ強制的に)解かれたが、我の力が擬態だけだと思うなよ! 貴様ら矮小な人間など、我の強力で…………え?」
『真実の鏡』で吹き飛ばされた時点で分かって欲しかった。
「あらあら? その剛腕で、私をどうしますの?」
瞬時に傷を回復させ、本来の姿に戻ろうとした元シェリーの目前に、いつの間にか扇(鋼鉄製)を手に持つ姉上。
なので、僕のすることはただ一つ。
「ヒルダは姉上とニセ令嬢を中心に防御魔法を! マリアーナはそれに被せるように結界を! 後の奴らは、力の限り逃げろ!」
僕の発した言葉なのか?
自身に備わってる危機管理能力なのか?
我先にと逃げ出すこの国の重鎮たち。
そして数秒後。
「ぐはっ! もはやこれまでか……我はこれで潰えるだろう。だが、これで終わったと思うなよ? 我は魔王軍四天王の中でも最弱! ………………貴様らの進む道はこれより先、修羅の道となろう! ぐふっ!」
キメ台詞を残し、床に零れ落ちるニセ男爵令嬢。
本来ならとっても重要なシーンなのだろうけど、
「あ~、うん。ゴメン! もうすでに君より強い人倒しちゃってるから!」
満足げな四天王(死んでない)に、僕は視線を逸らして呟くのだった…………。
最後までお読みいただきありがとうございます!
そして、ブクマ、感想もありがとうございます!
極暑の日が続きますが、みなさん体調を崩さないよう、お酒もほどほどにしておきましょう!
(お前が言うな!)




