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本日予定がありまして、予約投稿とさせていただきます。
よろしくお願いします。
翌日。
朝食を男女兼用の寮の食堂(もちろん姉上も一緒)でいただいた僕は、今日から通常授業だと、予鈴一〇分前に席に着いた。
姉上は「アルとの初授業なので、おめかしして行きますわ!」っと言ってたので、ホームルームギリギリ、いや、姉上の事だから、ぶっちぎりで遅れて来るだろう。
でも、意外に思うかもしれないが、姉上は化粧をしないし香水もつけない。
なぜなら幼いころの僕が、
『女性が化粧をするのは身だしなみだと理解するのですが、厚化粧とか香水のきつい匂いって、僕は好きになれないんですよね? その点、姉上は、いつもほんのりと石鹸の匂いしかしなくて、良いですよね』
なんて言ったせいかもしれない。
なのになぜ?
僕に会うためのオシャレって何するの?
そんな現実逃避している僕は今……。
「アルサス様! 今年度の学園の予算を、もうちょっと余所に振りたいのですが……」
「え? これ、僕が見ていいものなんですか? いやいや、『愛弟予算』ってなんですか? 予算の九割とってるじゃなですか! 分かりました。ここにある愛弟予算は破棄して下さい! 姉上には僕から言っておきます!」
「アルサス様! 食堂に『姉弟との愛の席』を設ける案ですけど……」
「却下で!」
「アルサス様…………」
なぜか生徒会の先輩方々や、その他大勢の人の相談を受けていた。
その全てが姉上関連なのだが、なんでいちいち僕に言うの?
僕の席を先頭に、列を作るのやめて!
言いたいことは山ほどある。
が、この列が姉上の被害者だと思うと無下に断れない。
それと、
「おいミナさん? なにその『最後尾』って看板? それに並んでる生徒からなんか貰ってたよね? 制服の異様に膨らんでるポケットから、ジャラジャラと聞こえるのは気のせい?」
「き、気のせいですよ……あは、はははははは……」
不自然に視線を迷わせるミナ。
後で姉上にお願いして、全て返すように命令してもらおう。
それにしても……。
「はぁ。早く授業が始まらないかな?」
勉強があまり好きではないのだが、心底授業の開始を願っていた。
そんな僕の願いを聞き届けたのか?
救世主が現れたのだが、
「おはようございます! さあ、今日から授業を……え? なんで長蛇の列? なんかの儀式ですか? 私新任なんで、そう言うの対処に困るんですけど!」
そうツッコミを入れるミル先生は、なぜか昨日みたいに、どこかやけっぱちに見えた。
「儀式とかは怖いので、余所でやって下さい! こっちはそれどころじゃ無いんです!」
「「「「「…………」」」」」
凛と言い放つミル先生。
だが、彼女の声は物凄く余裕のないようにも聴こえ、それを感じ取った上級生は無言で退出していく。
どうやら姉上と学園で、最低でも一年過していた彼らは、 危機察知能力を身に付けているようだ。
そこに、
「あらあら? 皆様朝から騒がしいですわね?」
いつの間に現れたのか?
ちゃっかり、僕の隣の席に当然ように座る姉上。
「あらあら、アル。久しぶりですわね」
「朝食一緒に食事しましたよね? それでも久しいのですか?」
朝からの質問攻めに疲れ、思わず皮肉交じりに挨拶を返すが、
「はい! アルと会えない一分、一秒は、私にとっては一日千秋に感じるのですわ!」
真っ直ぐに、一直線にぐぐっと拳をにぎる真剣な眼差しの姉上が、いじらしくも可愛く見えて、思わず視線を外してしまう。
「それにしても……なんだかあの教師、余裕が無いですわね? まるで昨日、私に会った時のようですわ?」
「あ! ああ……確かに彼女は……」
余裕の無いミル先生に思い当たることがあり、一人で納得してしまった。
侯爵家の影の情報で僕は知っているが、確かにアレならミル先生が苛立つのも分かる。
「はい! 今日は……今日も、転校生を紹介します!」
そんな気丈に振る舞う彼女に、憐憫の視線を向けていると、
ガラガラガラ!
「うむ。皆のもの! わっちが隣国アルムデル帝国からの留学生。帝位第一位を愛のために捨てた、ヒルデガルド・フォン・ミユーゼルじゃ! よろしく頼むのじゃ!」
勢い良く扉を開け、見知った美少女が入ってきた。
帝国内では魔力量が底なしの証と伝えられる青銀の髪と、伝説の魔道士『スレイン』と同じ真紅に光る瞳。
自己紹介にあったように、二桁を越える子供の中でアルムデル皇帝が唯一、後継者にと願った第一皇女。
ヒルデガルドその人であった!
そんな物凄い人物なのだが、
「「「「……………………」」」」
「おろ? なんじゃ? 驚きが今一つじゃな? ほれ愚民ども、驚き過ぎてそんまま倒れ込んでも良いのじゃぞ?」
なぜか彼女を迎える、生徒の反応は鈍い。
まあ昨日、王国で知らぬ者無し! っと謳われた姉上が、まさか弟のために留年したなんてことが無けりゃ、彼女の望む反応になったと思うが……。
『ドッキリも、二度同じ内容だと飽きる』
っと言ったとこだろう。
教室には『また?』っという空気が蔓延していた。
そんなことをまったく知らないヒルデは、
「なぜじゃ! なぜわっちの登場に驚かぬ⁉ 帝国の第一皇女じゃぞ! もっと驚愕の眼でわっちを見るのじゃ!」
催促を促すヒルデ。
うん。言いながら僕を見るのは止めて!
いや、知り合いが少ない彼女が、僕を見るのは当然か?
なぜなら僕は……。
「なぜなのじゃ! 教えてたもれ主殿!」
そう。
何を隠そう、彼女は僕の婚約者なのだから…………。
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