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閑話:『やはり母上は、姉上の母上であった!(婚約破棄の裏側で)』

まだ見てくれる人たちに、ちょっとしたサービスです。

姉上が婚約破棄された裏側です。

 婚約破棄騒動があった翌朝。

 タリスマン侯爵が誇る精鋭騎兵二千と、兵士五千が王都の城門前に現れた。

 彼らの前に馬を進めるのは、真紅の鎧を身に纏った銀髪の女性。


「時は着た! 今こそ惰眠を貪る奴らに、正義の鉄槌を落とそうぞ!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 彼女は兵士の雄たけびに呼応するように、馬上から抜き身の剣を高らかに掲げた。


「うん。それで、何をしようとしてんです母上?」


 兵士を鼓舞する銀髪の女性、僕と姉上の母であるエレナ・タリスマンに問いかける。


「盛り上がってるとこ悪いのですが、ここは王都の城門前。こんな物騒(完全武装)な奴らが意味も無く集まっていい所じゃないですよ!」


 そう言って母上を睨むのだが、


「え? え? だってだって私の愛おしくて愛おしくて、勢い余って目の中に入れようとしたら、『マジでやめて下さい!』って、タリスマンの騎兵二千騎が止めに入って、三日三晩の攻防の末、ようやく目の中に入れらた愛娘。シルに婚約破棄をした国よ? そんな国、地図上から失くしてしまえばいいのじゃない?」


 ぷくっと頬を膨らませる母上は、二児の子持ちとは思えないほど可愛らしいが、言うことは物凄く物騒だ。


 それにしても…………。

 え? 本当に目の中に入れたの?


 突然だが、タリスマン家は家族全員仲がいい。

 父上も母上もラブラブだし、姉上と僕も愛情いっぱいに育てられた。

 でも、その愛が重いのだ。

 特に母上は愛情の向け方が過激で、姉上が王子と強引に婚約をさせられたと知ると、王とその一族を、暗殺しようと計画、実行しよとするほど愛が深い。


 まあその企ては、王の土下座と僕らの必死の説得で止めさせてもらったが……。

 そんな母上が、今回の騒動(婚約破棄)を聞いて、黙っているはずがない! っと父が僕をここに寄越したのだが……。


「それにしても、一晩で良くこんだけの人数集めましたね?」


 タリスマン家の領地は馬車で三日は掛かる場所にある。

 そこから完全武装の兵が来るには、色んな準備を含めて一週間はかかると思っていたのだが?


「はい! こんな事もあろうかと、機動力重視の『疾風』だけを先行させました。明日には『嵐山』『火山』『風林』が到着します。これで王都の民は皆殺しです!」


「うん。楽しそうに物騒なこと言わないで! 別に王都の人間を皆殺しにしなくても良いでしょ!」

「……なるほど! アルは王族だけを始末しろと言うのですね?」

「違うから! 今父上が事後処理してるから母上は大人しく……」

「分かりました。ジェス君はジェス君の仕事を、私は私の仕事をしろと言いたいのですね?」

「うん? 何是だろう? 母上との会話が、全然かみ合ってないと思うのですが?」

「大丈夫です! 今はかみ合ってないと思うかもしれませんが、王都を落とした後に話し合えば、きっと分かり合えます! 全軍突っ……」

「言わせね~よ!」


 母上の言葉を、僕は大声で掻き消す。

 

「母上? こんなことしたって、姉上が喜ぶと思いますか?」


 懇願に近い僕の声に、


「え? ここで辞めたら、私の怒りが収まらないじゃないですか?」

「うん。母上のそれは、王都に住む人にとっては単なる八つ当たりですよね?」

「はい! それがいけないのですか?」


 ダメだ。

 ニッコリ笑ってはいるが、母上は怒りで我を忘れてる。

 普段は民思いの優しい母上なのに……。

 八つ当たりだが、この事態を引き起こしたバカを、後で二、三発殴ろうと思う。


 でもこれ…………どうしよう?

 母上の怒りを抑える材料が一つも思い浮かばない!


『もう、王族だけなら皆殺しも良いんじゃね?』


『ダメです! 王がいなくなれば国が荒れます! そこはせめてシルヴァーナ様に王権を譲るとの書面にサインさせてからの、皆殺しでなければ!』


 うん。僕の中の悪魔と天使よ。

 二人ともほぼ同じ思いだよ!

 どっちかと言うと、天使の方が色々計画的で、達悪くね?

 

 そんな詰んだ僕の心に、


「あらあらお母様? 何をしているのですか?」


 救世主! っと言うには物騒で、とても危険な香りの美声が響く。

 見やれば、城壁の最上段から飛び降る銀髪の女性。

 そんなの姉上しかいないじゃん!


「姉……上? どうしてここに?」


 そう叫びそうになる自分を押さえ、あくまでも冷静を装う。

 もちろん、頭の中はこの状況を整理しようとフル回転だ。


 僕が屋敷を出た時、確か『アルと一緒の夕食のドレスを選びます!』っと自室にこもっていたはず。


 ちなみに姉上は僕との食事をするために、数時間のオシャレタイムがある。

 その隙をついたはずなのだが?


「あらあら? 私が愛して止まない愛弟のピンチを、捨て置く女だと思ったのですか?」


 ファサッと髪をかき上げ、誰もが見惚れる、場合によっては魂までも抜かれる微笑を向ける姉上。

 そんな姉上に、


「ええ? なんでシルちゃん出てきちゃうの? それじゃ、メンドクサイ貴族のしきたりとか、ドサクサに紛れて、前回のパーティーで嫌味を言ったスティーブン家を潰せないじゃないの!」


「あれ? 母上? この度の兵の招集は、婚約破棄のためのものじゃ無かったのですか?」


 思わずこぼれた母上の本音に、すかさずツッコミを入れた!


 形勢逆転!


 これを機に、タリスマンの軍を引かせよう!

 そう思った僕の耳朶に、


「お母様。私の楽しみを奪わないで下さいまし。あの王子は、ごにょごにょって、ワンワン! ニャ~~ン! な目に合わせますわ! それにお母様の嫌いなスティーブン家は…………」


 なんだか聞いちゃいけない言葉が、複数聞こえた。

 姉上のその言葉に母上は、


「あら~~~! そうなの? それなら、今日の所は……全軍演習終了! これより領地に戻る! 私より早く領地に付いた者は、特別手当とシルちゃんの近衛兵に抜擢しま~す! それじゃ、よ~~い……どん!」


 どこか清々しく笑う母上は、騎馬の腹を軽く蹴り去って行き、


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ! 近衛兵になるチャンスじゃ!」」」」」


 それに追従する兵達。


 これで何とかなった。

 深いため息を吐いた僕。

 でも、


「姉上と母上って、いったい何を話したの?」


 その答えは、僕がこの国の学園に入学するまで謎のままだった………………。



 後日。

 前触れもなく、国王専用の馬車がタリスマン家に急停止し、


「すんませんでした!」


 馬車の扉が開いた途端に、国王が飛び出し、門の前で土下座を披露したのと、いつの間にかスティーブン家の関係者が、社交界に顔を見せないばかりか、王国での存在自体を抹消さていたのは…………。


 きっと、きっと、気のせいだと思う!

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