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よろしくお願いします!

 決闘において、

 一つ、決闘する当事者は、代理は認めず必ずこの場にいること。

 一つ、己の力量でのみ、参加者を集めることを許すこと。

 一つ、敗者は勝者の願いを叶えること。


 そんな誓約書にサインして、ここにいるのだが……。


「よし、余の願いは、シルを余の妃にすることだ!」

「あらあら、私は……どうしましょう?」

「姉上、願いも無いのに、どうして決闘なんてしようと思ったんですか!」


 決闘騒ぎから数日後の放課後。


 僕と姉上は学園が誇る、校庭の三倍の広さがある実戦演習所に立っていた。

 そう。

 エミール率いる兵は、ここに入れる最大数の三百人に対し、姉上は……。


「あの……なんでここには僕と姉上しかいないんですか?」


 決闘に備えて王都に駐在する近衛騎士五百人と、決闘と聞いて領地から昼夜を問わず馳せ参じた、選り抜きの(どうやら殴り合いで決めたらしい)精鋭が二千人いたはずだが?

 

「あらあら? あの人たちって『お嬢ため一人十殺じゃ!』とか『お嬢には指一本触れさせぬ!』とか『例えこの命が尽きようとも!』とか、すぐに物騒なこと言いだすじゃないですか? 一応アレでも他国の王子ですし……。だから今回は参加させません!」

「うん? 彼らが物騒? どの口がおっしゃるのですか?」


 一応ツッコんで見たが、


「あらあら? これぐらいの人数。私とアルだけで十分じゃないですか?」


 物凄く良い笑顔で僕に抱きついて来る姉上。

 僕の腕で押しつぶされる、凶悪な双丘とか、

 ふわりっと鼻腔をくすぐる石鹸の香りとか、

 思春期男子のムラムラするベストファイブに入るアレコレを、強引に抑え込み、


「あの……なんで僕に抱きついてるんですか?」


 極めて冷静に問い掛ける僕に、


「はい! もちろん! アル力(アルりょく)を得るためですわ!」


 当然のように返す姉上。


 うん? アル力って何?

 そう問い掛けようとした僕の耳朶に、


『これより、カストロフス王国第一王子と、シュタイン王国侯爵令嬢の決闘を始めます! 司会に抜擢された私、新人教師のミルフィーユですが、勝敗にかかわらず、私には全然、まったく、これっぽちも責任が無いです! それでは……始め!』


「全軍突撃!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 ミル先生のおざなりで私情の入りまっくた実況の合図で、雪崩れ込んでくるエミール率いるオスルマンの三百の兵士。

 それに対し、


「あらあら? せっかちな殿方は、嫌われますわよ?」


 いまだに抱きつきながらほくそ笑む姉上に、僕は引きつった笑みしか出来なかった。



「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


「ふははは! 入念な情報収集と飽きるほどシュミレーション。それに、余の愛が加われば、余の国の不敗伝説の復活になるのだ!」


 どこか必死な形相のエミール。

 確かに二年前、偶然姉上と僕がいた国境で起きたいざこざで、オルスマンは大敗。

 不敗神話は崩れた。


「でももう、姉上相手だから、そこまで気にすることじゃないんじゃない?」


 なんて愚痴る僕の耳朶に、


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 地面を響かせる兵士の怒号。

 

 さすがは姉上に求婚する、エミール率いる部隊と言うべきなのか?

 雄たけびを上げ迫りくる兵士の装備は、『魔法無効化』『ダメージ軽減』『身体強化』の付与された、アマダイト鉱石で作られた超高級装備で固められていた。

 きっと彼らの装備だけで、軽く我が侯爵家の屋敷くらい買えるだろう。

 それに対する僕と姉上は、学園の制服のまま。

 でも、


「これって、過剰装備(無駄な装備)過ぎませんか?」


 防御に適するが重いアマダイトと、重さ度外視で数々の魔術の付与された鎧。

 ガッシャン、ガッシャンと響く音に反して、勢いに反比例して亀のように遅い進軍。

 

「まあ、囲まれれば姉上でも脅威かもしれないけど…………」

「あらあら? その程度ですの? では……名残惜しいですが、行きましてよ!」


 僕を解放した後、ウインク一つして抉るように地を蹴る姉上。

 そして、瞬時に先頭の兵士の目前に現れ、


「それでは、私が耐久テストをして差し上げますわ!」


 ニッコリとほほ笑むと、


「えい!」


 ゴインッ!


「ぐわぁぁぁ!」


 腰を落し、地を這うような角度で振り上げる姉上の拳を受け、オルスマンの兵士が宙を舞う。


「はははっ! その攻撃のダメージは計算済み。鎧の耐久度はあなたの一撃の二倍はあるぞ! それをどう壊す?」


 勝ち誇った様に、高らかに笑うエミール。

 でも姉上の攻撃は、彼の計算の外にある。


「あらあら? では、これはいかがですか?」


 微笑のままの姉上が地を蹴り、空中で亀のようにジタバタするオルスマンの兵に対し、


「えい! やあ!」


 バキッ! ズシャ!


 右に左に腕を振るい、

 最後に、


「とう!」


 グシャ!


 落下している兵を地面に叩きつけた。

 それでも、さすがはオルスマンの超高級鎧。

 姉上の攻撃に、凹みどころか傷一つ付いていない!

 まあ、姉上が手加減して、ヨロイは無事ですが……。


「ははは! 無駄だと言っただ…………ろ?」


 どうやらエミールも気付いたようだ。

 当然と言えば当然。

 鎧は無傷でも中に入っている兵士の衝撃は、皆無では無く……。


「む、むきゅうぅぅぅぅ!」


 必然的に気を失っていた。


「あらあら? これからはヨロイ内部に、衝撃吸収材をお使いになった方がいいですわよ? ああ! アル力補給!」


 いつの間にか僕の元に戻ってきて、ギュッと抱きしめる姉上。


『アドバイスしてるってことは、きっと余裕でその対策も姉上の頭の中にあるんだろうな』


 まあ、他国に嫁ぐと僕もフォローが出来ないから、エミールには無駄に頑張ってもらおう。

 それに、


「ふっ…………ふははは! な、何を言っている! たかが兵士を一人気絶させたぐらいで! こ、こっちにはまだ、二九九人いるんだぞ!」


 どうやらアレを見て折れそうだったエミールの心だったが、数の優位に気付いたようだ。

 それ以上に気付いてほしいことが多々あるのだが?

 

「あらあら? そうですわね?」


 それより先に、姉上がやる気になってしまった!

 

「あらあら、私の愛して止まない! とっても可愛くて、凛々しくて、愛おしくて愛おしくて、大ぃぃぃぃぃぃぃ好きな愛弟との、夕食を一緒に取る準備をしなくてはいけないので……。そろそろ終わりにしますわね?」


「はあ? シル、今の状況分かっているのか? 余との勝負は全然終盤じゃないぞ!」


 エミールの言いたいことは分かる。

 だが僕は、これから姉上がやろうとすることの方が分かってしまい。


「エミール王子。安らかに……」

「ええ!? なんで祈られた!!」


 両手を合わせて、思わず拝んでしまった…………。

 だって……。


 バリバリバリバリッ!


「え? なんで? なんでアマダイトの鎧を、素手で破ってるん?」


 エミールが思わず素の声を上げた。


「まあ、三大硬膏石と呼ばれる強度の物を引き千切り、さらに細かくして指先でこねる(ひと)って、姉上ぐらいですよね?」


 一時的に僕から離れた姉上は、気絶した兵の鎧をおもむろに剥ぎ取り、それをちぎっては指先で転がし、豆粒ほどの物をいくつも作っていく。


 エミールがかぶっている冑も、きっと他のより質の良いアマダイト製なのだろ。

 でもそれは、オルスマン王国の品質(定義)でしかない。

 だから、


「これは、私のことを、シルと呼んだ分……えい!」


 ヒュンッ!


 チュンッ!

 ボシュッ!


「……は⁉ え? ええ!!」


 姉上の放った、丸めただけのアマダイト片の指弾が横切ると、エミールの冑がゴッソリ、半分以上持ってかれ、そのまま壁に埋まった……。


 何が起こったのかも分からず、呆然と立ち尽くすエミールに、


「これはシルと呼んだ二回目で、あと……まあいいですか、えい! えい!」


 可愛らしい声を発っし、指弾を繰り出す姉上。

 まあ、可愛らしいのは声だけで実際は、


「ぐひゃ! ちょっ! ちょま……ひぎゃ!」


 二発目でエミールの右肩の肩当てを吹き飛ばし、

 勢いで反転した彼の後頭部に三発目。

 されに、こちらに背を向けるように、地面に突っ伏す体勢の彼の尻に向かって、


「最後は、私の、愛して止まない、大好きな愛弟アルを侮辱した分ですわ! えい! えい! えい! えい!」

「くっ! ああ! うわ! ひぃぃぃぃぃ!」


 絶妙な威力とコントロールで、致命傷(男としての)を与える姉上。


「あひぃぃぃ! もう、もう……」


 エミールの悲鳴がか細くなった頃。


「あらあら? 『将を射とすれば、まず将を打つべし!』東国のことわざ。知りませんでしたか?」


 満足げに、にこやかに笑う姉上。


「そんなことわざ、僕もまったく知りませんでしたよ!」

「はい! 今、私が作りましたから」


 僕のツッコミに微笑みだけを返し、


「あらあら殿方? それ以上動きやがりますと、あなた方のご主人様の首が……いえ、大切な何かが吹き飛びますわよ?」


 それはそれは、物凄く良い笑顔を彼らにふりまいた。

 

 姉上を敵に回した時点で、すでに積んでいる彼らが、本当に詰んだ。

 そう思い、ホッと一息つこうとした時だった。


「あふぅぅぅぅぅん! 君はやはり余の天使! さあ! 余のケツを心行くまで叩いておくれ!」


「……………………」


 なんか、とてもとても、物凄く残念な言葉を聞いた気がする。

 

「きっと気のせい! そう! きっと物凄い気のせいなんだ!」


 そう自己暗示に掛かろうとした僕に、


「やはり余の思った通り、君が余を攻撃する(いたぶる)時には『愛』がある!」


 はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?


「何言っちゃてんのこの王子? バカなの? それとも……」

「それは違います王子!」


 僕のツッコミ遮り、飛び出してくる人影。

 姉上に気絶させられ、ご自慢の鎧まで剥ぎ取られた兵だった。


「彼女は……いえ、このお方は、ゴミ虫のような存在の、私にまで慈悲(死なない程度の打撃)を与えてくれました! それはめくりめく快楽の入口! これはもう女神降臨以外にありません!」


「わざわざ僕の言葉を遮ったのに、何言ってんだこいつ?」


 ちゃんと正論を吐いたと思ったのに、


「うおぉぉぉぉぉ! これはまさしく我が国の伝書にあった、『苦痛と快楽を与える女神』の降臨じゃ!」


「「「「「『苦痛の女神』バンザイ! 『快楽の女神』我を罵り! 快楽の世界へ!」」」」」

 

 エミールが叫び、その場で跪き頭をたれる兵士たち。


 ………………うん。もう、そんなの崇拝する国なんて、亡んじゃえばいい!


 そう思った僕は、絶対間違いじゃないと思う。

最後までお読みいただきありがとうございます!

あとは短いエピローグで第二部、ほぼ終了です。

この後、学園生活をだらだら進めようか?

さっさと物語を進めようか迷ってます。


でも、できるだけ早く更新したいと思います。


応援よろしくお願いします!



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