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勇者編、決着です。
「よろしくお願いします!」
ジオルドが剣を抜き放ち構える。
対する僕は、
「へえ、さすが現勇者。緊張も気負いもない、隙の無い良い構えだ」
ちょっと上から目線の台詞を吐き、腰を落し剣の柄を握る。
これだけの使い手が相手だと…………。
「全力で一撃……。ってとこかな?」
彼の実力を測る僕の呟に、
「それは俺を一撃で倒すってことですか? 一応、結構な死線を潜り抜けてきたつもりですが……。舐められたものですね」
うん。まったく違う意味なのだが、相手の勘違いを正す事なんて別にしないで良いだろう。
「まあ、すぐバレることだろうし……それじゃ、行くよ!」
僕は足に力を込め、地面を蹴る。
「ぐっ!」
途端に襲い来る、蹴り足からブチブチと小気味いい音の激痛に、顔が歪んだ。
だがすでに、彼が射程距離に入っていた。
「はあぁぁぁぁ!」
裂帛の声と供に、僕は腰の剣を両手で引き抜き、ジオルドに襲い掛かる。
「くっ! 絶対防御!」
僕の奇襲に対し、彼は左手をかざして防御魔法を唱える。
が、
パキンッ!
「え?」
多分、彼の最高位にある防御魔法は、僕の一撃でいとも簡単に砕けた。
まあ、対価に僕の腕の筋肉繊維もズタボロだが。
「さすがはアルサス様! でも、これぐらいじゃ、俺は負けない!」
僕の一撃を、剣で受けようと判断するジオルド。
そのとっさの判断は、さすがは現勇者だ。
己の能力にあぐらをかかない、彼の態度は称賛に値する。
彼が僕の後任で良かったと思える。
そろそろ倒れちゃおうかな?
『うわ! やられた! やっぱ現勇者が一番強いや!』
僕がここで倒れてそう言った方が、色々後始末が楽に……。
なんて思ってる僕に、
「あらあらアル? 私は、信じてますのよ?」
聞き慣れた声が苦痛に歪む僕の耳朶を打つ。
「はぁぁぁぁぁ。そんなこと言われちゃ、頑張んないといけないじゃないですが!」
たかが祭りの一環。
本来なら、こんな所で勇者の仲間と、勇者本人を辱めるなんてあってはならない。
でも、
それでも、
魔王を倒すため、世界のために戦う彼に、振る下ろす僕の剣はエゴ。
世界の、いや、誰の得にもならない、ただただ感情を暴走させた、わがままに、愛する家族のために(この家族って表現重要!)僕は僕のエゴを押し通す!
「間接的とはいえ、姉上を泣かした奴は、俺に殴られ逝ってしまえ!」
「こ、こんな……いや、今は俺が勇者なんだ! こんな、これぐらいの…………」
ジオルドの構える剣に僕の剣が当たり、全身の筋肉が、骨が、悲鳴を上げ、
ゴシュッ!
インパクトの瞬間、彼の足元の地面が剣圧で切り裂かれた。
あれ? ちょっと力の加減、間違えちゃったかな?
そう思う僕に、
バキリッ!
僕の剣を受けた彼の剣が、粉々に砕け、
衝撃で彼自身が吹き飛んだ!
同時に僕の力を込めた両腕の、筋肉組織や神経がブチブチと音を立てて切れていく。
「う…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
剣戟で出来た山も切裂く地割れを外れ、絶叫と共にゴロゴロと地面を転がるジオルド。
そして、
「……………………………………………………うぅ」
大丈夫!
満身創痍で気絶してるみたいだけど、肩が上下してるから死んでない!
「きゃ…………はあ? なにこれ? ちょうありえないんですけど!」
「…………ぶくぶくぶく(あまりの出来事に絶賛気絶中)」
「なんですかあの一撃! 天災! 天災レベルですよねコレ!」
デイジ、エマリア、マリアーナが呆然と見守る中。
「良かった。久しぶりだから、手加減が難しかったけど……勇者は死んでない!」
すでに立っていられない僕は、事の成り行きを確認し、静かに地面に突っ伏した。
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