第三部:1
大変長らくぅぅぅぅぅ。お待たせぶっこきましぃたぁ!
第三部、開幕です!
この回で、姉上とアルの過去が! もしかしたら、ヒルデとの過去が!
っと、盛りだくさんの内容になっているはず!
御用とお急ぎでなく、第二部まで読んで興味をもったそこの人!
暇つぶし程度にぜひご覧あれ!
「これより! 第三一二回魔物狩りフェスタを開始する! 狩りに参加する者も、そうでない者も、大いに楽しんでほしい!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
雲一つない青空。
城下を見渡せる城のバルコニー。
そこでこの国の王、カノン・フォン・ローゼンリッターが高らかに宣言する。
「うん、この国の王様の名前、初めて聞いた気がするわ」
そんなことをぼやく僕は今…………物凄く機嫌が悪い。
機嫌の悪いわけは、
「あらあら? アル、これからお食事でも(当然、一流レストランに予約済み!)しませんか?」
右腕を引っ張る、いつも通りの姉上のせいではなく、
「おろおろ主殿は、これからわっちと二人きりで、城下を案内してくれるのじゃったよのう?」
左手を握る(もちろん、魔術によって強力に離れない!)婚約者。
ヒルデガルド・フォン・ミユーゼルでもない。
僕の不機嫌な理由は、二週間後に遡る…………。
「お願いだアルサス君! 魔物狩りフェスタに、学園代表で出てもらえないだろうか?」
姉上とオルスマン第一王エミールの決闘から数日。
僕はなぜか学園長室に呼ばれ、机をはさんで向かい合うソファーから立ち上がる学園長に、ガッツリ腰を折られていた。
宰相を辞めたとはいえ、まだ多くの貴族に影響力を及ぼす学園長。
いまだに権力もある人物。
でも、
「はい! お断りします!」
僕はハッキリ、キッパリ断った。
なのに、
「ええ! でもでもぉ? これに出るとぉ、とってもお得なんですよぉぉぉぉ! なんなら私の娘も君の婚約者にしよう! だ・か・ら! お願いアルサスく~~~ん!」
「え? なんでお姉口調? 普通に気持ち悪いんですけど?」
学園長は、宰相の職を辞したとはいえまだ五〇代。
髪はまだフサフサしてるし、身長も僕より高い。
それなりにダンディーと呼ばれてもおかしくない人物だ。
それがお姉口調って……。
「アルサス君?」
「嫌です!」
それに、ヒルデだけでも大騒ぎなのに、婚約者が増えたらそれこそ大騒動だろうが!
「アルサスくう~ん!」
学園長が何を思ってか机を飛び越え、僕の腰にしがみつこうとする。
「僕に触れないで下さい!」
僕はソファーから立ち、ひらりとソファーを飛び越え避けた。
僕は別に潔癖症な訳ではない。
でも、
もしここに姉上がいたら、間違いなく流血事件が起こる案件だ。
「僕にしがみつく学園長を、もし姉上に見られたら……学園の男子全員……去勢されますよ?」
「あははは! アルサス君、それはあまり面白くない冗談……だよね?」
「………………」
引きつる笑みを浮かべる学園長に、僕は無言で首を左右に振った。
「うん。それでは改めて、アルサス君! 魔物狩りフェ……」
「だが断る!」
もう面倒臭くなった僕は敬語を使うのを辞め、体全体で拒絶の意思を示すのだが、
「いや~~でも、いいの? この前の決闘の話。君の家、侯爵家だけど相手は隣国の王子だよ? ものすごく不利じゃない? それに演習場は君の姉上が壊してるし……どうにかできるのは私以外いないと思うんだよね?」
さすが長らく王国の宰相にいた人物。
的確にこちらの弱みを突いて来るのだが、
「いや、別に良いですよ。隣国の王子とは示談。と言うか、今後一切、我が家に手出し無用との書面まで頂いてますし(ただ、約束を破って僕に近付き、姉上に冷たい視線を向けられ、それを至福の表情で殴られるのを待ってるのが、最近の悩みだけど!)演習場の修繕はエミール様が対価を払ったはずです。それで、我が侯爵家になにか不利な事でも?」
「ぐっ! くぬぬぬぬぬぬ!」
僕が静かにほほ笑めば、ハンカチでひっぱり、きいぃぃぃぃ! ってなってる学園長。
物語やお芝居でなく、そんなことする人初めて見たわ。
そんな学園長は、どこか諦めたようにハンカチを綺麗に畳んでズボンのポッケに仕舞い、覚悟を決めたようにその身を床に投げ出した。
五体投地。
東国に伝わる土下座を上回る、最上級の礼法である。
そして天井を向いたままの学園長が語り出す。
「我が学園は、貴族の子息子女に魔物を退治することを教え、貴族の義務を果たすためにエキスパートを育てる機関である!」
「はい、それは知っていますが?」
もちろん、それは建前だ。
今現在。ここに入学した貴族の子息は学園卒業でハクを付け、子女は条件の良い婚約者を見つける場所としか認識してない。
まあ、貴族の義務みたいなもんだから、婚約者のいる僕も入学してるのだが、
「そんな学園の生徒が祭りの目玉、魔物狩りに参加しているのだが……毎年ビリなんだよ! それでイヤミ言われんだよ! 『意味なし学園』とか『予算の無駄遣い学園』とか! 君はこの学園の生徒として、悔しくないのかね!」
「いや~。その予算許可してんの、家の父だから……」
魔物狩りフェスタの最大の売りは、騎士団、冒険者、その他腕自慢がチームで行う魔物狩り。
その名の通り、チームで狩った魔物の倒した数やレア度を得点に加算する競技なのだが、
「まあ、授業内容に魔物との実戦がほとんど無いんだから、ここの生徒が最下位ってことは頷けますが?」
意外と言えば意外。
当然と言えば当然だろう。
なにせ、この学園に入学してるのは、貴族、王族の坊ちゃん嬢ちゃん。
どの貴族も好き好んで危険のある場所に、子供を連れていくのを良しとしないだろう。
ちなみにこの学園の生徒が、魔物を狩る実習を行う時には、生徒一人に付き護衛の兵が最低でも二桁つく。
これがこの国の平和の証であり、徐々に腐っていく原因でもある。
まあ、僕の代で、出来るだけ払拭していきたい案件だが、今はその時じゃない。
だが時代は、僕が思ってるより早く動いていた。
「今年はあの勇者様も参加するのだ。もしそこで、今回も最下位だったら、この学園を廃止するって案件も出てるんだよ!」
それは、もはや五体投地というより、幼児が駄々をこねるような床でバタバタ蠢く学園長の言葉であった。
それにしても疑問が残った。
「毎年最下位って言っていたけど、去年は姉上が入学してましたよね? なんで最下位だったんですか?」
姉上が参加したのなら、よほどのことが無い限り最下位にはならないはずだが?
「だって彼女、『この日は最愛の愛弟と屋台を回るので、欠席で! あらあら? 私に意見しなさるの? そんな悪い子は……』とか言って、それはそれは恐ろしい目に……」
急に学園長が震えだした!
姉上にトラウマを植え付けられたのは分かったので、それ以上の追及は避けた。
「だから、君をエサ……ゴホンッゴホンッ! 君がいれば彼女も参加してくれると思ったんだ!」
「今僕のこと、エサって言いましたよね?」
「…………参加してくれれば、私が出来る限りのことはする!」
視線を彷徨わせながら、学園長が言い放つ。
それでも……。
「すみません学園長。姉上には極力参加するように、言っておきますから僕の参加は……」
「…………そうか。いや、無理を言って済まなかった…………」
肩を落とした学園長に、申し訳ない気持ちで一杯の僕は、無言で腰を折ってから学園長室を退出した。
「はあ。学園長には悪かったけど、いつも流される僕が、今回はちゃんと断れた!」
ほんのちょっとだけ悪いとは思ったけど、僕は晴れ晴れな気持ちで、
ガラガラガラッ!
っと教室のドアを開け、
「ちょっと待て! なんで? なんで俺がこんな目に!」
喚きたてるセツナの叫びを耳朶に聞きながらも、
ガラガラガラッ!
扉を閉める。
「うん。きっと疲れてるんだ! じゃなきゃ、いくらなんでも……」
天に神に祈りをささげ、今のは何かの見間違いだと再び扉をひらく……が!
「ちょちょちょ! アルサス! 見てないでシルを止めてくれ! 俺はまだ死にたくない!」
僕の視線に映ったのは机をどかされた教室の中央にある、実物の半分以下の大きさの首切り台に、ガッチリと固定されてるセツナ元王子の姿だった。
「あらあら? 大丈夫ですわ! これは首切り台の簡易版なので高さが足りませんので、ギロチンに一発で首が落とせる威力はありませんの。なので、二度、三度、一息で死なない極上の苦しみを味あえますわ!」
「なにが大丈夫なんだか、全然分からないんだけど!」
ギロチンを落とすロープをにぎりながら、珍しく微笑より怒気を先行させる姉上。
うん。きっとセツナ元王子を使った、姉上の新しい遊びなんだろうな。
そう思うことにした僕に、ソソソッと近寄るヒルデが、
「主殿が事情を知れば、今回ばかりはお義姉様の行動、わっちは止めることどころか、協力することしかできぬのじゃ」
怒気を隠さない彼女に、逆に元王子が二人のどんな逆鱗に触れたか興味を持ってしまった。
その答えを、
「アルサスくう~~ん! お姉様、酷いんですよ! セツナ様が良かれと思って私とセツナ様とぉ。アルサス君とお姉様と、エミール王子。それと、ボッチで可哀そうだから、ヒルデガルドさんも一緒に、魔物狩りに登録しただけで……ひどいんですよ~~!」
「わっちはボッチではない!」
もうプンプン!
ってな感じで、ヒルデを無視してあざとく怒るミナが持ってきた。
ああ。そうなんだ。
姉上とヒルデのしていることに合点がいった。
それ以上に、
「へえ……。魔物狩りに僕の名を……。誰か、レベルの高い治癒術師を二、三人連れて来てくれ! 姉上。それじゃ生易しいです。治癒術師を待機させ傷を治し、恐怖と苦痛を増加出来るようにしましょう!」
「えええ! なんで! なんでアルサスまで協力するの!」
早くこいつをやってしまおうと思った。
はあ。まったくこいつは、自分のした事を全く理解してない。
でも、
「あらあら、だ、大丈夫よアル。すでに王城に提出済みの書類は、謎の王城大火災で消し炭になる予定ですから!」
「そ、そうじゃ主殿! わっちの最大火力とお義姉様の力で、王城を全壊にするでの!」
事情を知ってる姉上とヒルデは、物騒だけど僕を思う言葉をくれた。
そうはいっても、書類が既に王城に行ってるのであれば、キャンセルはほぼ不可能。
まあ、いつまでも避けて通れないことだし、姉上たちを犯罪者にするのも、王城が燃えるのも出来るだけ避けたい。
これは、前に進むためのチャンスだと思うようにして、覚悟を決めようかな?
僕のそんな思いに、
「なんで紙切れ一枚のために、王城が破壊されるんだ! 俺はただ父上に『お前のせいでこの国の王族の信用はがた落ちじゃ! 今回、魔物狩りに参加して、少しでも王族の信用復活に励め!』って言われて、でも、一人じゃ怖いから、それでシルもヒルデ嬢も制御できるアルサスも一緒に……」
空気を読まないバカ王子は、自分の死刑執行書にサインをした。
「うるさいですわね?」
「うるさいのじゃ!」
「はひぃぃぃぃぃぃ!」
ロープが姉上の手から一瞬離れ、ギロチンはセツナの首から、僅か指二本分の位置で止まる。
「はぐわはぁっぁぁぁ……」
王族としても、人間としても完全アウトな顔をして元王子の意識が旅立った。
ざまあ!
っと心の中で思いながら、
「姉上、ヒルデ。僕は行くところが出来ました。僕が帰って来るまでソレをいびり倒していて下さい!」
そう言って教室を出ようとした所。
ぎゅっ!
「あらあらアル? もしかして学園長にも……魔物狩り参加の話をされたのですか? それなら学園長に、もう一度調教を……いえ、話し合いをしなければなりませんわね?」
「うん? 姉上? 今完全に調教って! 隠してませんでしたよ!」
いつの間か距離を詰めた姉上に、ツッコミをしようとした僕は抱きしめられていた。
「それに、いきなり抱きつかないで下さい姉上。僕はこれから学園長に……」
いつものように、淡々と言葉を紡いだつもりなのだが、姉上の抱擁はきつくなり、
「アル……それはあなたが背負うものではありません。あなたはこんなことに関わらずとも、私が、私がなんとかしますから!」
あれ? おかしいな?
僕はいつも通りのはずなのに、
なんで姉上は泣きそうな表情で微笑んでいて、ヒルデまで、なんでそんな痛々しそうな視線で僕を見るの?
なんだかこのまま、姉上の胸にすがって泣きたい。
それが出来れば、もう少し楽になれるのだろうが……。
でも、それは許されない。
僕はグッと奥歯を噛みしめ、平気だと抱きしめる姉上の背を、ポンポンと叩く。
「大丈夫です姉上、それに……。いつかは通らなきゃいけないことですから」
「そう……ですか?」
心配そうな姉上。
ダメだ。
ここで泣いたら、姉上が……。
己の心を叱咤して、無理やり笑う。
どうかこんなことで、姉上が心を痛まないようにと。
刹那。
「アルくぅぅぅぅぅぅぅぅん! やっぱり魔物狩り出るんでしょ? それって、上位入賞者に賞金出るわよね? 私も参加するから、よろしくね!」
まったく、これっぽっちも、空気を読まないミナが駆け寄ってきた。
いつもはウザいだけの彼女が、この時ばかりは都合が良かった……。
それに、
「シルの打撃も嬉しいが、魔物の打撃は……余を満足させられるのか? それを見極めるため、余も参加しようぞ!」
ドエムのエミールが声を上げると、
「俺だから! アルサスを参加させたのは俺……ぐはっ!」
「あらあら? なんで今回、私の愛弟の心に負担を掛けさせた、虫けらにも劣る下等生物が、私に断りも無く声を発してますの?」
身動きできないセツナ元王子の脇腹を、にこやかに姉上が突いた。
いや、突いたと言うより、抉ったと言った方が適切か?
何はともあれ、僕が何もしないうちにチームは完成していたようだ。
その後、僕は素知らぬ顔で学園長の元に戻り、魔物狩りに参加することを条件に、アマダイト鉱石の他領への輸出関税の緩和と、いくつかの条件をねじ込んだ。
まあ、元宰相の手練手管を使って、頑張ってもらおう。
だって、僕はこれから…………。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
再開したからには、できる限り毎日更新していきます!
絶対! 多分。まあ、ちょっと、更新できなかったらごめんなさい!
頑張ります!




