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よろしくお願いします!
「これが王からの親書です!」
速度重視の軽鎧を身に着けた王国の伝令が、鼻息荒い馬を落ち着かせながら、僕に向かって手紙を差し出した。
見る限り彼の服装に疑う所や不備はなく、手紙の印も王のモノに間違いない。
それにしても……。
「おいおい王よ! その学園生徒の中には、隣国の皇女と王子がいることを知ってて書いてるの?」
中身を確認して僕はぼやく。
そう。
この場には、宰相の子供である僕たちの他に、隣国の皇女と隣国の王子と、元とは言えこの国の王子がいるのだ。
それに対し、伝令の騎士はもの凄く言いづらそうに視線を背け、
「……アルムデル帝国の王女とオルスマン王国の王子は、速やかに近くの簡易キャンプ場に避難してくれと……」
あれ? 元王子と一般市民の名が出なかったが、それは良いのか?
確認しようと伝令の騎士に視線を向けるが、
『これ以上、何も聞かないで下さい!』
困った視線の彼に追求するのを辞め、代わりに、
『ああ、こいつも、色々大変なんだなぁ……』
なんて、生暖かい視線をセツナに向けた。
そんな中、
「そんな危険な場所に、婚約者だけを向かわせ、わっちには逃げよと? おろおろ、ずいぶんアルムデルの王女は軽く見られたものじゃな! シュタインの伝令よ、帰っておヌシらの王に伝えよ! このアルムデル帝国第一皇女ヒルデガルド・フォン・ミユーゼルは、例え絶望に突き進もうとも心に決めた主殿と一緒にいると!」
「ヒルデ……」
もしかしたら、単に暴れ足りないだけかもしれない。
もしかしたら、非常事態だからと以前機会があればとか言ってた、禁呪の魔法を使いたいだけかもしれない。
でも、
それでも。
僕は婚約者に、感謝と親愛を込めた瞳を向ける……が、
「そうだ。余も同じ考えだ。このアマダイトの鎧が、魔物の群れに踏みしだかれ、どれだけの痛みが与え……ぎゃん!」
「あらあら失礼。ブンブンとうるさい羽虫がいやがりますわね!」
姉上の鉄扇がエミールを黙らせる。
まあ、実際うるさかったし、いつものことだが…………。
「姉上。今の、ヒルデの台詞が台無しになるタイミングを計りつつ、自分がエミールの言葉に我慢できずにツッコみましたよね?」
「あらあら、さすがアルです! 私のこと、良く理解しています!」
「うん、もうちょっと本音を隠しましょうか?」
そんなやり取りの間に、
「ちょちょっと! 私は? 私ってそう見えてしまうでしょうけど、『聖女様』とか『奇跡の歌姫様』とか言われてる貴重な淑女なんですけど! 私もキャンプ場に戻っても良いんだよね?」
伝令の騎士につかみかかる勢いのミナ。
淑女って、何だろう?
そう思える、彼女の必死の訴えに対し伝令の騎士は、
「ああ、私はただの伝令なので、今言った以上の事は何も知りません。ただ……王からの命令に背くと、あなたのお家が色々と……」
物凄く冷めた言葉を放ち、視線を背けた。
「ああ、それはもしかして、俺の事も……」
ポツリと呟き、この世の終わりかと思うぐらい肩を落とす元王子。
なあ王よ。
本当に、もしかして、この騒ぎに乗じて、前回やらかした二人を、亡き者にしようとしてないか?
そんな考えがよぎった思考を、僕は軽く頭を振って追い出した。
「それでは、私はちゃんと伝えましたから! 後のことは私の責任じゃありませんから!」
僕らに念を押し、馬を駆り去って行く伝令の騎士。
「宮仕えって大変だな……」
哀愁漂う後ろ姿に思わずぼやく。
それにしても、
「あらあら、ここには簡易ギロチン台も、拷問道具も無いのですか? 困りましたわ。一回寮に戻った方が良いのかしら?」
「おろおろ? ここには痺れ薬もノロ薬(腹を物凄く下す薬)もないのかえ? まあ、それはわっちの魔法で何とかするかのう」
「姉上、ヒルダ? 魔物の津波に装備を整えるのは良いけど、なんか対人用の、しかも拷問するようなもんに偏ってませんか?」
「「…………(にこっ!)」」
南に向かうと知った途端、
なぜか無言で笑みを浮かべる姉上とヒルデと、
「いや~~~~! 私『戦乙女の歌い手』だけど、戦闘力は無いの! そんなとこ行ったら死んじゃうから!」
「うん、なんか、国に捨てられた感ハンパないな…………」
「巨大な魔物に強烈な一撃を喰らうのが良いか? それとも矮小な魔物の群れに踏みつぶされた方が……う~~ん悩みどころだ!」
ミナが騒ぎ、セツナは落ち込む。
え? エミール?
彼の言葉は、完全にスルーの方向で!
とにかく、混沌を極めた彼らをなんとかなだめすかし、キャンプ場から馬を借りて僕らは津波の進行先にある村に向かった。
これから三部の佳境に入っていきます!
応援よろしくお願いします!




