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今回、婚約者。
少しだけ目立ちます!
そして現在。
『さあ、この祭り最大のイベント! 魔物狩りの開始です! 『先生。若いから!』なんて理由で、なんで新人教師を使うかな? 私だってお祭り楽しみたいのに……禿ろ学園長! …………なんて心にも無いことは言いませんが、選ばれた方々は正門からスタートして下さい!』
本音だだもれのミル先生の合図で、騎士、冒険者、その他のチームが観客の拍手と声援を受け正門を駆け抜けていく。
「さて、僕らも行こうか?」
制服の上からアマダイト製の胸鎧と腰に剣履く僕に、
「はいはい、頑張りましょう!」
「うぬ、主殿、頑張ろうぞ!」
左隣の同じくアマダイトで作られた胸鎧、別名。
「私の愛して愛して愛して止まない愛弟が! わざわざ鉱山を探し、さらに良質のアマダイト鉱石を厳選し作成し、私に送ってくれた究極の鎧。略して『ラブプレート!』ですわ! それにこの剣は……」
と、僕が見つけたアマダイト鉱山で出来た装備を、声高らかに自慢しまくる姉上。
いやいや、だって仕方ないじゃん!
鉱山を見つけた次の日から姉上の、ウキウキワクワクと期待のこもった視線でチラチラ見られるプレッシャーに、抗えるはず無いじゃん!
そりゃ、アマダイトで装備一式揃えるよ!
そんな言い訳がましい事を脳内で反芻する僕の右隣りにいるヒルデは、魔術師らしく大人し目の黒いローブ。
まあ、日の光りを少しも反射しないで吸収するソレは、打撃にも魔法にも耐性のある黒妖狼の皮をなめした高級品。
ローブの中で擦れる音がするから、多分、色々用意しているのだろう。
「あれぇ? ヒルデさん地味ぃぃぃぃ!」
「そうだな。俺たちは学園の代表なんだぞ! いくら隣国の王女だからと言っても、ちゃんとした服装でないと不味いだろ?」
そう言うミナとセツナは……。
…………うん?
申し訳程度に剣と短剣を装備してるけど……。
なんで制服?
お前ら、魔物狩りの意味知ってるか?
そう叫ばなかった僕を、誰か褒めて欲しい。
例えるならこいつらの装備は、標高一千メートルの雪山へ普段着のまま挑むようなものだ。
ここまで来るのに、誰も何も言わなかったの?
護衛の騎士を見ても、ただ視線を逸らすだけ。
もしかして、汚名だらけの二人を、この祭りで…………。
そこまで考えといてなんだが、僕はいろんな可能性にたどり着く前に、頭を振ってその考えを追い出した。
まあ、目の前で死なれると、色々面倒臭さそうなので、護衛の騎士さんたちの活躍を期待しよう。
とにかく、最後の一人は、それと真逆で、
ガシャン! ガッシャン!
「うむ。やはり我が国の鎧は最高だ! おいアルサス君! もうちょっと歩く速度を落としても良いぞ!」
二メートルを超すカイトシールドを背に、全身アマダイト製の完全鎧を身に着ける隣国の王子、エミール。
きっと盾役として、役に立ってくれるだろう。
まあ、色々と残念なメンバーではあるが、姉上とヒルデが出る時点で、よほどのことが無い限り最下位は無いだろう。
駆け出す参加者を尻目に、トボトボと城門たどり着く僕ら、いや僕に、
「いや、久しぶりだね、アルサス様!」
とても親しみある爽やかな声。
そして僕にとっては、とても聞きたくない声。
だって声の主は、勇者ジオルドだからだ。
「アル……」
「主殿……」
思わず立ち止まってしまった僕の前に、すっと立つ姉上とヒルデ。
しかも二人とも、すでに戦闘態勢だ。
さらに、
「きゃは! 勇者に殺気を向けるとは……死、覚悟するじゃね!」
乱雑に首辺りで斬られた真っ赤なくせ毛の、大剣を構える少女と、
「普通、勇者様に向かってそんな無茶、しないわよね~」
緑の髪を後頭部で結ぶ、杖を構えるローブ姿のエルフの少女と、
「あの~~~~。デイジさんもエマリアさんも、いつも以上に偉そうですよ、勇者の仲間なんですから、もっと……」
ギロッ!
「……い、いえ、なんでもないです」
真っ白いローブに身を包むのは『聖女』と呼ばれる、水色の長髪の少女。
よほど辺境な地でない限り、誰もが知ってる勇者の仲間が現れたのだ。
「あらあら? どこかで見たと思いましたが、確か、勇者のイソギンチャクでしたか?」
「うん、姉上、それを言うなら腰ぎんちゃくです、それに彼女らにはデイジとエマリアと……マリヤ? って名があります!」
「マリアーナです!」
「あ、ゴメン。どうもマリアーナって影が……ごほん。ごほん」
「いえ、ぐすんっ。いいんです……」
思わず本音が……いや、なんか彼女って、聖女って言われるだけあって、治癒魔法のエキスパートなのだが、なんか影が薄いんだよな?
「うむ? なぜじゃ? そこの娘になぜか近親感を覚えるぞ!」
なんかキラキラとした瞳で、ヒルデがマリアーナを見る。
そんなヒルデは置いといて、一応、僕なりに物事を穏便にこの場を片付けようとしたのだが、
「きゃは! 気安く名を呼ぶな! このなりそこないがぁ!」
「そうよそうよ! 私たちの名を、気安く呼んでいいの……は? がはっ!」
デイジの罵声に、瞬時に跳び出そうとした姉上は何とか止められたのだが、エマリアの罵声に動いた影は止められなかった。
「ほう? 勇者の腰ぎんちゃくのヌシは、このアルムデル帝国、第一王女の婚約者よりも偉いのかえ? いやいや、権力を笠に着るのは主殿の嫌う所。わっちも実力でモノを言わねばのう……それよりヌシはなぜ動かぬ? もしやわっちが怒りのあまり、ろくに魔力も練らずに無詠唱で放った初級拘束魔法で、動けなくなったのではなかろう? 自称、大魔道士殿?」
さっきまでマリアーナにシンパシーを感じてたヒルデだった。
「ふぐぐぐぐぅぅぅぅぅぅ!」
ヒルデの魔法で拘束されたまま、整った顔を歪ませた顔を上げるエマリア。
もちろんヒルデを睨むためなのだが、睥睨する女帝を見上げる一般人のようだ。
「アル! 何で止めましたの? アレ! 私もアレがやりたかったんですけど?」
「ダメですってば! 姉上がやったらもっと酷いことになってたでしょ? 彼らは大陸の希望なんですから、無駄な争いは……」
ヒュン!
僕の静止の言葉が終わらないうちに、風を切る音と、
「ぶはぁ! このアマ! 不意打ちじゃ無けりゃ、こんな魔法屁でもないのに!」
拘束を解かれたエマリアが、杖に魔力を集め出す。
が、
「よさないかエマリア、デイジ。俺はただ、アルサス様に一言挨拶しに来ただけなんだから」
ヒルデの拘束魔法を瞬時に断ち切った、勇者ジオルドの静止の声だった。
「すみませんアルサス様。前任の勇者候補だったあなたに、一言挨拶をと思ったのだけれど……。どうやら僕は、あなたの姉様と婚約者様には嫌われてるようです。では、これで……」
言い放ち、颯爽と僕を通り過ぎる。
その後に続く、
「きゃは! せいぜい頑張りな、なりそこない!」
「いまさら大きな顔して表舞台に出るんじゃないわよ! じゃないと……」
風の魔法まで使い、僕にしか聞こえないよう言葉を残すエマリアとデイジ。
それでも、
「あらあら? やはり喧嘩を売ってらっしゃるのでしょうか? そこの勇者のイソギンチャクどもわ!」
どんな耳してんだとツッコみたくなる姉上の、どう聞いても喧嘩腰の一言に、
「……ははは。俺の仲間がすません。でも、きっと、誰が本当の勇者なのか、近いうちに分かりますから」
一瞬だけ苦しげに眉を潜めた勇者は、次の瞬間にはいつもの人懐っこい笑みを浮かべ、まだこちらを睨んでいる少女たちを連れて城門の外へ去って行った。
「ああ、本当にもう! 面倒事が起こる気配しか無い!」
勇者たちを背後から襲おうとする、姉上とヒルデを両手で取り押さえ、
僕は深い深いため息を吐くのだった。
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