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ジャンル別日刊一位になれました!
これも応援して下さる皆様のおかげです。
後書きで本心をさらけ出します。
団長は、僕をチラリと一瞥すると、
「(攻撃目標を変更し、隊を二つに分ける。一隊は目標《姉上》の足止め、もう一隊はあの小僧を捕えよ!)」
鋭い声で指示、それに対して、
「はあ?」
姉上の動きが、見るからに鈍くなった。
その様子に団長はニヤリと笑う。
やはり僕を姉上の弱点だと認識したようだ。
そして、
「(抵抗するようなら見せしめに、手足の一本や二本切り取ってやれ!)」
勝ち誇った顔をしながら、団員たちを鼓舞するように自分の死刑執行書にサインをした。
もちろん、普通の人間相手の戦場なら有効な手段だ。
僕と言う弱点で、姉上の行動が制限されるのだから……。
でも、彼らは勘違いしている。
自分で言うのもなんだが、僕に対する姉上の愛情は、人智とか世界の理とかを、遥かに超えるものだということに…………。
「(よしこれで……)」
がしゃんっ!
「(え? えぇぇぇぇぇぇ⁉)」
団長は勝ち誇った笑みを作るのに失敗した。
今まで姉上の相手をしていた重歩兵の鎧の胸の部分が、聞き慣れない音を立てて砕け散ったからだ。
「なんか、ガラスが割れたような軽い音したけど。あれって鎧だよね?」
「(ぐはぁ⁉ オ、オーガの一撃に耐えうる我が鎧が……)」
うん、やはり鎧らしい。
だが、重騎士が言葉を発せられたのはそこまで。
「ああん? アナタ様、今、なんてほざきやがりました?」
「(むぎゅぅぅぅぅぅぅぅ)」
姉上の視線は団長に向けられてるが、漏れる怒気を間近で浴びた重騎士が気絶。
ガシャガシャと音を立ててくずおれた。
ねえ知ってる? 怒気で漏れる魔力って、自身の体から洩れて炎のように赤く揺らめくんだって。
それより強くなると、高温を示す炎は赤から青に変わるんだって。
でも、姉上の背後に揺らめくのは、赤でも青でもない。
金色の炎だった。
その瞬間。
この会場全体の空気が、ビリビリと音を立てて震えた。
「私の、大切で大事で、愛おしくて愛くるしいアルに、あなた、何をするといいましたか?」
いまだに空気を震わせながら、ゆらりっ、ゆらりっと、団長に歩み寄る姉上。
その表情は、いつにも増して、朗らかで、誰もが魅了される笑みなのだが。
まったく、これっぽちも目が笑って無い!
「(くっ、全員防御態勢! ア、アレを止めろ!)」
さすがと言って良いのか分からないが、この状況がマズイと肌で感じた団長は、慌てて防御陣を指示。
重歩兵たちは一糸乱れぬ動きで、背中にある背丈を越える盾を前面に、徹底防戦の構えを見せた。
完全鎧に大振りな盾。
見事な防御態勢だ。
そんな殺気立つ重騎士団を前に、
「あらあら、私の最愛に危害を加えようなんて……」
にこやかにほほ笑む口元に、人差し指を添えて優雅に歩を進める姉上。
そして、
口元に合った指先を、重歩兵の盾に向けて無造作に突き刺した。
ぷすっ!
うん。ありえない。
確かアルムデルの重騎士の盾って、竜鱗で出来ててドラゴンの一撃も耐えうるって聞いた。
それを、いくら姉上でも、指先一つで貫通させるなんて……。
身内の僕でも驚愕したのだ、姉上と対峙してる重歩兵は、
「(ひっ⁉ ひいぃぃぃぃぃぃぃ!)」
何とか悲鳴は上げられたようだ。
だが、彼の恐怖体験は続く。
「あらあらこの盾、ずいぶん柔らかいのですわね?」
「それ言えるの姉上だけだから! アルムデルが誇る最強の盾を、子供のように無邪気な笑みで穴開けてくの、姉上だけだから!」
「あらあら? アルに『無邪気で天使のように笑う姉と結婚したい!』なんて求婚されてしまいましたわ!」
「誰もそんなこと言ってないです!」
照れてるのか、姉上の盾に突き立てる指の速度が上がった。
いや、照れる要素がどこにある?
とにかく、そんな姉弟のじゃれ合いを余所に、アルムデル最強の一角と言われ、重騎士に選ばれた誇り高い団員は、
「(は……はひぃ!)」
ご自慢の盾に、次々と円状に空けられる穴を、ただ見守るばかり。
そして、
「あらあら? いつの間にか大きな穴になっていまいました……ね?」
ぽこんっと小気味いい音を立てて抜けた、拳大の穴から覗く姉上の瞳。
角度が悪くて、僕には姉上の瞳が見えなかったのだが、
「(ぐおぎゃわ、あがががが!)」
意味不明な言葉を吐きだし、盾を捨てて逃げ出そうとする重騎士。
見えない鉄仮面の下は、さぞかし恐怖に彩られた顔をしているのだろう。
だが、彼の恐怖はまだ終わらない。
「あらあら、駄目ですよ! あなたが持ち場を離れたら、せっかくの防御陣が崩れてしまいますわよ?」
逃げ出そうとした重騎士の頭に、姉上がそっと手を置いた。
大して力を込めてるようには見えないが、
「(あ……がっ……か、神よ!)」
重騎士はその場で膝を折り、一心不乱に神に祈り出した。
「あらあら? どうしたのかしら?」
微笑みつつ、姉上はブルブルと震える彼の頭に置いた手をそのまま、耳元でソッと何かを囁く。
途端に重騎士の震えが止まり、顔を上げた。
そこには畏怖や恐怖など微塵も無い、まるで神にでもあったような清々しい笑顔があった。
そして、
「(女神様に、絶対の忠誠を!)」
姉上を見上げるように両手を重ねて祈り出した。
「うん。姉上一体何をした!」
そう叫んだ僕に、姉上は微笑を向けたものの何も言わず、彼が落とした剣を反対の手で拾う。
右手には重騎士から奪った剣を持ち、左手は……。
「あらあら、それでは、あなたには試練を、そして、あなたが団長と言っていた人には……ちょっと強めのお仕置きを致しましょうか?」
そう言放ち、姉上は左手の重騎士を勢いよく団長に向かって投げた。
フォークより重いものを持ったことが無いと言われても、納得するような華奢な貴婦人が、鎧を着込んだ成人男子を引きずるのはおろか、投げ飛ばすなんて僕以外の誰が思う?
「(女神様の御心のまま……)」
「(え⁉ ちょ、ちょま! ちょま!)」
案の定、姉上に全てを委ねて抵抗なく飛ぶ重騎士に、何が起こったか半分も理解できない団長は……。
「(ぎゃふん!)」
重騎士と激突。
多分死んでないと思うが、もうもうと立ちこめる煙るの中。
「さあ、最後の戦争を始めましょうか?」
圧倒的な存在感で微笑む姉上。
我が国最凶で、最恐で、最悪の武道会が、始まった瞬間だった。
う、うほぉぉぉぉぉぉ!
ジャンル別日刊一位!
いちいぃぃぃぃぃぃぃ!
しかも、総合でも三ケタきりました!
ありがとうございます。
ありがとうございます!
あと、ちょっと暇とか、もうちょっと何か読みたいと思ったあなた!
同時連載している『半径三〇センチぐらいの最強勇者』なんてどうですか?
こちらの方もよろしくお願いします。