閑話:発熱(後編)
微熱、後編です。
「あらあら? アルの見舞いですか? それなら……例え我が侯爵家に先触れもなく押しかけてきたとしても、罰することも不敬を言いふらすこともしませんわ!」
おや?
なぜだろう?
姉上がいつも塩対応な彼女たちに対し、なぜか優しいのは……。
普段の姉上なら、瞬時にこの部屋の壁ごと彼女らを吹き飛ばしているはずだ。
何かおかしい……!!
姉上が持つ土鍋と見舞い客を交互に見て、一つの答えにたどり着いた。
だが、僕が警告を発するより早く、
「あらあら? このおかゆが食べたいのですか? ではどうぞ召し上がれ」
姉上はいつにまにか器におかゆを盛り三人に手渡した。
「ふむ。人外……義姉の料理にしては、良い香りじゃのう」
「あれ? なんかおかしい。惚れ薬とかは入ってる気配が無い! それよりなにより懐かしい匂いがするわ!」
「うわぁ! ボク、人間の料理って初めて食べるよ!」
ヒルデ、ミナ、メイリンがそれぞれ言いたいことを言い、ソレを口にした。
もぐもぐもぐ、ごっくん…………。
「「「なにこれ! おいしいぃぃぃぃぃぃ………………!!」」」
目をに開き、三人が絶賛した。
刹那。
「「「ふぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
陸に揚げられた魚のように口をぱくぱくさせ、唇を真っ赤に膨れ上がらせた少女たちが、
「「「み、みずうぅぅぅぅぅぅぅ!」」」
水を求め僕の部屋から飛び出していく。
そんな彼女らを見送り、
「あらあら? 病人の体を温めるために入れました、タリスマン家秘伝の激辛香辛料。少々入れ過ぎましたか?」
なんて、澄ました顔で言い放つ姉上。
「……ま、まあ、きっときっと、彼女たちなら平気でしょう。それより姉上。見た目普通のおかゆの、どこに辛味を入れたんですか?」
知っていなければわからないほど、出汁の匂いに混ざった香辛料。
どに混ぜたのか気になった僕が聞くと、
「あらあら? 別に隠していませんわ。ただ、おかゆに使ったお米が、研究に研究を重ねて去年、ようやく出来上がった、噛めば噛むほど辛味を増すお米だっただけですわ」
「うん。何その無駄な技術力!」
そう言い放った僕に、
「あらあら? これは一粒で通常の辛味成分の数百倍しますのよ? ご令嬢には脂肪の燃焼を促す薬として、千年氷河を越える旅人たちには体を温める救急食として売り出せば、我が領地に巨大な利益になりましてよ?」
前言撤回。
確かにその使い道だったら、侯爵家主力輸出物になりそうだ!
しかし、
「すみません姉上。僕が浅はかでした。でも、なぜおかゆに混ぜたんです?」
そんな疑問をぶつけてみた。
そう。
病人である僕に、刺激物はマズイ。
そんなこと、姉上でも分かってるはずなのに、なぜ。
答えは単純だった。
「あらあら? それは、私の大切で大切で、愛しても愛しても止まないアルに、変な虫が付かないようにですわ!」
どうやら本当にただの、虫除けに用意したもののようだ。
「……………………」
本当に大したことではない。
別に姉上のおかゆが食べられなかったとか、残念では無い。
病気の時特有の、『いつも以上に、誰かに優しくされたい!』
なんてことは、別に、これっぽっちも……。
「さ、さて、騒ぎが収まったし、もう一眠り……」
心の中で否定を続ける僕は、
なんかさっきよりも力の抜けた体を、さっさとベッドに沈めようとした、
その時。
「あらあらアル? 私のおかゆを食べないで寝るのですか?」
「え?」
視線を向けた先で、いつにまにか姉上は湯気の立つ新しい土鍋から、おかゆを小さな器に盛り、
「はい、あ~~~~ん」
一口大にスプーンに乗せたそれを、ふうふうと息を吹きかけ、僕に差し出していた。
スプーンに乗ったそれは…………。
ぱくっ
「もぐもぐ……姉上。これ、芯が残ってます!」
「はい!」
普通に炊いたモノより硬くて、
ぱくっ
「もぐもぐ……それに、塩が多すぎです!」
「はい!」
しょっぱくて、
でも、
この味は、
僕が勇者の紋章を無くして、高熱を出したあの時に、
姉上が泣きながら作ったおかゆの味そのものだった。
だから、
「姉上、このおかゆ………………」
「…………はい」
「さいこうに美味しいです!」
「はい!」
僕は姉上の極上の笑みをオカズに、姉上の愛情のこもったおかゆを食べ続けたのだった。
蛇足。
「ちなみに姉上。惚れ薬って毒薬の分類に入っていて、曲がりなりにも勇者の紋章を持ってる僕には効かないって……知ってました?」
「…………も、もちろんですわ!(そんなの初耳でしたわ!)」
了
これにて『悪役令嬢? 婚約破棄? 何それ美味しいの? 私には弟の愛さえあればいいのです!』は威終了します!
月末には『悪役令嬢? 婚約破棄? 何それ美味しいの? 私には弟の愛さえあればいいのです! にっ!』が投稿できる! はず!
楽しみに待っていていただければ、光栄です!




