閑話:『やはり父上も、姉上の父上であった!(婚約破棄の裏側で2)』
酔った勢いって怖いですね?
なんとなく、
『母上書いたら、今度は父上じゃね?』
なんて勢いで書きました。
後悔はしてません。
僕が母上であるエレナ・タリスマン率いる軍を、城門で説得している間、父上であるジェームズ・タリスマンは、王城にある王の私室で今後の事を話し合っていたと、後で父上の侍従トーマスに聞いた。
内容は以下の通りだ。
カシャ~ン!
緋色の鋭い眼光に、銀髪の髪をオールバックにした父上、ジェームズ・タリスマンは王の私室に入るなり、広い部屋に所狭しと並べられてる王のコレクションである多分貴重な壺のうち、手近にあった一つを床に叩きつけた。
「おいおい、何してんの? それ、タスマニア国からの……」
「それで! 俺が嫌で嫌で嫌で、『王命に背いて、ちょっと反乱しちゃおうか?』っとまで考えた婚約を、『でも、いきなり明日から焼け野原に住ませるのは、城下の人達に悪いかな?』っと思って、しかも、てめぇが……王がどうしてもと頭を下げたので、エレナたんをなだめすかし、アルサスが勇者の力を暴走させようとするのを止め、シルの宝が『あんな王子の婚約者になるなんて、我慢強い姉上は素敵です! 尊敬します!』って言ってたよ! なんて物凄い嘘を撒き散らしてシルの逃亡を阻止し、この数年、『お嬢様をあのアホの婚約者にするなんて、ジェームス様は仕事が出来るただのアホです!』とか屋敷のメイドたちに毎日冷たい視線を送られたり、『爺は、坊ちゃまの教育を間違えたのでしょうか?』とか、ことあるごとに執事の爺やに泣きつかれたのに、そこまでした俺の努力の結晶である婚約を、こともあろうに王族の方から一方的に破棄するとは、どういう了見だって聞いてんだ!」
ガシャン! ガシャン!
殺気を隠すことなく、怒りに任せ壺を割る父上に、この国の王は、真っ青な顔して視線を逸らした。
ホントにタリスマン家って、王族をなんだと思ってるんだろうね?
いや、僕も自覚があるのだが…………。
とにもかくにも、王様は割れた壺を名残惜しそうに視線の端に見ながらも、
「た、確かにシルちゃんには悪いことを……」
ガシャシャシャシャ~ン!
王様の謝罪の途中で、父上が壁沿いに並べられてた壺を一気に落とした!
「はへ~~~~! お前何してんの! 今ちゃんと謝罪してただろ!」
破砕した壺が両手に届きそうな数に、さすがに王様もキレ気味だが、
「我が王よ。貴様に我が愛娘を、『シル』と言う愛称で呼ぶことを許可した覚えはないのだが?」
煮えたぎった油さえ凍りそうな、冷ややか過ぎる視線の父上に、
「調子ぶっこいて、すみませんでした!」
膝を折り、床にひれ伏す我が国の王様であった。
遠い目でそう語るトーマスを見て、
(あれ? 王様って、いったい何だっけ? この国で一番偉いんじゃないんだっけ?)
なんて、自分のことは高い高い棚に置いた僕は思う。
まあ、何となく結末は見えたが、一応話の続きをトーマスに促す。
「いや、本当にゴメン! 心からゴメン! だから城門に集まってるエレナたんの騎士たちを…………」
さらに王様の謝罪の途中で、
ドスッ!
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!
ガシャシャシャシャシャシャシャシャン!
父上が放った魔力で右半分の壁が、飾ってあった壺ごと抉れた。
「え? えぇぇぇぇぇぇぇぇ! 謝ったのに? この国のトップが、これ以上ないぐらい低姿勢で謝ったのに? なにこの仕打ちは!」
謝罪姿勢から一変、王様が立ち上がり父上の胸ぐらをつかもうとして、
「我妻。エレナたんを、エレナたんと呼べるのは、この世界で俺だけなのだが?」
この国で一番偉い王様の失言に対し、
地獄の氷河って、こんな所かな?
なんて思えるほどの視線があった!
「ほんと父上って、どんだけ母上が好きなの?」
ここまでの話を聞いて、ほのぼのとした僕の笑みに、なぜかトーマスが、
「ほんと、この家族って怖いわ!」
なんか呟いたが、とりあえずスルーした。
とにかく、話の続きを聞きたくもあり、聞きたくもない僕だったが、ここまで聞いてしまったのだからと、トーマスに話の続きを促した。
まあ、僕のほぼ予想通りの展開だった。
「これは我が侯爵家を侮辱した分! それに我が愛娘を侮辱した分! そしてこれが、クルリンの分だぁぁぁぁぁぁぁ!………………さ・ら・に! やっぱま、我が嫁エレンたんを、エレンたん呼びしたのが腹立たしい分も追加してくれるわ!」
「ぎやあぁぁぁぁぁ! わしの壺が! わしの半生を掛けて集めたつぼがぁぁぁぁぁ!」
半狂乱で、父上が粉々にした壺の破片に駆け寄り、それを大事そうに拾い集める王が、キッっと父上を睨みつけ、
「愛娘は分かるけど、クルリンって誰だ! それに娘の分よりエレナた……エレナ嬢の分の方が壊した壺の数が多いのは何でだ!?」
「ふむ。それもそうだ、それでは愛娘の分を追加しよう!」
「ぎやぁぁぁ! 言うんじゃなかったぁぁぁぁぁ!」
この国の王が迂闊なのか?
我が父上が容赦ないのか?
父上が入室して、ものの数分で、彼の壺は全壊した。
「ぐずっ……この国の国王になってから……国費ちょろまかして、コツコツコツコツためたコレクションなのに……」
よほどショックだったのか? 言ってはいけない言葉を呟いたこの国の国王に対し、
「そんなの、宰相である俺が知らない訳ないだろ? お前が何かやらかした時のために、ちゃんと証拠は押さえている。まあ、今回は、お前の息子がやらかしたがな」
ばさりっといつの間にか王の不正の証拠の書類を、王の目前に投げ捨てた。
この国の王を相手に、一切の手加減を感じさせない父上。
まあ、我が家の家訓は、
『受けた恩は倍返し、受けた仇は気の済むままで返し続ける』
なので…………しょうがないよね!
まあ、とにもかくにも、我が侯爵家の報復は、そろそろ佳境へと進んでいた。
「ふむ。それとこれが、このたびの婚約破棄への賠償金と、シルをシルと呼び、エレナたんをエレナたんと呼んだことによる俺の精神的苦痛。及びお前が国費を着服した口止め料だ」
「ええ!? 愛称呼びも国費の事も、この惨劇でチャラじゃないの? それにこの金額! この国のほぼ国家予算じゃん!」
すでに口から魂が抜けだしてる国王に向い、
「もちろん知ってる。だって俺、この国の宰相だからね!」
父上は初めて心の底からの笑みを浮かべた。
やはり父上は、僕と姉上の父上だった!
追記。
「ああ! あと、数日中にスティーブン家にとてもとても不幸な出来事が確実に起こるけど、それはお前の方で握り潰しといて、それでも納得しない奴らがいたら……『タリスマン家が懇切丁寧に説明しに行く』そう言っといて」
呆然とする国王を尻目に、颯爽と王の私室を後にする父上。
やはり父上は僕らの父上だった………………。
了
最後までお読みいただきありがとうございます。
酔っぱらいの思いつきで、割と楽しく書いてる閑話です。
ご迷惑でなければ(反応が良ければ)これからも続けちゃおうかな?
なんて思っています。




