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よろしくお願いします。
「さあ! いまこそ……あれ? 皆さんどうしたのですか?」
彼女が振り向けば、そこには、
「あっ……うん。なんか、今日はいいかな?」
「そうですね。体も軽くなって、絶好調って感じだけど……ねえ?」
耳に残る彼女の声で体に力は満ちているのに、耳に残る彼女の声がヤル気と気力をなくさせる生徒たち。
ミナはこの教室の空気だけじゃなく、皆の心と体までもカオスにしやがった!
「はい! それでは私はヤル気がなくなったので自習にし、校庭を全力で走ってきます!」
なんかミル先生が、訳の分からないヤル気と無さと、訳の分からないヤル気を発揮している。
うん。もう自分が何を言っているのかも分からない。
しかも彼女の歌。
「あらあら? ずいぶん独特な歌声ですのね?」
「わっちを無視する出ない!」
姉上とヒルデ。
それと僕。
あと数人が、彼女の歌の影響を受けてなかった。
抵抗力の差なのか?
「ふっふっふっ、この歌は私のげぼ……ごほん。仲間にしか効果が無いのです! まあ、先生みたいな例外はあるけど……」
「うん。今下僕って言おうとしたよね? それにこの歌ってなんの役に立つの?」
「うぐっ!」
僕の的確なツッコミに、彼女は言葉を詰まらす。
その隙に、
「おろ? この国では知らぬ者が多かったのかや? わっちは降嫁して、主様のお嫁さんになるのじゃ! きゃっ! 言ってしまったのじゃ!」
強引に、この場の主導権を握ろうとする僕の婚約者が、
視線を僕に固定しつつ頬を両手で覆い、青銀の長髪をイヤイヤと揺らす。
うん。まだ朝のホームルームなのに、もの凄く疲れた。
なので、
「あれぇぇ? なんか熱っぽいや! 今日は早退して……」
ガシッ!
「あらあらアル? どこに行きやがろうとなさっているのです?」
戦術的撤退を試みた僕の袖を、微笑む(でも目はまったく笑ってない)姉上につかまれた。
どうやら僕は、この混沌の中心にいなきゃならないみたいだ。
その姉上はと言うと、優雅に微笑みながら(でもやはり目は笑ってない)ヒルデに視線を移し、
「あらあら? 誰かと思えば、帝国に居場所が無いボッチで、脅迫まがいに私の大切で大切で、愛おしくて狂おしい、愛弟に婚約を迫った、偽クソ婚約者様でわないですか?」
トゲトゲ……うや、もはやド直球の嫌味を吐く姉上に、
「おろおろ? わっちの主様の隣にいるのは、いつまでも弟離れできぬ、脳筋のお義姉様ではありませぬか! ああ、未だに国同士、政治がらみの婚姻を理解してないのじゃな。大丈夫じゃ、例え主殿のお義姉様が、正式名称ゴリラゴリラゴリラでも、わっちは懐が深い貞淑な妻なのでのう。ちゃんと面倒見てやるのじゃ(もちろん檻に閉じ込めての!)」
にやりと余裕の笑みを浮かべるヒルデに、
なんか心の声みたいなのが聞こえたのは、気のせいだと思いたい。
「あらあら? 言うようになったわねボッチちゃん?」
「これも淑女のたしなみじゃ、ブラコンお義姉様!」
身に纏う魔力を膨張させる姉上と、体から魔力が漏れ出すほど高揚するヒルデ。
「さすがにこれは不味いだろ!」
まさに一触触発の事態に、僕も動かざる得ない。
そう思った刹那。
「おうシル! やっと余との愛に目覚め、婚約を解消してくれたんだな!」
まったく、これっぽっちも空気を読まない美声が、混沌とした教室に響き渡った。
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