四天王編:1
極暑の熱帯夜、効きの悪いクーラーガンガンにかけ、キンキンに冷やしたビールを飲みながら書き溜めました! 長期連休(一部の例外を除く)で御用とお急ぎでない方、ちょっと覗いていきませんか?
「さあアル! そろそろ魔王軍四天王を討伐に行きましょう!」
あの騒ぎから二週間がたち、落ち着きを取り戻した学園の食堂で一緒に昼食を食べながら姉上は『帰りに寄り道でもしましょう!』みたいな気軽さで、そんなことをのたまわった。
「あの…………姉上? すでに魔王は(建前上)倒しましたよね?」
「はい!」
打てば響くように、軽快に返事が返ってくる。
「なんか、前にも言ったような気がするんですが、なんで今更四天王?」
とても嫌な予感しかしなくて僕は喉の渇きを覚え、食後の紅茶をゴクリッと飲んだ。
「はい! それはもちろん! 魔王を倒すにはまず、四天王だからですわ! これは物語の鉄板と言われるモノですわ!」
「うん? 最速で魔王を倒したのに、なんで今さら順番守るの!?」
そんな僕の、理にかなったツッコみに、
「はい! なので、明後日の週末。四天王の一人を倒しに行きますわ! これがアルと私の、恋路につながるのですから!」
さらに、
「おろおろ? 主殿が行くその一泊二日のラブラブ旅行には、やはり婚約者であるわっちが行かなくてはのう?」
物凄く良く気満々のヒルダに、
「あれあれ? 私! 聖女で治癒のエキスパンダーです! 魔力回復薬があれば、どこにだって行きますよ!」
なぜかやる気の、マリアーナの声が上がった。
あれ? これってもしかして、僕の意見なんか完全無視の状態?
これっぽちも人の話を聞かない姉上に、僕の週末の予定が決められた瞬間だった…………。
そして週末。
僕と姉上と僕の婚約者であるヒルダと、その仲間たちは、シュタイン王国の北に位置する小国ベウゼの主都の城下町に来ていた。
シュタイン王国に負けず劣らず石畳の整備された道に、綺麗に並び立つ建物。
とても四天王がいるようには思えないのだが…………。
「……なんか、この城下町の人達って…………活気にあふれてませんか?」
魔力回復薬を片手にするマリアーナと、
「ホント、とても魔物がいるようには思えない雰囲気。でも、なんかこの国、嫌な感じもするのよね?」
「そうだよな! 俺もそんな感じがしてた! ミナ、やはり俺たちは気が合うな!」
別に誰も呼んでないのに付いてきた、ミナとセツナ。
そんな多種多様で、意味不明な旅の仲間? たちだが、
それぞれが違和感を覚えていた。
そんな中、
「おい! そろそろ始まるぞ!」
誰かの声に、町の人々がぞろぞろと移動を始める。
「おろおろ? この先は確か……中央広場があったと思うのじゃが?」
その昔、一度だけ来たことがると言ってたヒルダが、記憶を掘り起こすように小首をかしげた。
まあ、とにもかくにも、今この国で何が起きてるのかを知るにはいいチャンスだと、人並みに付いて行った僕らの視線には、
広場全体から見えるように、木組みで設置された高台に並べられた四つの首切り台に並ぶ大小の男女と、筋肉ムキムキの男に拘束されている僕らと年の変わらない少女の姿。
「これより王国に反逆した罪により、オーベンシュタイン侯爵家の処刑を行なう!」
それを見下ろすように、さらに一段高い物見席に立つ、王子と思われる整った顔の青年と、彼に肩を抱かれる、庇護欲をそそられそな可憐で華奢な少女。
そんな彼らの目下で、
「アンジュ! 私がお前を王太子の婚約者に押したばかりに……すまぬ!」
首切り台に乗せられた、ダンディーと言う言葉が良く似合う、品のある貴族だと一目で分かるうちのおやじと同等ぐらい? のおっさんを皮切りに、
「アンジュ! 愛しているわ!」
「お前は正しい! 間違ってるのは王太子だ! この国だ!」
「おねえちゃん! おねえちゃん!」
きっとおっさんの奥さんとその息子と娘が、思い思いの言葉を拘束されてる少女に向かって叫んでいた。
「これって、貴族が反逆罪で処刑されようとしている所に出くわした?」
思わず呟いた僕の言葉に反応したのは、
「はい。でもこれ、冤罪なんですよね」
姉上の暗殺を請け、逆に姉上にフルボッコされて依頼をキャンセル。
そればかりか自分が生き残るために、所属していた暗殺組織を壊滅させ、姉上に忠誠を捧げた大陸一の暗殺者。『姉上の影』(名前は知らない)であった!
いや、ほんと、僕の『影』を放ち、一カ月かけてもこれ以上の事は素性も名前も分からない超一流の姉上の影である。
そんな人類最強の一角だろう彼に対し、
「あらあら? 私の許しも無しに、なに私の愛弟の前に姿を、しかもフランクに声を掛けるなんて……そんな礼儀知らずだったのでしょうか? 私の『影』は?」
容赦のない殺気を浴びせる姉上。
姉上の殺気に対し、条件反射で瞬時に身構える影はやはり超一流なのだろう。
さらに、
「えへ! えへへへへへへ! 済んません! ホント済んません! ただ俺は、この国を調べろと言われたんで、その報告を、適切なタイミングでと思っただけでして!」
自分が生き抜く手段を本能的に察し、地面に額をこすり付け、見事な土下座を披露した。
うん。
彼はすでに調教済みのようだ。
「あらあら? そうでしたの? でもあなた…………一瞬だけ抵抗しようとしましたわよね?」
「ひっ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
彼の一瞬を見逃さず、いつの間にか取り出した扇で、口元を隠し、意味深な笑みを浮かべる姉上。
それに影は恐れおののいているが、そうこうしているうちに、公開処刑が実行されそうなので、ちょっと膝を曲げて姉上を見上げる位置を確保し、上目使いで、
「すみませんが姉上。話が進まないので僕は彼の話を聞きたいのですが?」
『秘儀! 姉上お願い!』を実行させたのだ!
「おひょうぉぉぉぉぉ! アルが! 私にお願いだなんて…………もちのろんですわ! ついでに子作り新婚旅行パックもつけますわ!」
さすが奥義。
姉上は一発で落ちた。
まあ、子作り新婚旅行パックは、後で丁重にお断りするとして、
「で、この国の事情をてっとり早く説明して!」
僕はこの処刑の経緯を問い質すのだった。
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