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よろしくお願いします。
「いやいやそれどうなん? 魔王討伐って、人類が熱望するような偉業だよね? それを今日魔王城に来たばかりの僕らがやって良いの?」
そんな僕の悲痛混じりの言葉に、
「あらあらアル。止めはやはり、貴方が刺さないといけませんわ!」
倒れた魔王に一瞥もくれず、こんな場所にいても、衣服の乱れも見せない姉上が微笑み、
「そうじゃぞ主殿。今ならどんなナマクラ剣でも綺麗に魔王の首を刈れるのじゃ!」
いまだピクピクとしか動かない魔王の首を、とれたて新鮮! みたいな魚のようにぱしぱし叩くヒルデ。
「諸悪の根源の魔王など、アルサス様のお手を煩わせるまでもありません! なんなら元勇者の俺が止めを刺して、この、訳の分からない因果の輪に終止符……ぎゃん!」
シャラン! っと、カッコ良く引き抜いた腰の剣で、魔王を狙うジオルドは、どこからともなく飛んできた、ドングリによって吹き飛ばされ、
「うがはっ! これ! こんな痛みは……」
頭を抱え、ゴロゴロと地面をのたうち回った。
「さあさあアル。せっかくここまで来たのですから!」
「そうじゃぞ主殿。サクッといっとくのじゃ!」
「ホントになんか、『魔王討伐! 日帰り体験馬車ツアー!』みたいな軽いノリなんですけど?」
そんな、魔王城なのに午後のティータイムみたいに和やかな時だった。
「アイスランス!」
どこからともなく聞こえる少女の声と、
「罠か? アルサス様! 囲まれたぞ!」
ジオルドの視線を追うように、天を向けば、
「あらあら、夜空に浮かぶ星のようですわ!」
「そうじゃの、今にも降ってきそうじゃの!」
「うん。降ってきそうじゃなくて、今まさに降って来てるんですけど!」
ボーっとした姉上の感想や、ヒルデの比喩では無く、本当に煌めく氷の槍が、所狭しと降り注いできたのだ!
「全員伏せろ! ヒルデ! マリアーナ! 防御呪文! 最大出力!」
「おろおろ、分かったのじゃ!」
「ええ! 私も、お腹が……ひえぇぇぇぇ! 今すぐに!」
刹那!
バキバキバキバキッ!
氷の槍と魔法の盾が、静寂で緩みきった空間に、けたたましい音を響かせた。
「くっ! こ奴、わっちの防御をここまで……」
豪雨のように降り注ぐ氷の槍に、たまらずヒルデが防御魔法を重ね掛けする。
ちなみに、ヒルデと一緒に防御魔法を放ったマリアーナは、
「ごぶ……もう……むり……」
魔力回復薬の飲みすぎで、いろんなもんが限界すれすれで身動き取れない状態だ。
それは置いといて、いくら苦手とはいえ、大陸一を誇るヒルデの魔法の盾を壊すには、魔王と同等の特級以上の魔族しかいない。
「はあ。僕がかたをつけるしかないか?」
ほぼ単独で魔王を倒した姉上に任せても良い。
むしろ、姉上に頼みたいのだが、
「ふん! アル君言ってたから! もう私を殺す命令なんて、あんたには出来ないんだって!」
「あらあら、はい! 『三回転げまわってにゃふぅ~~んって言う様』こちらに『尻尾ブンブン振り回しながら様』でいらして」
「なにを言って……」
ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ……。
「にゃふ~~~ん! って! なんで? なんでこんな命令を……」
言いながらも、まるで主人の元に走り寄る愛犬のように、姉上の元に走っていくミナ。
姉上の中では、ここは遊技場になっている。
「……さすがにこれは邪魔できないかな?」
姉上の楽しみを奪う訳にはいかず、僕は覚悟を決めた!
ちなみに他の二人は、
「これ、防御魔法の外出ちゃダメかな? ほんのちょっと、片腕とか足だけなら……」
何か言ってる変態と、
「俺もう帰っていいよな? 今攻撃してる相手、魔王じゃないし、ミナと二人で、帰っていいよな?」
なんて、仲間を置いて逃げようとして、惨めに死んでしまうフラグを立てるこの国の王子。
ダメだ。
あてになる人間がここにはいない!
なのでやはり、僕が行くしかないようだ。
「ヒルデ! 合図とともに防御魔法解除! 僕が出たら再展開!」
「分かったのじゃ! あと、こいつにも魔力回復薬飲ませておくのじゃ!」
「ふっ、さすがヒルデ。良く分かって……!」
段取りの良いヒルデに、思わず笑みがこぼれた、
その瞬間!
「あらあら? 私だって分かってますわ! アルはこの娘! この娘のチクチクとウザい攻撃を、止まそうとしたのですわよね? ね!」
そう言った、僕の目前に立つ姉上の右手には、
「むっ、むぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
顔の整った真っ赤な髪の、僕らと大して年の差のないと思える少女が、目を回していた!
うん。もしかしなくてもこの魔力。
あの魔法を打っていた者だと分かった。
『姉上は、どうやってヒルデの防御魔法から抜け出した?』とか、『勇者の力を使った僕でさえ、彼女の位置はおぼろげだったのに、なぜ正確に捕まえられたの?』とかの疑問はスルーで!
なぜなら、それが姉上クオリティーだからだ!
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