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よろしくお願いします。
その村は、森に囲まれた小高い丘の上にあった。
十数軒しかない平屋と、きっと何代も受け継いで、苦労して開墾したであろう斜面に沿って段々に作られた畑には、本格的な夏を前に、あと数週間で収穫できそうな作物の実がなっていた。
「ようこそおいでいただきました。ささ、一刻ほどお休みくだされ。そして、早々に王都に逃げなされ」
僕らを迎えたのは、常時プルプルと震える手に、錆と刃こぼれの激しい抜き身の剣を持つギルと言う名の村長。
それと、彼と対して変わらない年の、でも各々武器を手にする老人の集団だった。
「ここは名も無き村。すでに女子供は、若人たちに守らせつつ逃がしました。後に残ったのは老い先短いジジイとババア。それでもあいつらの逃げる時間稼ぎにはなる。じゃから、あんたたちも早う逃げなされ、出来れば、老い先短いジジイの頼みを、村の若人を護衛してくれれば幸いじゃ」
村長の言葉に、僕は驚かなかった。
この村に来る途中、この村から去る一団に話を聞いてたからだ。
この村が津波の通り道だと知り、村には退去指示が出された。
でも、この村にある馬と馬車を合わせても、女子供が乗るだけで定員オーバー。
馬車を引く馬だって、田畑を耕す農耕馬を使う。
寄せ集めで作った馬車をいきなり引かしても、スピードは出せない。
そこで、足手まといとなる老人たちは、彼らを逃がすための盾にと志願したのだと。
この村の村長、ギルの息子だと言った男が、泣きながら話してくれた。
『年寄りを殺し、子供を生かす』
彼らが出した苦肉の答えを、批難するつもりなんてさらさらない。
それが、彼らが選んだ道だから。
だから僕は、僕の信じる道に沿って、胸を張ってこう叫ぶ。
「シュタイン王国次期侯爵。アルサス・タリスマンが宣言する! この村で津波を食い止める! この村に残りし勇敢なる戦士よ! 今から僕の指揮下に入ってもらう! この村の人々、作物一本も奴らにくれてはやらない! 僕らはそのために来たのだから!」
この村の人々が、少しでも勇気づけられればと、僕は馬上から高らかに宣言した。
「あらあらまあ! もう! 格好いいです! 素敵です! もうその言葉だけで子供が出来てしまいそうです! アル、子供の名前はあなたが付けて下さい!」
「婚約とか結婚とかすっ飛ばして、もう子供の話! 姉上、僕が士気を上げてるんですから、余計なこと言わないで下さい! 見て! この村の人達、この状況に唖然としてるから!」
せっかく士気を上げようとしたのに……。
眉間にしわを寄せ、こめかみを指で押さえる僕の耳朶に、
「おお! あれは! あのお方は! 一睨みで魔物を消し去ると言われる『銀髪の戦乙女様』じゃ!」
「なに! それは一撃で大地を切裂き、エダル湖を作ったと言われる女神様の再来と言われる、『創造と破壊の女神様』のことか!」
「生きてるうちに、女神様に会えるとは……ありがたや、ありがたや!」
姉上の登場に、喜々として拝みだす老人たち。
……どうやら僕の放った言葉より、姉上の存在の方が彼らの士気を高めたようだ。
うん。別に、全然、恥ずかしくもないし、悔しくも無いんだから!
それにしても、姉上、あなたはここらでいったい何をしたんですか!
…………とにかく、僕らは一丸となって津波《魔物の群れ》に対処できることに……。
「遅れてすまない。でも、俺たちが来たからには、この村を絶対救って見せる!」
思ったのも束の間。
馬を駆って来た勇者に、右の頬を引きつらせ、
さらに、
「あらあら、やはり拷問道具は必要でしたわね」
「そうじゃの、やはりノロ薬でもあればのう」
後ろにいた二人の殺気のこもる呟きに、左の頬も引きつらせた。
明日、勇者たちと再び対面です!




