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題名の悪役令嬢感が薄くなったような気がした。
だから酔った勢いで書いた。
書いてて楽しかったので後悔はしてない。
「え!? それって…………」
姉上の影から聞いた情報に耳を疑う。
かいつまんで説明すると、
拘束されてる少女アンジェリーナは、この国の王太子の婚約者で在学している学園を卒業と同時に王太子妃となるはずだった。
しかし昨年。
中途で編入した男爵令嬢の娘シェリーに、王太子が恋をし、そして…………。
婚約者である彼女をないがしろにしはじめた。
さらにシェリーは王子を使い、内政にも干渉し始めた。
彼女は思った。
これは何かおかしいと。
いくらこの国の王と王子が王の器でなく、女にだらしなくっても、いや、だらしないからこそ、一人の女性にここまで良いようにされるモノなのかと。
アンジェリーナはこれを危機的状況だと思い、シェリーの事を調べ始める。
だが、その途端に彼女は、よく物語に出てくる悪役令嬢だと罪人とされ、今に至る…………。
「はあ? なにそれ? ありえないんですけど!」
彼女の話に一番怒り狂ったのは、なぜかミナだった。
「いやや、ミナだって同じようなことを……」
僕の静止を遮り、
「それは無い! あれだけ計画的に魅了の魔法を使って、これ以上ないくらいに舞台を整えたのに、私は失敗したのよ! なのに、この国では、なんでそんな大雑把な計画が成功したの? それは無い! 絶対に有ってはいけないことなのよ!」
握り拳を天に向け、堂々と自分の悪事を吐露するミナ。
まあ、確かに彼女の計画の方が、拳一個分ぐらい優れていた気もする。
まあ、どんなに精度の高い計画を練っていたとしても、姉上相手では全くの無駄骨だろうけど。
そんな彼女に、
「あらあら? あなた、そんな魔法が使えたのですのね?」
知ってるくせに!
彼女の得意な魔法が『歌姫』と『傾国の姫』だって知ってたくせに、姉上はにこやかに彼女の右腕を取ると、
「おろおろ? 確か『魅了』の魔法は、この大陸ではご法度。使える魔法師は最寄りの国に届け出をするか、厳粛な教会で厳しい制約を受けねばならぬのじゃったかのう?」
ヒルダが楽しそうに彼女の左腕を拘束した。
「え? え? ちがっ! ちょっと待って! 私は国に申告しようとしたの! でもでも、ちょっと待って! ホントにホントに……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ミナは彼女らに連れて行かれそうになり、
「いやいや、二人ともそれはまた後で! 今は処刑されようとしている彼女らを助けましょうよ!」
慌てて止める僕。
そんな僕に、
「あれあれ? でもそれって、タリスマン家が他国に政治介入しちゃうってことですか?」
ワザとなのか天然なのか?
口元に指先を押し付けたマリアーナが呟く。
確かに我がタリスマン家が他国へ政治介入したなら大問題だ。
でも僕は、一つだけそれを無効化できる術を知っていた。
それはそれは、とてもとても面倒くさいことになりそうなのだが。
でも、目の前の惨劇を止めるには…………。
僕は深くため息を一回して覚悟を決めて、人々を掻き分け、少女が捕えられてる高台へ飛び乗ると、
「聞けベウゼの民たちよ! この処刑に勇者アルサスが異を唱える! 処刑は中止だ! 勇者の意にそぐわぬ者は、実力で排除する!」
そう高らかに宣言した。
いまだに『僕が勇者とか、なんか違うんじゃない?』っと思ってる僕が、思いっきり勇者宣言し、勇者の権限を行使してしまったのだ。
結果。
呆然とする人々を余所に、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! アルかっこいいぃぃぃぃぃ! 抱いて! いえ、もうその姿だけで子供が身ごもれそうですわ!」
姉上だけが、なんとも形容しがたい緩んだ顔を見せていた。
それも一瞬、
「ご、ごほんっ! あらあら? 勇者様の意思を尊重しない方々には、勇者の最愛で最高で最大の伴侶。わたくしが容赦しませんわ!」
すぐさま顔を引き締めた姉上が、処刑上にいる執行人やらギロチン台やらを盛大に吹き飛ばし、
「おろおろ? お義姉様は雑過ぎて、助ける者まで吹き飛ばしそうじゃわい」
ヒルダが処刑されようとされていた人々に、防御の魔法を唱える。
さらに蛇足だが、
「私の歌を聞け! ぼ、ぼえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
やる気を最大限にさせつつ、やる気を無くさせるミナの歌声が広場に響き、
「ミナさん大丈夫です! 私がいくらでも魔力を回復させますから! ぐびっ!」
それを広範囲に、しかもエンドレスに続くよう、マリアーナが彼女に魔力を補充し続けた。
「うん。これって結構混沌だよね?」
姉上たちの行動力に思わず呆然としてしまうが、この機を逃すわけにはいかず、
「いったんここから離脱する。セツナ、影、彼らを運ぶのを手伝って!」
「え? 俺はスプーンより重い物を持ったことが無いのだが?」
「俺も基本、お嬢様の命令以外は聞かないんですけど?」
僕の撤退命令に不服を言い始める二人。
本当に面倒臭いので、
「分かった。彼らは僕らがなんとかする。君らの活躍は、後でちゃんと姉上に報告しておこう!」
そう言い放ち、拘束から解かれたアンジェリーナを抱き起そうとした、刹那。
シュパッ!
僕の腕をかすめ、彼女をさらう一陣の風。
「いえいえ坊ちゃま! 冗談! ほんの冗談に決まってるじゃないですか! だ・か・ら、お嬢様の報告は、ね! ね! ホント、よろしくお願いします!」
アンジェリーナとその父親らしき紳士を両肩に担いだ『影』が、器用に腰を九〇度傾け、
「おう! 俺もお前の命令に従うの、全然嫌じゃないぞ!」
母親と弟? を両肩に乗せるセツナ。
僕は一番軽い妹を両手に抱えた。
正直有りがたいとは思うのだが、
「だったら文句言わないで、最初から動けよ!」
僕は誰にも聞こえないよう囁くのだった。
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