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「グギャァァァ!」
「あらあらアル、魔物ですわ! えい!」
僕の右腕を拘束している姉上が、なんだか嬉しそうに先ほど拾ったドングリを指先で弾き、オーガの頭を豪快にクラッシュさせ、
「おろおろ主殿、こちらにも魔物じゃ、そいや!」
左腕を拘束しているヒルデが、ウキウキしたように十数匹のゴブリンの群れを、一瞬で消し炭にした。
「どうですアル? 私、頑張ってるでしょ?」
「どうじゃ主殿? わっち、役に立っておるじゃろ?」
「なあアルサスよ、この状況は『美女二人をはべらかせて、羨ましい! 破ぜろリア充!』っと悔しがる所なのか? そう言った方が良いのか?」
バカだけど、基本真面目なセツナ元王子が、どこか気を使った風に問い掛ける。
「ええ、もちろん!」
「ああ、その通りじゃ!」
美女と呼ばれた二人が、にこやかに背後を向いて肯定する中、
僕は物凄い息苦しさを感じていた。
勇者に会ってから数時間、
僕らは東の森にいた。
勇者たちが南に向かったから、少しでも距離を置こうとした。
それは予定通りなのだが……。
「あらあらヒルデさん。あちらにミノタウロスがいますわ! あなたの炎で炭にしてはいかがですか?」
「おろおろ、これはかたじけない。それよりお義姉様よ、あの空に浮かぶのはワイバーンでは? ご自慢の指弾で撃ち落としてはいかがか?」
「いやいや、なにこの空間! 二人が仲良く狩りなんて怖いんですけど! それより、僕の両腕を自由にしてくれませんか?」
「「それは断る!(のじゃ)」」
どうやら僕の拘束は解けないらしい。
まあ、勇者に会った僕に、二人は気を使ってくれているのだろうが……。
「あらあら? 獲物ですわ!」
「おろおろ? 獲物じゃ!」
姉上とヒルデの瞳が、同じ瞬間に獲物を捕え、真逆の方向に僕の腕を引く。
「ぐはっ!」
うん。この祭りが終わるまでに、僕の体……持つと良いな…………。
その日の夜。
僕らは、各所に設置されたキャンプ地に、予定通り到着した。
参加者の安全を考慮したのだろう。
急斜面の山を背に、左右には十メートルを超えるだろう旧魔法王国時代の、何の意味があるのか分からない、普通の岩より硬い何かで出来た真四角の謎の遺跡が囲う要塞だった。
そんなことより、僕は休みたい。
いや、魔物狩りとか、何にもしてないけど、とにかく一人で休みたかった。
僕たちは受付を済ませ、魔物を狩ると自動的に数をカウントしてくれるカウンターを、カウンターに預けた。(決して、決して親父ギャグではない!)
そして、事件はおきた!
「あらあら? ここには、お風呂は無いのですか?」
「おろおろ? そうじゃの、今日は中々に熱かったのじゃ、汗ぐらい流したいのう?」
「え? なんか私たち、ハイキングみたいに野山を歩いてましたよね? 戦闘での汗はかいてないですよね?」
そんなミナのツッコミを余所に、風呂を所望する最恐コンビ。
「ああ……。ここ、簡易キャンプ場なんで、風呂なんてある訳ないじゃないですか? まあ、シャワールームぐらいはあるんっすけど……。それが嫌ならさっさとリタイアして、帰った方が良いんじゃないっすか?」
それが当然だと思うのだが、なんかこのキャンプの管理者。
横柄な態度が物凄く鼻に着くのは気のせいか?
いやいや、まあ、きっときっと、毎年ここに来る貴族の子息たちの相手で、心が荒んでしまったのだろう。
彼のために、僕は心の中で必死にフォローしたのだが、
「自分、今日初めてのバイトなんすよね? 風呂が無いからって文句言うようだったら、さっさと帰れって言えって、マニュアルにあるんで、 あんたたちが帰れば、俺も帰れますんで!」
…………まあ、こいつの態度に、普通の貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃん程度なら、文句を言いつつ屋敷に帰るとかわがままを言う所だろう。
だが、姉上やヒルデのわがままは、そんな軽いわがままでは無かった。
「あらあら、そうですか……では」
「おろおろ、そうじゃとしたら……のう」
今日の魔物狩りの時もそうだが、いつも不仲だと思われる二人は、目的が一緒だと驚くほどに息が合う。
「ところで管理人とやら。ここに泊まる者が勝手に風呂を作るのは良いのじゃな?」
ニヤニヤと笑う二人が、何をしようとするかは、なんとなく分かっていた。
でも、
「はあ? 勝手にすればいいじゃね~すか? まあ、湯船を作ろうとするなら、この近くに川は無いしぃ、水を溜められるほど地盤は固くないしぃ。」
ダルそうな、勘に触る笑顔で思い出した。
こいつ、『婚約者のいる令嬢を寝取りたい!』なんて豪語し、片っ端から婚約者のいる令嬢を口説き、その全員に『キモッ!』っと言わしめた、アジャッパー家の次男。確か名は……クルルスとか、言う奴だ。
「俺ってば、寝とりが好きで~え、でも、お二人なら、彼氏とか? 旦那とか? いなくても、全然オーケーっすよ!」
まったく、何を言ってるのか分からない彼に対し姉上は、
「あらあら? 管理人さん。それではここにお風呂を、私たちが作っても良いのですね?」
彼の言葉を無視して、話を進める姉上。
管理人、否定しろ! じゃきゃ、とにかく逃げて!
淡々としゃべってる姉上が一番怖いから逃げて!
そんな僕の心の声なんかまったく無視し、管理人は、姉上に釘づけだ。
「はぁ? この謎の遺跡にぃきずぅ? 傷付けちゃいけないって、御達しだけどぉ。まあ、水を溜められるってだけなら、遺跡に穴を開けることが出来ればぁ、もしかすっと顔が洗えるぐらいの穴が開くんじゃないすか? まあアマダイトの剣でも傷一つつかないもんに傷がつけばですけど~。それにしても、二人とも美人っすね! 俺に話しかけるってことは、俺に一目惚れってことっすか? このまま帰りたくないっすか? なら、俺が作った秘密の場所に……」
「あらあら、それでは管理人さんの許可が下りたので……お風呂。作っちゃいましょうか?」
「そうじゃな!」
姉上とヒルデがニッコリと頷き合う。
そして、
「とう!」
まず、姉上が右側の謎の遺跡に上に跳び上がり、ガリガリと遺跡の天辺で音が鳴る。
「はあぁぁぁぁ? なに遺跡削っちゃってんですか⁉」
叫ぶクルルスをあざ笑うかのように、パラパラと謎の遺跡が砕かれた破片が落ちてくる。
きっと多分、加減をした一撃で遺跡を砕いているのだろう。
「ちょちょ! ここ、先祖代々うちの管轄なんすよ! ここでそんなことされたら俺、お父さ……親父に怒られるッす!」
へえ、ここまで言葉使いははっちゃけていても、お父さまなんだ。
そんな事思いながら、慌てるクルルスをぼんやり見ている。
だって疲れた体に、こいつの態度はカチンッと来るし、二人に許可を出した時点で、
もう、手遅れだから……。
「ヒルデ!」
「了解じゃ! 飛行!」
ほんと、阿吽の呼吸で、ヒルデが宙を舞い、謎の遺跡の天辺に到達し、
「クリエイトウォーター!」
魔法を唱えるヒルデ。
まあ、彼女に掛かれば、コップ一杯の水を生成する初級魔法でも、
ごおぉぉぉぉぉぉ!
ナイラダラの滝のように水があふれる。
「水量よし、さあ、最後の仕上げじゃ! テレポート!」
ん? なんか僕の予想の、右斜め上をいくなぁ……。
そんなことを考えながら、ヒルデの元に召喚された、いまだに完全武装のエミールを見ていた。
そこに、
「ふむ。この程度の強度なら大丈夫じゃろ?」
「はい! アマダイトの強度テストにもなりますし、良いでしょう!」
意味不明な二人の会話を問い質す前に、
「ファイアーウォール!」
姉上がならし、ヒルデが水を溜めた簡易風呂? の縁にいるエミールを中心に、小さくても高温と分かる青白い炎の壁が彼を囲む。
「あつっ! え? なに? 何なの⁉ いくら耐熱の魔法を付与した鎧だからって、これは暑いんですけど!」
意味が分からず叫ぶエミールに、
「えい!」
「いでっ!」
姉上が指弾を放ち、バランスを崩した彼は簡易の水風呂に落下。
熱せられたエミールの鎧が水と接触した途端。
じゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!
瞬時に水が、お湯へと変わった。
「がぼぼぼぼぼぼぼ……(え? なにこれご褒美! でも、このままじゃ……いや、ギリギリまで……)」
あっという間に出来た風呂に沈むエミールの本音は、まったく聞こえない。
人間、知らない方が幸せってことが多々あるよね?
「え? え? ありえなくねぇ? 傷つけたら貴族でも斬首って遺跡に、ありえなくねぇ?」
信じられないモノを見で、呆然と呟くクルルス。
でも、彼女らのわがままはそんなもんじゃない。
「あらあら、いい湯加減ですわ。でも……なにかヘンなものが浮いてますわね?」
「おろおろそうじゃの。それにこやつ、重装備じゃからわっちらより汗をかいているのじゃ、さすがに主殿以外の異性が先に入った風呂など、入る気にならんのう」
「うん、ソレ入れる前に気付こうか!」
満足げに水没しているエミールを想像しながら、なんとかツッコむ僕の耳朶に、
「あらあら、それなら、私たちは、あっちにお風呂を作りましょうか!」
ナイスアイディア! っとばかりに、左側の遺跡に姉上たちが跳び移った。
「止めるっす! 片方でもお家断絶の危機なのに、これ以上は……やめるっす! いや、止めて下さい!」
さすがにこの状況はマズイと思ったのか。
ここの管理者であるクルルスが、泣きながら訴えるが、
「えい!」
「やぁぁ!」
姉上もヒルデも、我関せずと作業を進める二人。
「ああ……俺だけじゃ無く、俺の家、滅亡じゃね?」
ハラハラと、砕け散る遺跡の破片を見つめる彼。
……まあ、彼も後悔してるみたいだし、
そう思って、ポンポンと彼を肩たたき、助け船を出してやる。
「まあ、あんな高い所、誰も見ないだろうし、僕ら……っというか、姉上たちが黙ってれば……大丈夫じゃないかな? きっと多分」
「うわぁぁぁぁぁ! あんた、いえ、貴方様は神ですか!」
絶望から一筋の『生』を見い出したクルルスは、急に僕を崇めだした。
うわぁぁぁぁぁぁ。やっちまった。
そういうの、後で面倒臭くなるからやめてほしんだけど?
だが、それでも彼が改心し、この国のためになるならと、
「僕はタダの助言してるだけだよ。神……邪神……女神はあっち! きっときっと、彼女らは風呂上りに冷たく、甘い飲み物を欲しがるだろう。それだけで、今回の件は……」
「はい、はい! さっそく冷たくて甘い飲み物を用意します! ありがとう! ありがとうございます救世主様!」
なんか、誤解を招いているようだけど?
そう思い、僕は誤解を解こうとするが、
「テレポート!」
ヒルデの声が聞こえ、瞬間に僕は姉上とヒルデの前にいた。
「あらあらアル。こんどは石を熱して入れたので、ちゃんとした一番風呂ですわよ?」
「うん、姉上? 一番風呂は良いのですが、なぜ僕がここに? それになんで二人とも……服はどうしたの? なんで裸にタオルを体に巻きつけてんですか?」
「おろおろ? それは主殿と一緒に一番風呂を楽しむためじゃ!」
「うん? ダメだよね? 未婚の男女が一緒に風呂なんて、道徳的に……」
「あらあら、大丈夫ですわ私とあなたは姉弟ですし」
「わっちと主殿は婚約者同志じゃ!」
「いやいや、全然大丈夫じゃないんですけど!」
それに向かって叫べば、満点の星空。
地上から十メートル離れた遺跡の上で、
「ああれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
僕の絶叫は、誰にも届くことは無かった………………。
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は、
「ああ、温泉行って、湯上りビールをだらだら飲みてーな~」
っと言う作者の妄想です!
後悔はありません!




