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さあ、いよいよ魔王との決戦開始!
気を取り直し、魔王城の最上階の扉を一気に開いた。
そこには。
学園の校庭ほどもある部屋の奥に、
禍々しくも威厳のある玉座に座る。
頭には魔族特有の立派なねじれ角が二つある、二メートルは有に越える褐色で頑丈そうな体躯。
多分、魔王だと思われる者は、
「ふははは! よくぞここま……」
玉座に座りながらも機嫌よく、口を開いたのだが、
ヒュンッ!
僕の横を最高速で何かが横切る。
そして、
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「え? ちょま! 今、最高に盛り上がる……ごべへぁ!」
魔王は、僕の横を駆け抜けていった影。
姉上の一撃によって、右隅の壁に激突していた。
「いだだだだだ! なにこの一撃! いた! ちょっとこれ、有り得ないほど痛いんですけど!」
何となくフレンドリーな言葉使いの魔王が、脇腹を押さえつつ、その場で立ち上がろうとしたのだが……。
「はあ! せい! とお! たあ!」
「ぐへっ! ちょっ! ちょちょ! 痛いいだい! まだ! まだ立ち上がって……いだだだだだだっ!」
右へ、左へ、上に、下に、まだ立ち上がれない魔王を、姉上の斬撃が襲う。
さらに、
「準備、オッケーじゃ!」
「あらあら、それでは……」
トンッと地を蹴り、姉上が魔王との距離を取った。
刹那。
「え? え? なにこれ? 結界? ウソ! 硬っ! ちょちょ、これって……」
いきなり結界を張られ、狼狽えまくる魔王様の耳朶には、
「左に現れるは大地を焼き尽くす伝説の炎竜! 右に現れるは大地を水没せん古の水竜! 汝らの力、今こそ解き放たん!」
ヒルデの詠唱の歌声。
うん。この魔力の集中度から、ヒルデの究極奥義に違いない。
「え? なになに? 我の地面が!!」
僕が彼の冥福を祈るより早く、ヒルデの呪文が完成した。
「天水地炎!」
うん?
これってもしかしなくても…………………………。
そんな僕の予想通り、魔王様は、
「うはははは! うむ。これは良い湯加減じゃ!」
何人も入れない結界を張られた彼が、その身に受けた魔法で結界は、彼が膝を折れば、肩までお湯に浸れるほどの、
ちゃぽんっ!
とか音がしそうな、並々と湯の張られた湯船となっていたのだ!
「がははは! こんな魔法攻撃なら、いつでもウエルカムだぞ!」
などと、手ですくったお湯で顔を洗い、ご満悦の魔王様だが、
「炎竜! 炎竜! 炎竜!」
「ギュルオォォォォォォォォ!」
ヒルデの声に反応し、見ていても分かるほど湯の温度が上昇。
結果。
「うん? ちっと、いやいやいやいや! あっ! あつつつつつつ! これ、もうちょっと温度を……うぎゃぁぁぁ! お湯! グツグツしちゃってるって! 煮えちゃうって! 魔王の煮物が出来ちゃうって!」
ヒルデの作った結界によって、ゴボゴボと煮立つ風呂に囲まれた。
魔族の頂点。
人類より、遥か昔から存在していたとされる、千年氷河から生まれたとされる、さすがの魔王も、
「あつ! もう無理! 降参! こうさんだから! 復活して間もなくて、なんにも悪さしてないけど、もうなにも悪いことしないから! あつ! こ、ここから出して!」
なぜだろう?
人類に仇名す魔族の頂点の魔王のはずなのに、いつのまにか僕は憐憫の視線を向けていた。
さすがにこれはやりすぎだと、ヒルデに視線を向けたが、
「あらあら、ヒルデ、あと五分ですわ!」
「おろおろ、分かったのじゃ!」
こんな時ばっか、二人の息が合いすぎていた!
そして五分後…………………………。
「あ……あずい……それに閉ざされた空間なんで、蒸気で熱せられて息苦しくて……だ、だれが、だず…………げ…………」
ぷかり…………………………。
そして、のぼせた魔王が動かなくなって数分後に結界が解かれた…………。
「………………………………」
返事も反応もない、どうやらただの死体のようだ。
そんな哀れな魔王を横目に、姉上が、
「あらあら、さあアル! 諸悪の根源、魔王に止めの一撃を!」
魔王をツンツンと靴の先でつつきながら、晴れやかに残酷な事を言い放った!
「うん。魔王瀕死だよね? もうどっちが魔王だがわかんないよね?」
こうして僕らの魔王討伐の旅は、わずか数日で終わりを告げたのであった……。
あれ?
なんか、この回で、魔王戦終わってません?




