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たたく、

殴る、

土下座をする。


最近パソコンを立ち上げるルーティーンです。

「あの~」


「で? 姉上を乗せた馬車は、奴らお得意の結界術を使って、影を出しぬき国境を越えてロンギヌスに入ったと……それから?」


「うん? さっきから黙ってたけど、アルサス君? とりあえず、授業を………………」


「はあ? 入国がこんなんだからいったん帰って来ただぁ? お前、それでも僕の『影』なの? 言い訳する暇があるなら、さっさと潜入方法探して来い! はい次!」


「いやいやアルサス君! 今は授業中ですよ!」


 教室の一番後ろに作戦本部を置き、イライラしながら影の報告を聞いてる僕に、ミル先生の注意が飛ぶのだが、


「ああっ!?」

「ひゃひぃぃぃぃぃぃぃ!」


 思わず声を荒らげて顔を上げれば、


 ガタガタガタガタ!

 ゴトンッ!

 ズザザザザザァァァァ!


 教壇の先生は腰を抜かし、まるで潮が引くように周りから生徒ごと机が引いていった。

 見れば、近くの生徒は気絶しているのに、悪夢から逃げようとするように手足をばたつかせている。

 どうやら知らないうちに殺気を放っていたらしい。


「アルサス様。いくら愛しの女帝様が…………」


 姉上の影であるジュークが、僕に苦言を口にしようとするが、


「…………いえ、なんでもないです」


 僕が視線を向けたら、サッと視線を逸らし、


「うわぁぁこの人、女帝様より厄介だわ!」


 何かを呟いた。

 まあその呟きは、僕の勇者イヤー(地獄耳)で聞こえてたから、後で物凄く面倒臭くさくて汚れまみれの仕事を与えるとして、


「ア、アルサス君! 先生のお願い聞いて! 今日ぐらいちゃんと授業しないと、先生、給料減らされちゃうの! 給料ないと、来週ある劇団スニャップの講演に行けないの!」


 僕の机のままで来て、本音をぶちまけるミル先生。


(え? 先生って、食費とか仕送りじゃなくて、劇に給料つぎ込んでんの!)

 

 思わず眉を潜めるが、授業中なので叫ばないでもらいたいものだ。

 なので、


「はい先生。スニャップのチケット上げますから、これえで少し静かに授業してくれませんか?」

「え? こ、これは!」


 僕はスニャップの、公開初日プレミアムチケットを二本の指で挟み、彼女の目の前にかざす。

 別に僕が見たかったわけじゃない。

 この劇のスポンサーが、我が侯爵家だっただけだ。


「え? え? これってワイロ? いやいやよおぉぉぉく考えてミル! アルサス君は、いえ、アルサス様は静かな授業をご所望なのよ! それは授業の神髄の一つ。『静かなること風のごとし!』に通じるわ! だからこれはワイロじゃないの! これは日頃から苦労を掛けてるという、アルサス様(清き生徒の善意)なの! だから私は……。これを貰って、静かな授業を目指すわ!」


 どうやら彼女の中で折り合いが取れたようだ。


「分かりましたアルサス君…………いえ、アルサス様!」


 そう言って一礼し、サッと僕の指先からチケットを奪い、


「それでは、静かに! 授業を静かに再開します! 私も喋りませんから、皆も喋らないように!」


 教壇へと戻っていくミル先生。

 その後ろ姿をぼんやり見ながら思う。


 皆、姉上がいないこの状況の危険性を、まったく理解してないのだから!

 っと…………。




 姉上がほぼ一日も僕の前に姿を見せない! ということは…………。


 これはもう我が国の特別重要人物を、彼の国が誘拐したと言って良い。

 この一大事に、何を勘違いしたのか?

 物凄くいろんなことを考えている寡黙な僕に、


「なんだアルサス? いつものお姉様がいなくて淋しいのか? なら仕方ない。俺が一流の画家に描かせた、ミナの姿絵を特別に三秒だけ見せてやろう!」

「ああ! もう! セツナったらそんなの持ってたの? 王族に戻ってなかったら、キモストーカー容疑で牢獄行よ!」

「ミナ……」


 熱っぽい視線で懐から大事そうに一枚の姿絵を取り出すセツナに、酷い事を言いつつまんざらでもない様子のミナ。

 見つめ合う二人が、物凄くうっとおしくて……。


 だから、


「セツナ…………」


 外交用の作った笑みを浮かべ、そっと姿絵に手を伸ばし、


「こんなゴミクズ見せて! 僕の気が晴れると思うのか!」

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 セツナの絶叫と供にその姿絵を、ビリビリと破り捨てた!


「お、おま! なんて……これ、一枚しかないのに……」


 ハラハラと舞い散る紙ふぶきを、悲壮な表情でくずおれたセツナが手を伸ばしながら呟く。

 それに対し僕は、


「ああ。イライラしてやった。もちろん後悔なんてしてない! むしろ少しだけすっきりした気がする!」


 奴の絶望した顔で、多少なりとも落ち着いた。

 だが、まだイラつきを押さえられない僕は、


「今から影全員、不眠不休でロンギヌスへの潜入を敢行しろ!」


「ええ! アルサス様、それは…………」


「なに? 侯爵令息である僕に、なんか文句がある…………」


 無茶な命令に反論しようとする影頭を、僕は権力でねじ伏せようとした。

 刹那。


 パチンッ!


 乾いた音と共に、僕の頬が熱を帯びた。


「え? 君、何してんの?」


 僕の言葉を遮るように放たれた平手は、


「おろおろ。頭に血が上り、アホウな事を言おうとする夫を窘めるのは、妻の務めじゃ!」


 今まで無言を貫いていた、婚約者であるヒルダのものだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

コロナでお家時間が増えているのに、パソコンが立ち上がらないのを理由に、スマホゲームばかりしている今日この頃。

でも、

もうすぐ、

新しいパソコンが・・・・・・。

次回へ続く。


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