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こっそり更新です!
昨日は……確かあの後………………。
何もなかった!?
競技が中止になったあの後、
姉上に全く会ってないのに、今気が付いた!
姉上からのデートの誘いも、
姉上からの夕食の誘いも、
しかも朝まで僕は、ベッドにひとりきりで寝られたのだ!
「いや~~~。今日の夕食はゆっくりご飯が食べられたな~~~」
なんて言ってベッドに入り、闖入者に起こされること無く朝までぐっすり寝ていたのだ!
「どうりで、今日は調子がいいわけだ」
思わず現実逃避気味にうなずく。
いやいや、そんなのんきなこと言ってる場合じゃない!
「今よりこの教室を仮の『姉上を探せ!』作戦本部とする。ジューク! 侯爵家および王家の影を総動員して姉上の動向を探れ! ジオルドとマリアーナは冒険者ギルドで情報収集。セツナとミナは王城へ行って噂話でも何でもいいからかき集めてこい!」
「「了解!」」
「え? 王族の俺がなんでお前……はい! すぐに馬車の手配を……いや、強化魔法使って走って行ってきます!」
ジオルドとマリアーナの軽快な声と、なぜか僕を見ておびえたように走り出すセツナ。
まあ、残った毛根がかろうじて死滅しなくてよかったね! とだけ言っておこう。
そして一時間後。
「おい、それはどう言うことだセツナ!」
ジューク率いる侯爵家の影の部隊と、冒険者ギルドや商会ギルド、暗殺ギルドと王家の影まで総動員して姉上の行方を捜した結果。
セツナがもたらした情報に、反射的に体が動き彼の胸ぐらをつかんだのはしょうがない。
「いや、これは噂だって言っただろ?」
そんな僕に、セツナは僕が知らないことが嬉しいのか?
どこか余裕の笑みを向ける。
正直、イラッときたが、常日頃から冷静沈着が売りの僕は、頬を引きつらせながらも、
「うん。それで、どこから出た噂なのかな?」
彼の髪の毛を一本一本、丁寧に引き抜きながら笑い返した。
「いてっ! いてっ! うん。悪かったって! いくら勇者様だからって王位継承権はまだだけど王族に戻った(はず!)の俺に、それは不敬いや、私が悪うございました! だからやめて! これ以上抜かないで!」
「毛根って一回死んじゃうと、もう毛が生えてこないんだって…………試してみる?」
彼の態度に苛立ちを覚えた僕は、胸ぐらをつかんでいた反対の手で、そっと彼の側頭に触れた。
「お、おい! いくらなんでも、それは……」
王族に復帰できた祝いで、いつに間にか復活したのか?
セツナの護衛騎士オルテガが、僕を止めようとするが、
「ああ?」
「いえ、何でもないです!」
スゴスゴと引き下がった。
まったく、久々の登場だからって、なぜかイライラしてる僕の行動を、邪魔して欲しく無いものだ。
「で? 王城に流れてるって噂の信憑性はどれぐらいだ? …………ですか王子様?」
さっさと真相をつかもうと、にこやかに優しくセツナに問うのだが、
「ひぐっ! ちょ、ちょちょちょ……」
セツナの顔が引きつり、まるで陸に上がった魚のように口をパクパクと痙攣を始めた。
それに、いつも煩いぐらいに賑わってる教室が静まり返ってる気がするが…………多分、きっと気のせいだろう。
「うあっ! 殺気で息が……ちょっと川向うで祖父が手を振ってたわ! いやいや、それより! 俺も王城で流れてる噂を聞いただけで、詳しいことは……」
「はあ? そんな噂だけで、戻って来るんじゃねーよ! さっさと王城の噂を隅から隅まで確かめて来いよ! ちゃんと信憑性がどれぐらいか裏付け取るのも忘れんなよ!」
なぜかイライラしている僕は、力任せに王族であるはずのセツナを廊下に投げ出した。
「止めて! 私のために争わない……いえ、ほんと、調子に乗ってすみませんでした!」
ミナがいつも通りボケをかますが、なぜだか僕が見た途端、背筋を伸ばし九〇度腰を折って失言を詫びてきた。
「え? どうしたのミナ? 僕はいつも通りにツッコミ入れようとしただけなのに?」
「それムリ! そんな今のアルサス様にツッコミ入れられたら、ほんと私、軽く三回死ねるから! マリアーナの治癒間に合わなくて昇天しちゃうから!」
必死な形相で、いつも以上のリアクションをとるミナ。
またっく、大袈裟だな。
そう思う僕にいつもと違って慎重に、ってか、なんだかオドオドしたように近づく影。
「ああああああああの、アルサス様? ちょっと落ち着きましょうか? ね! ね! あ! 魔力回復薬……じゃなくて、美味しい紅茶なんて…………」
「おいおいマリアーナ。そんなこと言われたら、僕が心を乱してるみたいじゃないですか?」
「は、はいぃぃぃぃ! も、もちろんそんなこと無いですよ! いつも冷静沈着なアルサス様のことですから、無用な気遣いと思っているのですが…………」
なんかいつも以上にへりくだった態度のマリアーナが、無理矢理頬を吊り上げて笑う。
「…………ふう。確かに今日の僕は、少しイラついてるかもしれませんが…………それほど態度に出てますか?」
愛想笑いを浮かべながら何気なく手を置いた机が、
バキッ! グシャ!
歪な音を立てて崩れ落ちた。
僕が錯乱して壊した?
いやいや、そんなこと無いよ。
僕はいつだって冷静だよ。
王城で広がってる噂とやらに、まったく心を乱されてないよ。
きっと机に使ってた木が、寿命だったのだろう。
「…………マリアーナ」
「グビグビ! はいただいま!」
慌てて駆け寄るマリアーナに、折れた指の治療を任せる。
それにしても王国の、情報の最先端であるはずの王城の噂には笑える。
一度父に言って、その噂を流した奴らを粛清しなきゃ!
だって、
姉上が、
僕を置いて、
宗教大国ロンギヌスの教皇と結婚するためにロンギヌスに行ったなんて………………。
もしそれが真実なら…………。
かの国は信じられないほどの暴挙にでたのだ。
だって、
ロンギヌス宗教大国の教皇は、
僕の姉上である、
シュタイン王国侯爵令嬢、シルヴァーナ・タリスマンと、
結婚しようとしているのだから!
最後までお読みいただきありがとうございます!