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とにかく、魔王かそれ以上の魔力を持つ襲撃者を捕えた。
まあこの状況なので、身元は何となく分かってる。
でも、一応はっきりさせるため、
「マリアーナ頼む」
気付け代わりのアノ小瓶を渡すと、もう魔力回復薬の飲みすぎでお腹タポタポの、でもまだ嫁入り前の娘様に頼んだのだが。
「うぷっ、ア、アルサス様! なにか私に恨みでもあるのですか? なんか色々扱いが酷いような気がするんですけど? 私はこれでも……」
「あらあら? アルのお願いに、何か異論でもあるのですの?」
「おろおろ? 主殿が懇切丁寧に頭を下げておるのに、ヌシはそれを無下にすると言うのかのう?」
あれ? 魔王ってここに転がってる、おっさんを指してるんじゃないんだっけ?
なんてことを、心の片隅で思いながらも、彼女の言い分はスルー。
満面の笑みで、彼女に回復魔法をしろと促す。
「うぷっ、わ、私、ゴクゴク。うぷぷっ…………。せ、聖女になってから、良いことまったく無いんですけど!」
「安心して。聖女であるあなたは、ちゃんと讃えられますよ」
『まあ、姉上たちの刃向わなければね』
どうか僕の心の声が、彼女の心に届きますように!
そう思いつつ彼女に、僕が微笑みを向けていると、
「むぐゆっ!? うわぁぁぁぁ! 人間の作るケーキがいっぱい! これ、食べていいの?」
なんて、夢見心地なお寝坊さんが半身を起こした。
『良い夢見てたんだろうな……』
なんて思いを心の奥底に隠しながらも、出来るだけ生易しい笑みを彼女に向けた。
「うむ。とうちゃん! とうちゃんが人間界を征服する夢をみて、僕に奴隷になった人間に作らせたケーキを…………って! お前誰? とうちゃんは……はっ! そうだった! そこのお前! とうちゃんの仇! …………ぐえっ!」
「うん。姉上、気が付いたばかりの娘を、絞め技で落とすのは止めましょうか?」
「あらあら? でもコレ。アルを『お前』呼びしたのですわよ?」
「そう言うのもういいから! 話が全然進まないから!」
いつの間にか彼女の背後に回って、東洋の荒業『へっどろっく』をかましてる姉上に静止の声を荒らげた。
なぜだろう?
魔王と戦うよりも、今の方が肉体的にも精神的にも、物凄く疲れてるのは?
「とにかく、なんかもう、だいたい分かってるけど、君の名は? 魔王とどういう関係? いろんな前置きは良いから、サクサク話して!」
そんな僕の疲れ切った言葉が、脅し文句にでも聞こえなのか?
少女は『ぐぬぬぬ!』なんて声を口にして、
「僕の名は……メイリン。そこで倒れている魔王の娘だ!」
素直に答えた。
いやいやいや、問いたのは僕だけど、この状況で、この場所で! そんなに素直に答えちゃうの!
素直過ぎる彼女に、僕が視線を向けると同時に!
「やはり、魔王の血縁者でしたか……。ならば、死んでもらうしかないでしょ!」
真面目すぎる元勇者が、メイリンに向かってその剣を振り下ろした!
同時に僕の足の腱が、ブチブチと嫌な音を立て、
ギヤンッ!
僕の剣と、ジオルドの剣が交差した!
「なぜですアルサス様! コレは敵ですよ! さっさと処分しなきゃ、俺は、俺は……」
本当に、真っ直ぐすぎるジオルドの剣を、色んな所を痛めながら受け止め、
「いやいやいや! 闇雲に無抵抗な人間? いや、魔族を殺しても良いこと無いよ? も少し落ち着こうか?」
言いながらも僕は、マリアーナを視線だけで呼び寄せ手足を突き出す。
「はい! 『勇者の力』を使った、アルサス様の治療ですよね! もちろん大丈夫ですよ! もちろんお腹はタポタポですけど!」
なんか、苦情っぽい言葉も聴こえたけれど、それはスルー。
なぜなら………………。
「あらあらあなた? 私の愛おしくて、好きで、大好きで! 毎晩アルが熟睡している時を見計らって、一緒のベッドに寝て、アルが起きそうな時間に、痕跡も残さず去って行くぐらい大好きなアルに、剣を向けましたわね?」
今はしなきゃいけないことがあるからだ!
それにしても………………………………………………。
僕のベッドで寝た?
学園の警備はどうなってるの!
そんな僕の心の悲鳴に、
「あらあら? 学園の警備者は、全員、私に絶対的忠誠! を誓ってましてよ?」
心を読んだような、姉上の笑み。
どうしよう?
学園にも、いや、侯爵家にも僕の味方はいない!
そう感じた、姉上の笑みだった………………。
「メイリン。とにかく君は君の父親を助けたいんだよね?」
侯爵家と学園寮の警備は、後で見直すとして、
僕はきっと、腹ぐろ……。
ゴホン!
悪戯を思いついた少年のような笑みを浮かべ、メイリンに質問を始めるのだった。
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