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よろしくお願いします。
「さあ、アルサス様。俺にご指導願います!」
「うん? なんで僕? 僕は……」
もう勇者では無いんだと言おうとした言葉を遮り、
「能あるドラゴンは、爪も知恵も隠す……。どこかの国の格言でしたよね? 六才にして歴代最強と噂され、しかも、大陸で二本の指に入るシルヴァーナ様とヒルデガルド様の信頼厚い『元勇者様』に、ぜひ教えを乞いたいのですが?」
どうやらこの勘違い野郎は、僕に隠してる爪とか知恵があると思ってるらしい。
「いやいや、盛り上がってるとこ悪いんだけど…………」
この申し出は、丁重に断ろうとしたのだが、
「あらあらアル。良いではありませんか! このような脆弱な者でも、あなたの力を見たいと言うのですから」
満面の笑みを浮かべ、いつの間にか僕の右隣りにいる姉上が、ポンッと僕の肩に手を置いた。
うん?
何言ってんだ、この姉上様は!
そう思って姉上を睨もうとするが、
「おろおろ、そうじゃな。わっちも主殿のあの姿を見たいのじゃ!」
左隣のヒルデが、期待に満ちた瞳で声を掛けてきた。
「ん? なんで二人とも、僕に期待の目を向けているのかな?」
否定と非難を込めた視線で、二人を交互に見たのだが、
「あらあら、それはもちろん! 久しぶりにアルの雄姿が見たいからですわ!」
「おろおろ、それはもちろん! 久しぶりに主殿の本気を見たいのじゃ!」
なんか、ものすっごく、キラキラした目で見つめ返された!
さらに、
「大丈夫ですわ。今は私がついてます!」
「そうじゃぞ! わっちがいるのじゃから、後のことは気にしなくていいのじゃ!」
「はあ? 私がいるから、大丈夫です!」
「わっちがいるから、大丈夫なのじゃ!」
額を突き合わせ、ガンを飛ばし合う二人は、
「あらあら?」
「おろおろ?」
今にも周辺を巻き込む気、満々の戦いを繰り広げようとする。
神様、女神様! どうかこの二人を鎮める手段をお教えください!
無理か!
早々に神にも無理なお願いを放棄した僕に、
「アル。私は悔しいのです!」
なんて言って、姉上がぷりぷり怒る顔を近づけてきた。
「私の愛弟は、例え勇者の紋章が無くても、こんなに…………。可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて、凛々しくて凛々しくて凛々しくて凛々しくて凛々しくて凛々しくて、強くて、カッコ良いと私が方々で言っているのにもかかわらず、まだ、あなたを軽視する者がいるのが!」
ぐっと拳を握り、目の端に涙を溜める姉上に、僕が勝てるはずなんて無く……。
「はあ。アレをすると、後が色々と……はあ。やりたくないんだけどなぁ…………でも」
僕は覚悟を決めた。
確かめた腰の剣は、さすがは侯爵家が選んだ良質な剣。
まあ、一回ぐらいは持つかな?
「…………分かった。侯爵子息アルサス・タリスマン。この勝負、受けさせて頂きます!」
姉上とヒルデに押し切られる形で、僕は勇者と戦うことになってしまった。
あと少しで三部も終わりです。
応援よろしくお願いします。




